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悪逆貴族になりましたが、アクギャクって何をすればいいんですか?  作者: 千子
第一部

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第28話 温もり

暴行され椅子に座らされて縛られているエイリッヒ、首元にナイフを押し当てられて震えるサシャ嬢。

信じたい、信じたいのに。

「残念だよ、フロー」

「どういうことでしょうか?」

フローは笑みを絶やさない。

「ザファエル伯爵が人身売買に手を染めたのも、その捕縛と地位を引き摺り落とすために手を組んだのも、街中に少年に見られることも、そうして僕の懐に忍び込もうとしたことも、全部君が仕組んだことなんだろう?」

フローは笑みを絶やさない。

考えないようにしていたルーベルトの考え。

それが的中していたってことだ。

これは僕の甘さが招いたことだ。

僕がルーベルトの言葉をもっと重く受け止めて考えてフローに接していたら。

いいや。

でも、僕はフローを信じたかった、信じていた。

それが僕の悪逆だから。

悪逆貴族のルーベルトとしての僕の矜持だから。

だから、まだ信じたい。

俯くエイリッヒも、震えて手を胸元で両手で組んで握りして締めているサシャ嬢も大切だけれど、僕にはフローも大切なんだ。

だから、まだ間に合ううちに。

「サシャ嬢を離してもらおうか」

前へ一歩踏み出すと、簡単にサシャ嬢を捕らえていた手が離された。

「サシャ嬢!」

「ルーベルト様!」

駆け寄ってくるサシャ嬢を抱き締めて、その温かさに安堵する。

これは生きている人間の温度だ。

あの時、腕の中で亡くなった少女を思い出す。

「無事でよかった」

「そうでしょうか」

僕がサシャ嬢から離れると同時に男からナイフを受け取ったフローから首筋にナイフを突き付けられる。

「ルーベルト様!」

サシャ嬢が蒼白になりながら近付こうとするのを制して、精一杯虚勢を張って笑った。

「大丈夫です。私はルーベルト・トランドラッドですよ」

少し胸を張る。

「なにが大丈夫なんですか。ですから申し上げたでしょう?あまり人を信用すべきではないと」

『まったくだな』

背後でフローが溜息を吐くのが分かる。

「でも、フロー。君はサシャ嬢を離してくれた」

「人質があなたに代っただけですよ」

ちらりと見たエイリッヒは縛られていた状態から解放されて男に立たされていた。

「エイリッヒも解放してくれるととても嬉しいんだけど」

「それはどうでしょうか」

怯えるサシャ嬢を庇うようにしてフローと向き合う。

いつもの笑み。

いつか見せてくれた笑みが随分と遠いものに思えた。

「きみの望みは?」

「嫌われ者の公爵様といえど、手元にあればいくらでもお金が作れるのですよ。用がなくなればあなたを売ってもいいですし、活用方法はたくさんあります。侯爵令嬢もいますしね」

「僕とサシャ嬢は使い道があるとして、エイリッヒは?彼はきみらの言う使い道には使えそうもないけれど」

いつの間にかエイリッヒは男に連れられてどこかに消えていた。

「彼には彼の役目があります」

「役目って?」

「時期に分かります」

そう言うと、僕の首元に当てていたナイフを離して出入口に向った。

「お二人とも、いい子にしていてくださいね」

そう言って、僕とサシャ嬢を残して扉は閉められた。


「もう!仰ったではありませんか!あまり他人を信用すべきではないかと、と!」

扉が閉められてすぐにサシャ嬢から怒られた。

えっ、さっきまでの怯えようはどこへ?

「ルーベルト様の慈悲の心は素晴らしいものです。ですが、その結果がこれです。どうなさるおつもりですか!」

おっとりとしていた顔をめいいっぱい怒らせ叱るサシャ嬢に反論のしようがない。

「申し訳ありません…」

僕がしょんぼりすると、頬に温もりが触れた。

サシャ嬢が僕の両頬を包み込み目を合わせると彼女の瞳から涙が溢れた。

「消息が絶たれてからずっと心配しておりました。ルーベルト様がご無事で良かった…」

サシャ嬢に抱き締められる。

生きている人の温もり。

大切な人の温もり。

「ごめん」

そう返して抱き締め返した。

『いちゃつくなら他所でやれ』

黙っててよ!ルーベルト!

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