駒は4体か5体か
リーリエは手紙を朗読した。その内容は、コーラル・ベインスと、セリア・フランティスによる質問で、ストライド家がアークル家の接収されるのは本当か、という内容だった。そして、もしそうだった場合、ストライド家に協力したいという申し出だった。
正直、リーリエは戸惑った。コーラルとはほとんど接点がない。そして、セリアに至っては、仲が悪いと言えるだろう。そんな者たちがリーリエの味方になってくれる理由がわからなかった。
フィゲルと両親は静かに聞いていた。フィゲルは腕を組んでいる。
「それだけか?」
フィゲルが言った。手紙の内容はそれだけか、の意。
「はい」
「ふむ。少し考える」
フィゲルは顎に手を添えて考え始めた。なかなか様になっている。リーリエと両親は、フィゲルが言葉を発するのを待った。行列に並んでいるような気分である。
「ベインス家とフランティス家が協力してくれるなら、確実に君には有利になる、リーリエ。手を結んでおいたほうが良い。相手になんらかの打算があるのかもしれないが、そんな細かいことは気にしていられない。領土を無くすよりマシだろう」
「でも……」
リーリエは意見しようとした。
「私の言うことが間違っていると?」
鋭い目つきでリーリエを捉えるフィゲル。それもまた、様になっていた。ドキドキしている場合ではないのに、リーリエの心拍数が上がる。
「いえ、とんでもありません。そうですね、ベインス家とフランティス家が味方をしてくれるなら……ミハエルにも勝てるかもしれないですな」
「残酷だが、負けることを覚悟しておいたほうがいい。これはそういう戦だ」
「え?でもベインス家とフランティス家が……」
「我がブリッツ、ストライド、それにベインスとフランティス、それを持ってしても危ないという話だ。四対一でも、ミハエルの相手をするのは難しい。奴は、相当に頭が切れる。勝てる見込みのない手段は取らないし、慎重で、冷酷だ。もう既に、ストライド家を丸め込む準備は整っているはずだ。そこで、どうすればいいと思います?」
「ええと……味方になってくれる家の連携を強める、でしょうか?」
「悪くない。しかし、違うな。やるべきことは、こちらの駒を増やすことだ」
「これ以上仲間になってくれる家があるのですか?」
「家系は無いかもしれない。しかし、平和主義で、接収など認めない、頑固な老人を知っている。リーリエ、君も見たことがあるはずだ」
「私も……どこで、ですか?」
「コンテスト会場だ。審査員がいただろう?審査員のリーダー、ゾルド・マキシムだ。彼の、この国に対する影響力は計り知れない。ただの善人ではない。裏社会に通じているとも言われている。だがしかし、平和主義者なのは間違いない」
「ああ、あのご老人ですね。あの方がそんな影響力を……しかし、味方をしてくれというのは、難しい申し出なのではありませんか?」
「その通りだ。何か大きな餌を与えるしかない。そうでなければ動かない。ゾルドは、芸術に対して大きな関心を寄せている。美術品、絵画、音楽……超一流の物を提供できれば、それと交換条件で、手を差し伸べてくれるかもしれない」
「なるほど。しかし、そのような物があるかどうか……」
リーリエは俯いてしまった。それなりの美術品は家にあるが、超一流の物があるかというと、自信が無かった。
一方、フィゲルの考えでは、問題解決の糸口があった。
「大きな餌が、我々のユニットに存在する」
「本当ですか!?」
「歌唱だ。セリア・フランティスの歌唱力。あの歌の力で、ゾルドの心を引っ張れるかもしれない。あの歌の力は計り知れない。リーリエ、君にもわかるはずだ」
「それは……はい。セリア嬢の歌は素晴らしいと思います」
リーリエは悔しいながらも、現実を直視して言った。この判断の素早さは、評価されるべき言葉だった。セリアの事を敵視していながら、現実的な方法がそれしかないと判断し、即座に私情を切り捨てたからだ。
「コーラルに、ストライド家に出向いてもらうように手紙を出そう。当然、セリア嬢も一緒にだ。四家が集まり次第、話し合いを始めたほうが良いだろう。とにかく、セリア・フランティスがいなければ話にならない。リーリエ、一ついいか」
「なんでしょうか」
「諦めるな。最善を尽くす」
「ッ……!」
リーリエは息を呑んだ。フィゲルの言葉。それのなんと心強いことか。なんと男らしいことか。セリアに対する敵対心など、吹き飛んでしまうほどだった。フィゲルは、自然に振る舞っているだけかもしれない。しかし、リーリエはこんな状況でも、彼のおかげで笑顔になれた。
「はい!!」




