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世界を詠う慈悲の魔女  作者: 『H∀Qqy∃ИD』
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11/32

姉妹の沈黙

辺りを沈黙が占領している。横に並んで二人、少女が机に向かって座っていた。

目の前には二つのティーカップ。

そして、向かい合うように一人の少女。


「あのー……飲んでもいいんだよ?」

二人を前にしてアルマが口を開く。

だが二人は、アルマの言葉を聞いても全く動かない。

「えーっと、その、」

「「…………」」

「あなたたちはどこから来たの?」

「「…………」」

「なんで、私の家の中にいたのかな?」

「「…………」」

「……あの、聞こえてる?」

「「…………」」


何を聞いても、二人の少女は微動だにしない。

(うーん、どうしよう)

アルマも困り果ててしまい、再び沈黙が漂う。


だが意外にも、最初に沈黙を破ったのは___

「……アルマさん、だっけ」

二人の少女の内の、一人だった。

「え、うん」

「フェリスさんと仲いいの?」

「ん、フェリスのこと知ってるの?」

アルマの問には答えず、話を続ける。

「フェリスさんのお父さんがどんな人か、知ってるの?」

「え、街の偉い人だって聞いたことあるけど……」

「そんなことは___」

そこまで言いかけた時だった。


『ガタン!』という音を立て、椅子が倒れる。もう一人の少女が席を立ったのだ。

「偉いわけない!!」

そしてアルマの元までズカズカ歩いていき、胸ぐらを掴み上げた。

「わっ!?」

「あいつの親が! あいつが! 許されていいと思ってるの!? 私達の未来を奪ったあいつを!?」

「__ヴェルニス、落ち着いて」

もう一人の少女も立ち上がり、ヴェルニスと呼んだ少女を引き剥がす。


何が起こったのか、何を言われたのか分からないアルマはポカンと立ち尽くす。

「ごめんなさい。この子ちょっと訳アリで。別に、特別アルマさんを恨んでるわけじゃないの」

「えっと、うん。大丈夫」

落ち着いた後、三人は再び椅子に腰掛ける。

その後の会話は意外とスムーズに進んだ。



「あなた、名前は?」

「私はニーミアで、こっちはヴェルニス。立場以外は、その変の子供と変わらないわ」

少女__ニーミアは、自分のもう一人の名前を伝える。

先程アルマへ掴みかかったヴェルニスは、肩までの茶髪に薄汚れた白の服、スカート。

ニーミアは逆に、整った白の服にスカート。髪色は同じく茶色。長さは、肩より少し長いくらいだった。

「立場……?」

「ええ。私達の兄が昔、『根絶対象血族(スクラップ)』に選ばれたの」

「スクラ……何?」

聞き慣れない言葉に、アルマが聞き返す。


だがニーミアが始めたのは、恐ろしい解説だった。

「『根絶対象血族(スクラップ)』、市民間で使われてる隠語よ。会長が血族を選択して押してくる烙印。この肩書がある限り、本人とその家族は人権を失う」

「え゛っ」

「まあ人権を失うっていうのは言いすぎかもしれないけど……つまり、社会的に死ぬってことね」

信じられない言葉を聞いた気がして、変な声を出したアルマ。

「そんなことされて生きてけるの?」

「生きれるわけ無いじゃない」

これまたサラリと、残酷なことを口にする。

「だから、直接その烙印を押された兄は死んだわ。両親も自殺。この子は隠れてて、私は地位を偽装して生きてるわ」

「死……!?」

言葉の大半は理解できなかったが、しかし衝撃の言葉に口を押さえる。


「まあ要は、私達は追われてる身なの。……笑えるわよね。お嬢様学校生徒から一転お尋ね者なんて。」

「なんで、そんなことに……」

「そこで、さっきの話が出てくるのよ」

「え?」

首を傾げるアルマに、ニーミアが訊く。

「アルマさん、あの子と仲がいいの?」

「え、うん」

「あの子のお父さんのことを知ってて?」

「それとこれとは関係が__」

