表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を詠う慈悲の魔女  作者: 『H∀Qqy∃ИD』
12/32

帰り道

太陽が登り始めた頃。

二人の少女は、街への道を歩いていた。


「……お姉ちゃん」

「何かしら?」

細目の少女が、もう一人に話しかける。ヴェルニスだった。


「……ごめん」

そう言って、少し俯く。

「なんで謝るの?」

「私、お姉ちゃんのこと何も知らなかった。あんな傷ついてるなんて、思わなかった」

「それは……」

「ずっと一人で抱えてたの。これ以上お姉ちゃんを心配させたくなくて。悲しい、辛いって言えなかったの」

「ヴェルニス……」

二人の距離は、確実に縮まっていた。裏路地を生き抜いていた、一日前よりずっと。


「……ねえ、お姉ちゃん」

顔を上げ、ニーミアへ向く。


「私達……楽になっても、いいのかな」


「……そうね。」

ニーミアが空を見上げる。

「私もあなたも、少し背負いすぎてたのかも。ちゃんと話すべきかもしれなかったわね」

「……うん」

「あのアルマさんって人、なんだか不思議な感じだったわね。話してると落ち着く。また行きましょ?」

「……うんっ!」

二人で顔を見合わせ笑い合う。

こうして笑ったのは、数年ぶりな気がした。



しかし。

街の前まで来たところで、その笑顔は消える。


「あら」

「「あっ……!!」」

山道の終点、街の入り口に一人の人間が立っていた。

肩まで伸びた黒髪。紫色の目。

ガッシリとした体躯。その筋肉質な見た目を、二人はどこかで見覚えがあった。


「お姉ちゃんっ……!」

最初に行動したのはヴェルニスだった。

「えっ?」

「早くっ……!」

困惑するニーミアの手を引き、山へ戻ろうとする。



「まあまあ、落ち着きなさい♪」

だが逃げる道は、既に無かった。

先程まで街の入り口にいたはずの人間が、気付くと山の入り口に立っていたのだ。

「は……?」

「ウフフ、観念しなさい♪」

そう言って不敵な笑みを浮かべ、二人へ近付いていく。


(……何、今の)

ヴェルニスの横で、ニーミアは一部始終を見ていた。

ヴェルニスが振り向くまでの一瞬の間で__アイツは移動した。街の入り口から山の入り口まで数十メートル。それを一瞬で。

辛うじて残像は見えたが、しかし、そんな速度で動ける人間がいる訳__

(とにかく、このままだとマズい)

ニーミアは、何とか打開策を考える。……だがこんな状況で、しかもヴェルニスと二人で、こんな化物を出し抜けるのか?

額から冷や汗が流れ落ちる__


だが、これで終わりではない。

相手の次の言葉で、ニーミアは更に混乱することになる。


「別に逃げることないじゃない? どうせ『根絶対象血族スクラップ』って、普通には街に入れないでしょう?」

「な……何で!?」

驚きのあまり目を見開く。



自分たちが根絶対象血族スクラップだということは、街では隠して生きている。

ヴェルニスは姿を隠し、ニーミアは身分を偽装して。

そのため他人が自分たちの素性を知ることは無いと思っていた。事実、今まで気づかれたことはない。

だが目の前の相手は、それを知っている。

(これは一筋縄どころか……死ぬの覚悟しないといけないかも。)


そもそも根絶対象血族スクラップとは会長御指名の、所謂お尋ね者。

街の人間は、ソレを見つけたら殺す義務がある。つまり目の前の人間は、ニーミア達を殺そうとしていることになる。

おまけにこの体格差、この状況だ。


相手はいつでもこちらを殺せるし、私達は逃げられない。

だが相手は仕掛けてこない。


そう、仕掛けてこないのだ。


第一もし相手が私達を殺す気なら、不意打ちでも何でもできるはずだ。

というより今この瞬間、いつでも手を下せる。

(あんな身体能力があるのに……どうして?)

ニーミアは考える。そして__



「……奴隷、かしら?」

一つの結論を出す。


「……ん? どういうことかしら?」

「私達が根絶対象血族スクラップだということを知って、あなたは私達の前に立ってる。でも、私達を殺そうとはしない。つまり考えられることは……私達を、奴隷にしたいんじゃないかしら?」

そう。

根絶対象血族スクラップと言えど、誰かの庇護があれば生きていける。

だが根絶対象血族(スクラップ)になってしまったのには、相応の理由があるというものだ。そんな者を庇護しようものなら、その人も根絶対象血族スクラップに指名されかねない。


