ある日の森の中
ものすごく期間が開いてしまいました。
ギルドを出た後の話です
浅い草が茂る森の中。木々の隙間から光が降りてくる。その風景を見上げながら、リナニエラは周囲を見回した。しんとした空気が流れているのがわかる。
「どうやら、近くに魔物や獣はいないみたいだわ」
平穏な空気を感じ取りながら小さく呟いた後、リナニエラは自分の周囲にいる今日のクエストの同行者を見つめた。明らかに、森に入るのに慣れていない二人と、自分とほぼ同等の力をもった者が一人。普通なら、こんな実力差があるメンバーで依頼をこなす事は無い。
ギルドだって、実力の近い人間とパーティーを組む方が安全という不文律がある。それに、初心者に渡されるリーフレットにも同じ事が書かれている。それを自分達はひっくり返している状態だ。受付の女性がちょっと心配そうだったのも頷ける。
「どうなるのかしら……」
若干の不安は否めない。リナニエラ自身はこの森も採取クエストや、討伐クエストで何度も入って慣れたものだが、他の面々がそうとは限らない。なにせ、学園のグループ分けで決まった即席のパーティなのだから……。
足元を確認しながら、一歩一歩、ゆっくりと歩みを進めて自分達は森の中でも開けた場所まで到着する。
ここは、森に入った冒険者が休息をしたり、野営をする為に作った場所だ。結界石が置かれて、周囲を野生動物や魔獣から守っている。周囲の草の生えた地面とは違って茶色い地面がむき出しになったそこは、あきらかに先ほどまでとは違う空気が漂っているのがわかる。開けたその場所に足を踏み入れると、一緒に行動していた面々からは安堵の空気が漏れた。
「とりあえず、索敵しておくわね」
「助かる」
カインと軽くやり取りをした後リナニエラは周囲に探知魔法を展開させた。キンとした空気が流れた後、周囲にそれが広がっていくのがわかる。それと同時にリナニエラの頭の中には周辺の映像が浮かんでくる。映像といっても具体的な森の風景が浮かぶのではない。頭の中に前世で言う所のレーダー画面のような物が浮かぶのだ。そこに何かがいれば点のような物が浮かぶ状態になるのだ。
一応リナニエラはかなりの広範囲に索敵魔法が展開できる。大規模な魔物の暴走なら、五キロ以上の範囲での索敵が必要だろうが、今日は一キロ程度で良いだろう。
リナニエラが魔法を展開したのとほぼ同じタイミングでカインが残りの二人に目をやった。
「とりえあず、お互いの得意な事を教えて欲しい。この後森を進む時の役割を決めるから」
どうやら、リーダーをカインが引き受けてくれるようだ。元々ソロが多いリナニエラにとっては、人に気を使って調整するのが実は苦手だ。誰かが指示を与えてくれた方が気が楽だった為、カインが率先して引き受けてくれた事はありがたかった。
彼の言葉にリナニエラ達は顔を見合わせて頷いた。
「まあ俺からいくか。俺は剣と攻撃魔法だ。雷魔法が得意だ」
カインが最初に口にすれば、それに倣うように、パトリックが口を開く。
「俺は攻撃魔法全般が得意だ。一応四大属性の攻撃魔法は上級までいける」
そう言うと得意げに胸を反らした彼は、ギルドにやってきた時の、シャツにズボンという恰好に、真っ赤なローブを身に着けていた。そして、腰にはウエストポーチのようなバッグを身に着けている。
あの後ギル後でクエストを登録した後、必要な物をそろえる時に、彼の装備も強化したのだ。目立つ赤いローブはどうかと思ったのだが、派手な火魔法を使うのが好きだともらしていたから、それもありかもしれないし、森の中で間違って他の班の生徒に魔法をくらわされるよりはマシかもしれない。そうリナニエラは思い直す。
『もしかしたら、その赤が原因で森の獣から狙われる可能性もあるかもしれないけどね……』
ただ、心の中でそんな言葉を毒づく事は忘れなかった。
「わ、私は中級までの風魔法と、補助魔法全般が使えます」
続けて貴族科の女子生徒が口にする。どうやら、今日のパーティは魔法に特化している事になる。
『という事は私はアタッカーの方がいいのかな?』
魔法と物理攻撃のバランスを考えれば、魔法と、物理攻撃のバランスは均等の方が良い。攻撃魔法が二人、補助魔法が一人いればパーティの魔法使いとしては十分だろう。
そんな事を頭の中で考えていれば、パトリックがセリアに向かって、バカにしたような顔をした後『フン』と鼻を鳴らした。
「なんだよ。補助魔法なんてつまらない物しか出来ないのかよ」
