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悪役令嬢の終わりは歌  作者: 夜乃 凛
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暗殺を退けた男

 自然が豊かな公園があった。日差しは暖かく、自然の摂理で緑を照らしている。吹く風は柔らかく、人類を祝福するかのようだった。

 そんな公園を、一人の老人が歩いていた。灰色のガウンを羽織っている。左側に男性、右側に女性を連れてい歩いている。


「接収か」


 老人が呟いた。そう、彼はゾルド・マキシムである。美しさを決めるコンテストで、セリアに一票を投じた人間だ。

 彼の権力は計り知れない。爵位は伯爵。だが、彼の繋がりは公爵家をも脅かすと、一部では噂になっていた。暗殺未遂が起こったこともある。ゾルドが命を握られたのだ。しかし、それも事前の情報収集の成果で、ゾルドが死ぬことはなかった。それどころか、暗殺を企てた侯爵家の者は、貴族社会から姿を消したという。

 そんなゾルドは柔らかい表情で自然を観察しながら、両隣の人物に話しかけていた。


「接収されるのは、ストライド家か。リーリエとかいうお嬢様のいるところだな。さて、私は人を見る目は確かなものでね。あまり、あのリーリエという娘は好きになれんのだよ。別に、あの娘がどうなろうと、構わんが……」


 ゾルドはそこで一呼吸置いた。


「接収を行うのが、ミハエルというのが気に食わん。世間知らずの餓鬼が。なかなか頭が切れるようだが、出る杭は打たれるという言葉を知らないと見えるね。杭を打ちたい所だが……そうなると、ストライド家は何もせずに、平和な日常が戻ってくるということだな。それも気に食わん。自分たちの生活を守るのは、自分たちでなくてはならない。違うかね?」


「その通りだと思います」


 右側を歩いていた女性が同意した。飾り気のない青いワンピースを着ている。


「そうだろう。だから私が手を出すとすれば、ストライド家が自分たちの力で立ち上がった時だ。立ち上がらなければ、放置するまでのこと。接収が行われた場合、その時は情報収集に徹する。いつかミハエルの首を締め上げるためにな。動きを見せたものは、同時に隙を作ってしまう。ミハエルの小僧がいくら頭が良くても、人間である以上、隙だけは隠せないのだ。さて、どうなるのかな。おそらく、ストライド家に助けを出す人物はいないだろう。助けるメリットが無いからな。人間とは無慈悲なものだ」


 ゾルドは薄く笑った。



「ブリッツ家は、ストライド家を守り抜いてみせる。リーリエ、私と君が記した手紙を読めば、ベインス家とフランティス家がここに出向いてくれるだろう。その前に、言っておくことがある。私情は捨てろ。家を守り抜くことを考えろ」


 フィゲルは長テーブルの横の椅子に座っていた。足を組み、考えながら話しているように見えた。


「はい。私も覚悟を決めます。全ての私情を捨てます。それが、助けてくれるフィゲル様に対して、ストライド家に対して出来る、最善の方法だと思いますから」


 リーリエはフィゲルに寄り添うように座っていた。彼女の青い瞳は、不思議な輝きが宿っているように見えた。


「しかし、フィゲル様。コーラル様とセリア嬢が来る前に、一つだけ聞かせてください」


「なんだ」


「何故、ストライド家を助けてくれるのですか?下手をすれば、ブリッツ家にまでミハエルの手が及ぶかもしれません。そして、私達はフィゲル様にお返しできる物を持っていません。ミハエルに目をつけられる可能性も考えると……」


「黙れ」


「えっ?」


「我がブリッツ家が、ミハエルごときの遅れを取ると思うか?舐めてもらっては困る。ブリッツ家は由緒ある、愛すべき我が家だ。たかがミハエルに狙われた所で、問題はない。異存でもあるのか?」


 リーリエを見つめるフィゲル。


「い、いえ、とんでもないです。そうですね、フィゲル様なら……でも、何かお返しを……」


「そんなにお礼が言いたいのなら、この騒動が終わった後、ブリッツ家の私の部屋にでも来るといい。夜にだ」


「……ッ!!」


 リーリエは顔を赤くして俯いた。完全にフィゲルのペースだった。


「チェスの相手をしてもらう」


 フィゲルはリーリエの様子を見て、笑顔を見せた。彼にしては珍しい表情だった。


「フィ、フィゲル様……!! 馬鹿にして!!怒りますよ!!」


「怒ってもらって、一向に構わないがな。リーリエ、緊張は解けたか?」


「あ」


 リーリエは口を開けた。気づいたからだ。今のやり取り全てが、これから始まる、対ミハエルの作戦会議の、リーリエの緊張を解くためのものだと。

 なんて人だろう。彼女はそう思った。そして、会話が蘇る。

 私情を捨てる。セリアを敵視してはいけない……。

 夏の雲のように、もやもやとするリーリエの心。

 しかし、緊張は解けていた。今は、ただ己の発言を実に移すだけ。コーラル・ベインスと、セリア・フランティスの登場を待つことだけが、彼女に出来ることだった。

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