だが、唯一なんのデメリットも被らず庇護する方法がある。


『奴隷』

家畜以下の存在。


相手は黙って聞いていた。

「ええ、適役でしょうね。根絶対象血族スクラップに奴隷。事実、私達はあなたに逆らえないでしょう。地位的にも、身体的にも。あなたのチェックメイトよ……でもね」


そこまで言うと、ヴェルニスを庇うように前へ出る。

「この子だけは逃してくれないかしら?」

「お、お姉ちゃん!?」

ヴェルニスが驚き前に出ようとするが、それを静止する。


ヴェルニスは、今まで唯一の味方だった。ずっと社会の裏に取り残され、哀しい思いをしてきた。

だからせめて……自分が犠牲になってでも、逃したい。

「きっとこの子、あまり言うことを聞かないわ。あなたの機嫌を損ねるだけ。逆に私は言うことを聞くし、なんだってする。だから……」

そこまで言って、相手の前に出る。


そして地面に膝を付き、手を付け__

「……お願いします。私だけに、してください」

土下座した。

ひょっとしなくても、初めての土下座だった。


地面に擦れ、学校の白い制服が汚れる。

(……あはは、ヴェルニスと同じだ。)

心の中で自嘲する。同時に、少しだけ寂しくなる。

あぁ、ヴェルニスはいつもこうして汚れてたんだなぁ、と。

こんなに、辛い思いをしていたんだなぁと__



「駄目よ?」


その反応。

その言葉。

「……え?」

有り得ないというような顔で、相手の顔を見上げる。

「大体ね、そこまで考えたら気づくはずよ? 根絶対象血族スクラップに決定権は無いってこと。」

「あ……」

大きく目を見開く。


そうだ。

当たり前だ。

奴隷が適役な存在に、決定権なんて存在しない。


ヴェルニスを逃がす手段は__無い。

それに気付いた途端ニーミアは立ち上がり、ヴェルニスを押しのける。

「ヴェルニス、下がって!!」

「わっ……」

後ろでどうすることもできず、ヴェルニスが立ち尽くす。


一触即発。

そんな言葉が似合う空気が、辺りを覆う……

だがそんな空気もお構いなしに相手が話す。

「まぁまぁ、警戒しないで……」


そして、同時に戦闘開始の引き金となった。


「よっ!!!」

言い終わるより前に、相手が前へ出る。


「わっ!?」

「ひゃっ……!」

それは、一瞬の出来事だった。気がつくと二人は、相手にヒョイと持ち上げられていたのだ。

「わっ……は、離して!」

ニーミアがジタバタと暴れる。だが襟の後ろをガッシリ掴まれており、逃げることができない。

こうして二人は、アッサリと捕まえられてしまった。


「確保確保〜♪ あなた達、中々すばしっこいのね〜」

機嫌よく相手が言う。ニーミア達二人を掴み上げていることも相まって、その光景は異様だった。

「……ねえ、私達をどうするつもり?」

「あら、さっき自分で推理してたじゃない。」

「それは……」

「まあ、安心して頂戴。どうせあなた達に決定権は無いから……ね♪」

「…………」

ニーミアを見つめ、不敵な笑みを浮かべる。

それは二人を捕まえたことへの喜び……というより、ニーミアの暗い表情を見て()()()()()()ようだった。

「……ごめん、ヴェルニス」

「お姉ちゃん?」

「妹の一人も守れなくて……ごめん。本当に、ごめん……」

そう言ったきり、ニーミアは俯く。


やっと頼れる存在ができたと思った。

フェリスという少女と仲のいい、あの不思議な人。

アルマ、だっけ。私達を根絶対象血族スクラップだと知ってなお優しくしてくれた。

彼女となら、仲良くなれると思った。

思った。けれど、私達はここで終わ__



「……いや、まぁ、違うのよ?」



物凄く自然に、息をするように相手が言い放つ。

「……は?」

「いやね、盛り上がってるところ悪いんだけど……あなたの言ってること、全っっっ然違ったわよ?」

ポカンとするニーミア。『違う』の意味が分からなかった。


「だーかーらー! あなた達を奴隷にしようなんて、これっぽっちも考えてなかったのよ!! ただちょっと協力してほしいことがあったの!!」

キレ気味に叫びながら、ニーミア達二人を下ろす。

「……は?」

「でもあなた達、パニクってたでしょ? ああしないと落ち着かないかなーって思ったのよ。だから私に敵意は無・い・の♪」

その言葉に驚き、ニーミアは相手の顔を見る。相手は……やはり不敵な笑みを浮かべており、何を考えているのか分からない。

というより、ニーミア達二人が混乱してるのを見て愉しんでいるようにすら見える。


いや。

本当に、()()()()()()()()()()



ニーミアの服を払いながら話し続ける。

「ほら、汚れるわよ?」

「あ……えっと……」

「ほらもぅ、こんなに泥だらけじゃな〜い。勿体無いわ~」

根絶対象血族スクラップに対する態度とは思えない行動に、ニーミアは戸惑うしかなかった。


そして。

相手の次の言葉に、二人は余計に困惑することになるのだが……それはまた別の話。

今は一旦、視点をアルマへ戻すことにしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