パトリックの言葉を聞いて、セリアは顔色を悪くして小さくうつむいた。彼女自身も強力な魔法を使えない事にコンプレックスでも覚えていたのだろうか彼女からの反論は無かった。
黙り込んだセリアとパトリックの様子を見つめながらリナニエラは小さく息を吐いた。
『うーん……』
かつて自分が前世でゲームをしたいた時も、最初は火力の強い魔法を重要視していた。だが、実際にゲームで使っていた魔法は強い魔物に相対していた時に使っていたのは、回復、強化魔法や、回避率の上昇といった間接魔法の方が多かった気がする。後になればなるほど攻撃魔法が向こうになる事が多いのだ。あの時どれだけのターンを無駄にしただろう。
思わず遠い目になってしまう。
「あのよろしい?」
挙手して、声をかければパトリックとセリアがこちらを向く。さっきから散々補助魔法について言われているせいか、セリアん目にはうっすらと涙が滲んでいるのが分かった。
「セリア様……」
慰めるように肩を抱いて、背中をポンポンと叩いた後、リナニエラはスッとパトリックへと視線を向けた。目を細めれば、自分の空気に圧されたのだろうか、彼が肩を揺らしたのが分かった。
「な、なんだよ……」
さすがに女子生徒を泣かせた罪悪感はあったのだろう。彼は少しバツが悪そうな顔をして口を開いた。彼の表情を見れば悪い事をしたという自覚はあるようだが、自分がどうして悪いのかまでは分かっていないようだ。
「先輩」
「な、何だ」
無知は罪とはよく言ったものだ。生ぬるく考えながらリナニエラは、パトリックが身に着けているローブに目をやった。
「さっき、先輩が購入したローブですが、こちらには、防御力アップと、回避率アップの補助魔法がかけられています」
先ほど購入したローブに目をやって、リナニエラが言えば、彼は『ああ』というように頷いた。そして、それがどうしたといった様に眉を寄せる。
「もちろん私自身が身に着けているこの服にも防具にも補助魔法はかかっています。それに、戦闘の際に、補助魔法をかけてもらう事で自分達の戦力の底上げもできます」
つらつらと説明をすれば、彼の顔は渋いものに変わった。どうやら、補助魔法イコール攻撃魔法よりも下という考えがまずい事に気が付いたようだ。
「先輩が攻撃魔法が得意なら、補助魔法を付加してもらって、更に魔法の威力を上げる事も出来ます。発動までの時間を短縮する事だって」
「あー! 分かったよ!」
更に説明をしようとしたところで、パトリックの大声が上がった。彼は顔を真っ赤にしながらリナニエラを睨みつけた後、セリアに向かって頭を下げる。
「俺が悪かった! 補助魔法をバカにするような事を言って。勉強不足だった」
半ばやけくそのようにも感じる言葉だったが、彼の言葉に嘘はないらしい。頭を下げたままのパトリックへ目をやった後、リナニエラはセリアをちらりと見た。そうすれば、高位貴族の子息が頭を下げる光景に、セリアは面食らった顔をしていたが慌てた様子で彼を止めにかかる。
「せ、先輩頭を上げてください」
そう言うものの、彼は頭を上げようとしない。困惑した顔をしたセリアを見て、リナニエラはため息を落とした後、頭を下げているパトリックに話しかける。
「先輩、顔を上げてください。頭を下げていてもクエストは終わりませんよ」
我ながらひどい言いぐさだと思うのだが、こう言わなければ彼は顔を上げないだろう。リナニエラの予想通り、彼は勢いよく顔を上げると自分の顔を睨みつけてきた。
「先輩の申し訳ないという気持ちは重々伝わりました。ですが、今はそれが本題ではありません」
淡々と説明すれば、パトリックはぐっと息を飲んだ。それを見ながら、リナニエラは真顔に戻した後、話を続ける。
「で、私の得意な物は特にありません」
「は?」
さらりとそう言えば、パトリックが声を上げた。きっと、彼自身はリナニエラが『魔法』や『剣』といった返事が来ると思っていたのだろう。納得がいかない顔をしているパトリックは口を開こうとするけれども、今まで傍観していたカインが納得したように口を開いた。
「分かった。リエ嬢はオールラウンダーという事だな」
「そう考えていただければ」
断定するような言葉に頷けば、パトリックは納得していない顔をする。何か文句が言いたかったのだろう。パトリックが口を開こうとした時、少し離れた場所からガサガサと下草が擦れるような音がした。
『誰か来る……』
瞬間的にリナニエラの背中に冷たい物が走る。パキリと枝が折れる音がした。
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