表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮神獣Ⅱ~異世界人解放~  作者: じゃっすん
未来を変える者
116/127

ルーファの大冒険

 パカラッパカラッ!


 軽快な地面を蹴る音に、ルーファの意識は覚醒した。

 周りを見渡せはばそこはいつもの自分の部屋ではなく、薄暗く狭い場所。いや、その表現は正しくはない。ルーファは武骨な檻の中に閉じ込められているのだから。


 聞こえてくる音から、ここが魔獣車の中だと推測したルーファは「はて……?」と首を傾げると眠る前の記憶を辿る。


 

 …………




 …………



「あっ!そうだ!ワザと捕まったんだった!」


 ようやく全てを思い出したルーファはジッと檻を見つめる。


 魔法が効かないルーファにとって一番の敵は物理そのもの……即ち、目の前にある檻だ。押しても引いてもびくともせず、〈亜空間〉に移動させようにも中にルーファが入っているためそれも出来ない。

 正に絶体絶命の大ピンチ!……と思いきやルーファは不敵にニヤリと笑う。


 どろ~ん、と子狐へと戻ったルーファは檻の隙間からあっさりと脱出を果たした。

 要は子狐(ルーファ)のサイズに対し、檻が大きすぎたのだ。ルーファを閉じ込めるために必要な物は、虫かごか鳥かごである。

 張られていた隔離魔法も華麗にスルーし、魔獣車の隙間を縫って外へと出たルーファは、去り行く魔獣車を見送りながら前足を振った。 

 

『さ!シリカへ急ぐんだぞ』


 気合を入れ直したルーファが鬱蒼(うっそう)とした森へ足を踏み入れると同時に、その声は届いた。


【ルーファ!ルーファ!!何処にいる!?】


 それは聞き慣れている筈のロキの声。

 だが……胸を締め付けられるほどの悲痛に満ちた声音は、いつもの優しいロキとは別人だ。まあ、優しいのはルーファ限定でだが。


【ロキ!オレは無事なんだぞ!ちょっと用事があってシリカまで行ってくるけど、心配しないで!】


 ルーファが返事を返すが……


【ルーファ!ルーファァァァ!!】


 全くと言っていいほど通じてはいない。

 クワッと目を開いたルーファは、魔力を練り上げると渾身の力で叫ぶ!


【ロキー!ロキーーーーーーー!!!】

【頼む!返事をしてくれっ!!】


【あー!あー!テスト!テスト!】

【オレを置いて行くなっ!ルーファァァァ!!】


【オっレは~♪シリカへ~♪おっ出かっけ中ぅ~♪】

【……殺す殺す。オレからルーファを奪ったニンゲンめ!!】


 温度差が激しい1人と1匹。だが……ルーファは至って真面目である。


『う~ん、どうしよう。あっ!そうだ!』


 完璧なる解決策を思い付いたルーファは、道すがら神樹の葉を置いて行く。これで自分の居場所がロキに通じる筈だ。

 ふんふん♪と上機嫌に鼻歌を歌い始めたルーファは気付かない。この後、風に飛ばされた神樹の葉がロキの捜査をかく乱することに。


  



 ――2時間後。


『つ、疲れたんだぞ』


 そう呟き茂みの中に座り込んだルーファは、〈亜空間〉からチョコレートを取り出すとモシャモシャと頬張る。


『これが最後の1つ……』


 僅かに躊躇(ためら)った後、ルーファは味わいながらそれを飲み込んだ。ちなみに、なくても全く問題などなく、強いて言えばテンションが下がることぐらいだろうか。


 ()()()の休憩を終えたルーファが周りを見渡せば、未だに鬱蒼(うっそう)とした代わり映えのない森の中。ちゃんと進んでいるかどうかさえ疑問なところだ。


『ちょっと上から確認してみようかな……』


 それまで地面すれすれを低空飛行していたルーファは、上へ向かって進路を取った。

 枝と枝の間をすり抜けたルーファが見たのは、澄みきった青い空と……でっかい鳥の足。


『ひょえええええ!』


 間一髪!結界がルーファの身体を覆うが……結界共々捕らえられ、そのまま巨鳥に運ばれていく。



 ――バサッバサッ!