アルマが言いかけた時だった。ニーミアとは別の方向から声がする。


「関係ある!!」

『ガタン!』と聞いたことのある音がした。

アルマの言葉を止めたのはヴェルニスだった。


「ヴェルニス、落ち着いて。ゆっくり話しましょう」

ニーミアが宥めると、ヴェルニスは椅子に座り……しかし、興奮気味に話す。

「__あの子とあの子のお父さんは、切っても切れない関係よ」

「どういうこと?」

今度はヴェルニスが話し始める。ニーミアと違って細目の彼女は、アルマを睨んでいるように見えた。

「あの子と関わると皆、酷い目に遭う。スクラップにされて殺される!!」

「そんなこと__!?」

「……そんなことあるから、困ってるのよ」

ヴェルニスとは反対に、ニーミアが落ち着いて説明する。


「会長、ずっとあの子のこと気にしてるのよ。あと思い込みが激しいの。あの子に近寄る輩、みんな邪魔だと思ってるのよ。」

その説明にアルマが絶句してしまう。

「だから別に、あの子は悪くないわ。結果的に恨んでるだけ」

「で、でも。そんなの__」

「ふふ、それこそ笑っちゃうわよね。罪のない子を恨ませてるのが、あろうことかその子の親だなんて」

「それは……」

「会長にとって、一番大事なのは自分の地位だもの。あの子がどう思われたって、きっと気にしないわ」

何か言い返そうとするが、言葉が出ない。そのままアルマは黙ってしまう。


「……ねえ、アルマだっけ」

次に口を開いたのは、ヴェルニスだった。

「なんで庇うの?」

「え……か、庇う?」

アルマの方へ視線を向ける。

ただ目を向けただけだろうが、細目のせいで常に睨んでいるように見えた。

「会長がどれだけ最低なのか知ってるでしょ?」

「そ、そんなこと……!」

「ほら、またそうやって庇うっ!」

鋭い目つきでアルマを見る。今度はしっかりと睨んでいた。


「あんなやつ庇う必要ないよ。皆あいつのこと恨んでるんだよ? それなのに、アルマはあいつの味方するの?」

「み、味方って。私は別にそんなこと……」

「じゃあ、庇う必要ないよね? あんなやつ死ねばいいよね?」

「それはない! 死ねばいいなんて言っちゃ駄目!」

「意味わかんない! あいつなんて死ぬべきだ!」

「それは駄目!」

「あいつなんて……エグッ、死んじゃえば……グスッ、うう……」

感情が高ぶりすぎて、ヴェルニスが泣き出してしまう。


「……そんなに酷いの?」

ヴェルニスが落ち着くまで、ニーミアと話を続けることにする。

「酷いなんてもんじゃない。私達にとって、会長は悪魔みたいなものよ」

「ズビッ……っていうかさ、アルマ?」

鼻水をすすりながらだが、ヴェルニスがアルマへ問いかける。


「アルマ、なんで会長知らないの?」


「えっ……」

「この街の人ならさ、会長のこと、みんな知ってるはずだよ? なんで知らないの?」

「え、えーっと」

これは困った。

相手はフェリスではない。というかフェリスであっても、『魔女だから』なんて言えない。

あくまでフェリスには、『科学者』だと伝えているのだ。

もしフェリスが魔女を赦してたとしても……万が一、ということがあるかもしれない。


そんなアルマに、妙案が思い浮かぶ。

「……私も昔、その『根絶対象血族(スクラップ)』ってやつにされたの。」

「えっ……?」

大きく頷いて、アルマは続ける。

「ちょっぴり危ない研究をしててね。ほら、この山奥なら誰にも迷惑かけず、研究に打ち込めるでしょ?」


よし、うまく話がついた。

心の中で、アルマはガッツポーズする。


「それで長い間研究してたら、その人のこと忘れちゃってた。そんな人もいたなーアハハー__」

後はなんとか惚けたふりをして誤魔化す。

完璧だ。


「……アルマって、変だね」

「ええっ!?」

話を聞いたヴェルニスは笑い出す。

「アイツのこと忘れるなんて、そんなに大事な研究なの? こんな山奥で? アルマって凄いなぁ」

「凄い、のかな。あはは」

褒められ(?)、アルマは少しだけ笑う。


「……ねえ、何の研究をしてるの?」

