表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/45

第29話 帰還

辺りを見回してもエイリッヒが座らされていた椅子以外に何もない。

粗末な椅子だけど女性を立たせているよりはましか。

「サシャ嬢、座り心地は良くなさそうですがどうぞお座りください」

手を取ってサシャ嬢を椅子に座らせる。

「ルーファスはどうしていますか?」

もう一人の僕の大切な人。大切な家族。義弟。

「ルーファス様はトランドラッド公爵邸でルーベルト様のお帰りをお待ちし毎日泣き暮らしておりますわ。ルーベルト様も…本当に大丈夫ですの?こんなところに何日も拘留されていて、大丈夫ではありませんよね。申し訳ありません」

先程までの恐怖を思い出したのか震えてきたサシャ嬢を宥める。

「大丈夫ですよ。僕は意外と図太いんです!それに、サシャ嬢こそルーファスの面倒を見ていただいてありがとうございます。それにこんな危険な目に合わせてしまい本当に申し訳ありません」

頭を下げる僕にルーベルトが呆れた声でため息を吐く。

『本当にな。それから、公爵たるもの軽々しく頭を下げるな』

ルーベルトは黙ってて!

さて、これからどうしよう。

エイリッヒの身も心配だ。

『そうだな。いくらあいつが図太くても多勢に無勢だろう。今頃どうしているか…』

ルーベルトもさすがにエイリッヒの身は心配みたいだ。

『当たり前だろう。しかし、奴も安易に囚われるはずはない。何か転機があるやもしれん』

そうだよね、エイリッヒのことだもん。

大丈夫だよ、きっと。

エイリッヒにはエイリッヒの役目があるって言っていたし、なんのことかは分からないけれどそれまでは生かされているはずだ。

それに、フロー。

彼の真意を知りたい。

優しくしてみせたかと思いきや僕達をナイフで脅したりエイリッヒに暴行をしたり、フロー、僕は君を信じていいんだよね?

ううん。信じるって決めたんだ。

僕だけは最後までフローを信じたい。

『お前如きに信じられても現状を考えろ。やはり奴は信頼に値する人間ではない』

そんなことはない。

フローを信じる。それが僕、悪逆貴族ルーベルト•トランドラッドの悪逆の悪逆。

「サシャ嬢。これからどうなるかは分かりませんが、貴方の身は僕が必ず守ります」

「ルーベルト様…。ありがとうございます」

『他所でやれ!』

僕がルーベルトなんだから無理なんだって。


それから数時間が経ち、緊張も解けてきた頃再び扉が開いた。

フローではない男。

「二人とも、こっちへ来い」

そのまま連れて行かれると、外に出された。

周囲には貧民街の住人と分かる人々が取り囲んでいる。

みんな物凄い顔でこちらを見ている。

「悪逆貴族、ルーベルト•トランドラッドを捕まえた。これは粛清である」

男が叫び力強く前髪を掴まれて顔を上げさせられる。

目の前には自分を憎む民衆。

『ここまでとはな』

そんなことないよ、ルーベルト。

奥の方、この騒ぎに怯えているのは僕達が通った孤児院の子供達だ。

「これは…」

「お前の処刑だ。悪逆貴族のルーベルト•トランドラッド。お前のせいで苦しんだ民衆に囲まれて命尽きよ!」

男の手にはナイフがある。

あんな鋭利な刃物で刺されたら痛そうだな、と思った。

「ルーベルト様!」

サシャ嬢がナイフを突き付けられていた時より顔が青い。

周囲の野次に掻き消されながらサシャ嬢の涙が見える。

「これでお前の悪政も終わりだな」

男のナイフが僕の左胸を狙って勢いよく振りかぶられた。


「ちょっと待った!!」


その大声を聞いた時、全員が彼を振り返った。

エイリッヒだ。

「平民の貴族への殺人は重罪だぜ」

いつもの軽快なウィンクでエイリッヒが王兵を引き連れてやってきた。

「エイリッヒ!」

『来るのが遅い』

ルーベルトはこんな状況でも憎まれ口を叩く。

けれど、その言葉はエイリッヒへの信頼があった。

僕にはまだないもの。

けれど、彼はフローに捕まっていたはずでは?

疑問は男の怒声に消える。

「なんだ、お前は」

男が左胸から首にナイフを移して後退る。

「こいつの首が飛ぶことになるが、いいのか?」

首に当てられたナイフが少し刺さり血が出てくる。

正直痛い。

『弱音を吐くな』

ルーベルトは痛くないの?

『痛覚は共用していないみたいだな』

ずるい!

僕という人質を取られてエイリッヒも王兵も隙を伺うしかないみたいだ。

僕って弱いなぁ。

『何を言う。貴様はルーベルト・トランドラッドだろ?』

揶揄するようにルーベルトが言った。

そうだ。僕はルーベルトだ。

「えいっ!」

ルーベルトとして身に付いていた護身術で僕が何も出来ないお坊ちゃんだと思って油断していた男の手首を力一杯叩きのめしナイフを落とさせその瞬間に離れると王兵が素早くフローを取り囲んだ。

「やるじゃねぇか、ルーベルト」

口笛を鳴らしながらエイリッヒが僕を背後に庇う。

「大丈夫か?」

「遅い」

『まったくだ』

僕の文句にエイリッヒが肩を竦めた。

「仕方ねぇだろ。こちとら公爵様と違う立場なもんでね」

曰く、ザファエル伯爵を捕える時の兵士に出会うまで送っても届かぬ手紙に憤怒して王城に殴り込みに行ったのだとか。

「よく捕まらなかったね」

「そうなりそうな時は逃げた」

あっけらかんと言うエイリッヒに一気に疲れが押し寄せてくる。

「ルーベルト?おい、ルーベルト!」


僕が目覚めたのは二日後だった。

「心配したんですからね、お義兄様!」

寝ている僕にルーファスが涙目で抱き付いてくるのを抱き締め返す。

生きているんだなぁ。

「ルーベルト様が囚われていた日々から心配で夜も眠れませんでしたが、お気付きになられて良かったですわ」

サシャ嬢もいる。

「これはサシャ嬢、お見苦しい格好を」

起きあがろうとするのをエイリッヒが制する。

「怪我人はまだ寝ていろ」

そうだ、エイリッヒ!

「エイリッヒ、フローは?」

「あいつは捕まった。そういう約束だった。お前は怒るかもしれないけど、あいつらに捕まったのも演技で内情を知るためだった。脱出はフローの手引きだ」

情報が追いつかない。

フローが捕まった?約束?

「フローは、フローは大丈夫だよね?」

その言葉に返してくれる人は誰一人としていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