 足下を流れる樹海はまるで深緑の海。

 ふわふわと漂う雲は手を伸ばせば掴めそうなほど近く、太陽の光はいつもより眩しくルーファを照らし出す。遥か遠くに見える迫力のある切り立った断崖は、世の登山家たちを魅了することだろう……魔物さえいなければ。


『ふふふっ、素晴らしい光景なんだぞ』


 現実逃避をするルーファは段々と近付いてくる断崖に虚ろな眼差しを向ける。ルーファの視線の先には、巨大な巣の中で餌を求めて鳴くヒナたちがいた。

 ルーファが正気に返る間もなく、そのまま高度を下げた巨鳥はヒナの口の中へとルーファを投げ入れた。


『あんぎゃああああ!お助けえ!』


 思わず目を瞑ったルーファだったが、想像したような衝撃が何1つ襲ってこないことに疑問を抱く。

 もしかして即死だったのだろうか?不吉な予感に思い切って目を見開けば、ルーファはヒナの喉につっかえていた……どうやら結界が大きすぎて飲み込めないようだ。


『これはっ!チャーンス!!』


 ササッと結界を消したルーファはそのまま口の中から飛び出すと、崖を垂直に駆け上がった。





『ふぅ。酷い目に遭ったんだぞ。危うく鳥さんのおう〇ちになるところだったんだぞ』


 空は思っている以上に危険が一杯だ。

 ここは慎重に地上を行くべきだろう、と小心者なルーファは心に決める。


『まずは甘いものを食べて心を落ち着け……あー!さっきのチョコが最後だったんだぞ!』


 残念ながらチョコは既にお腹の中。しょんぼりと尻尾を垂らしたルーファだったが、その直後勢いよく後ろを振り返った。

 ルーファの欲望センサーが囁いたのだ……こっちに甘いものがある、と。


 当初の目的は星の彼方。

 ルーファは欲望に従い行動を開始した。


『この先なんだぞ』 

 

 ヒクヒクと鼻を動かしながらルーファが木陰からそっと顔を覗かせれば、そこにあるのは巨大な蜂の巣。

 周りには1メートルを越える蜂たちがブンブンと飛び回っていた。


『ハチの巣と言えばハチミツ!!』


 じゅるり、と涎を滴らせたルーファは空を見上げる。

 時刻は既に夕闇に差し掛かり、太陽は程なくその姿を完全に隠すだろう。

 ルーファはその場にしゃがみ込むと、蜂が眠るのを待つことにした。



 ぺろぺろ……んぐんぐ



 暗い蜂の巣の中、活発に動き回る影が1つ……言わずもがなルーファである。

 意地汚さを遺憾(いかん)なく発揮したルーファは、これでもかというほどハチミツを食いまくっていた。


『ふぅ~、お腹一杯なんだぞ』


 ゴロンと寝転がったルーファのお腹は普段の数倍にまで膨れ上がり、とてもではないが動けそうではない。そしてお腹が一杯になれば眠くなるのが自然の摂理というもの。

 ウトウトと目を閉じたルーファは、眠りの海に沈んでいく……






『ハッ!』


 魔物の巣の中で爆睡すると言う前代未聞の暴挙をやらかしたルーファは、恐る恐る周りを見回すが……幸運なことに蜂たちは未だ夢の中。ルーファはソロリソロリと移動を開始した。


 巣の中を移動すること(しば)し、ようやく出口が見えてくる。

 ホッとしたのも束の間、ギャオーギャオーと鳴く怪鳥の声が(にぎ)やかな朝の訪れを強固に主張し、もぞもぞと動き始めた蜂たちの目が侵入者(ルーファ)へと向く。


『お邪魔しました~』


 そう言って何食わぬ顔で外へ出たルーファの背後から聞こえるのは、カチカチ!カチカチ!という威嚇音。ギギギ……とゼンマイ仕掛けの人形の如く振り返ったルーファの目に、憤怒に駆られた蜂の群れが映った。


『ヒィィィィ!全部食べてないから!残してあるから!』


 そんな言い訳が通用するはずもなく、ロケットの如く飛んできた蜂の針がルーファを貫いた。


『がっ……はっ!』


 防御することすら許されず、地面に張り付けられたルーファの姿はまるで虫の標本。ただもがくことしか出来ない、死を待つだけの哀れな獲物だ。

 それでも生きようともがくルーファへと放たれた数多(あまた)の針が、大地を樹木を……そしてルーファを粉砕した。


 針山へと姿を変えたその地に、以前の面影は何もない。ただ、赤い色だけがその場を飾る。それは……かつてルーファであったモノ。貫かれ、引き裂かれ、押し潰された、小さな小さな肉塊だ。