ニーミアが話に入る。その瞳の奥には、鈍い光を秘めているように見える。

「そんなに没頭できる研究。私、知りたいわ」

「えっと、過去に関する研究」

これまた、用意しておいた返答をする。

「過去? 歴史とかかしら?」

「ううん。タイムトラベルとか、そんな話」

「あぁ、なるほど……」

頷き、ニーミアが考え込む。


その表情は真剣そのもの……というより、無感情に近い。

「ニーミア?」

「……もし私が過去に行ったら。きっと兄を止めるわ」

その言葉に、隣のヴェルニスがピクリと反応する。


「もし出来るならもっと過去に行って、今の会長をなんとかするかも。そうすれば今こんなことにはならないし」

笑顔で、ニーミアが語り出す。

何かおかしい。それに気付いたアルマは話を止め、観察に徹する。

「お、お姉ちゃん……止めて。そんな風に言わないで」

「みんな幸せになれるわ。私も、ヴェルニスも、お母さんもお父さんもお兄ちゃんも……皆、幸せになれればいいのに」

幸せに、幸せに、幸せに。

何度も同じ言葉を繰り返し、笑い出すニーミア。見た目こそ変わらないが、一種のタ(・)ガ(・)が外れているように、アルマの目には写った。


「……ヴェルニス、これって?」

横の__何故か怯えきった様子のヴェルニスに訊く。

「ニーミア、だっけ? どうしたの、様子が変だけど……」

「……たまに、こうなるの」

絞り出すように、喉から声を発する。。

「たまにこうなるの。お兄ちゃん、お父さん、お母さん、幸せって……いつも、しばらくしたら戻るんだけど……」

そこまで言って、ニーミアを見ないように目を逸らす。


一人で喋り、笑い続けるニーミア。

その様子はまるで、腫れ物を覆っているような。なにかを忘れたくて、そうしているような__



(あ、そっか)

アルマは思う。

フェリスから言われた、独り言が口から出ないように。

(この子は傷ついてるんだ。壊れそうなくらい)


よく考えてみたら分かることだった。

フェリスと同じくらいの歳の子が、兄と両親を失って平気なわけがない。平静を偽ってたんだ。

唯一残った妹から心配されないように。

周りから『根絶対象血族(スクラップ)』だと疑われないために。


少しの間、考える。

アルマが彼女にできることは。

ずっと、孤独だった少女にできることは__



「ハハ、ハハハ……?」


壊れたように笑っていた、ニーミアの声が途切れた。


そして、目に光が灯る。

鈍い光ではない。先程までの落ち着いた瞳。

「大丈夫」

アルマの腕の中で、ニーミアは首を傾げる。

いつの間にか、アルマの胸の中にいた。


「お疲れ様。これまで、大変だったよね」

そっと、ニーミアの頭を撫でる。

「大丈夫。あなたは一人じゃないよ」

フェリスがそうしてくれたように。

「……私でよければ、いつでも相手になる。ここにも、好きなときに来たらいい」


フェリスから、一人じゃないと言われた瞬間__

アルマは嬉しかった。

初めて孤独から開放された気がした。


孤独者の気持ちは、少しなら分かっているつもりだった。自分がそうだから。

だから、孤独者が求める物も理解していた。

だから少しでも孤独者の、ニーミアの心の支えになれたら__


優しすぎる魔女は、そう考えた。



ニーミアから、言葉は出てこなかった。


代わりに出てきたのは嗚咽だった。


やっぱり本人にも涙の理由は分からないようで、しかし、止められなかった。

そんな彼女を支えるよう、アルマはより一層強く抱きしめる。



アルマには分からない。

ニーミアが、今までどれだけ酷い目に遭ってきたか。

どれだけ辛い思いをしてきたのか。想像することもできない。


だが、涙の意味だけは分かった。

それだけは、アルマにも共通するものがあったから。



※原因不明のエラーが発生※



※原因不明のエラーが発生※



※無数のアノマリーを観測※



※自動バックアップを行えません※



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