 それを見届けた蜂たちは巣の中へ帰って……


『ふわぁ、ビックリした……ん?』


 ムクリ、と起き上がったルーファと立ち去ろうとしていた蜂の目があう。


『いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ!』


 死なないルーファと執念深い蜂の不毛なる鬼ごっこが始まった。


 茂みや木の根の隙間を巧みに利用してちょこまかと逃げるルーファに対し、蜂は圧倒的な数と針による物理攻撃。ルーファにとっては一撃一撃が致死の攻撃だ。

 それでもルーファがギリギリを潜り抜けているのは、結界を巧みに使って針の軌道を逸らせているためだ。その技はかつてミーナが敵との戦いで見せたもの。


 攻撃にスピードが乗れば結界は意味をなさず、正面から受け止めてもそれは同じ。

 タイミングと角度を調節することで敵の攻撃を逸らせる……言葉で言うのは簡単だが、実際は熟練の魔法士ですら失敗するほどの高難易度な技だ。この極限の状況がルーファの魔法操作技術を磨いたのだ。


 だが……ルーファの体力は既に限界を超え、いつ力尽きてもおかしくはない。

 必死に足を動かすルーファの目が草原を捉えたのはそんな時だ。

 そこは人の膝丈ほどの草が生えそろい、ルーファの身体など簡単に隠してしまうだろう。最後の力を振り絞り、ルーファは草原へとスピードを上げた。

 

『セーフゥゥゥゥ……う!?』


 草原へと滑り込んだルーファは……開いていた深い穴にそのまま落っこちた。


『ううう……今日は厄日なんだぞ』


 起き上がったルーファが上空を見れば、未だブンブンという音が聞こえてくる。しばらくはここに身を隠す方が安全だろう。

 警戒心の塊と化したルーファが真っ暗な穴の中を見回せば、そこは地底型迷宮のような道が左右に繋がっていた。まあ、左右とは言っても別に道が別れているわけではなく、一本道の半ばにルーファが落ちただけなのだが。 


 特に何もいないことにホッとしたルーファはその場にへたり込むと、大きく欠伸をもらす。


『今日はここで休もっと』


 徹夜で働いた(?)のだ。今日1日休んだところで罰は当たらないだろう。そう思ったルーファはそっとその目を閉じた。



 …………ギチっ



 微かに聞こえたその音にルーファの目がパッチリと開き、ピリピリとした空気が肌に突き刺さる。

 それは“殺気”と言うほど強いものではなく、かと言って「ただ見られているだけ」といった生温いものでもない……獲物を捉えた捕食者の死線(まなざし)だ。


 息をひそめるルーファの目に1つ2つと明かりが灯る。

 通路一面に広がっていく赤い光は、まるで地底に輝く星の運河。ただしそれは血を思わせる濁った赤色だ。


 ルーファはただ震えながらソレを見つめた――幾千幾万という蟻の大群を。

 無機質な赤い眼はただただ侵入者を殺すことだけを考え、そこには一片の感情すら浮かんではいない。



 ――大喰蟻



 それは僅か一夜で小国を滅ぼした魔物の名。

 単体ではCランクに過ぎないこの魔物だが、群体ではSランク……準竜種級の魔物となる。

 ルーファが落ちた地下道は、大喰蟻の居城だったのだ。

 

(動け!動け!!動け!!!)


 震える足を叱咤し逃走を開始したルーファの背後からは、ギチギチという鳴き声が迫りくる。それは間違いなく死の足音。ルーファを殺すためのカウントダウンだ。

 

(ここまでか……)


 芽生えた諦めの心は、けれども一瞬で消え失せる。ルーファは未だ忘れてはいない。いや、どうして忘れることが出来ようか……自分のために命を懸けた友人(フェン)の存在を。

 そして何よりルーファは多くの人を助けるために、今ここにいる。ここで諦めるぐらいなら、端からこの場にいるものか。



 ……ドドドドド



 微かに聞こえてきたその音と共に、ルーファの鼻が水の匂いを嗅ぎ分ける。

 徐々に激しさを増していく轟音(ごうおん)はやがて辺りを埋めつくし、あれだけ(わずら)わしかった蟻の音すら掻き消した。

 常人であれば絶望をもたらすその音は、ルーファにとっての希望の音。



 ――地下水脈



 山頂から遥か海の彼方まで続き、滝のように猛々しく……そして岩をも砕く激流だ。飲み込まれればルーファの小さな身体など、あっという間に引き千切られることだろう。


 一度後ろを振り返ったルーファは、躊躇(ためら)うことなく地下水脈へとダイブした。



 



 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