クイーン・ビジョップ・ルーク・キング
フィゲルはストライド家に到着した。馬車から降りる彼の姿は、中々、様になっていた。白の礼服が揺れる。美しい金髪が揺れる。
足早に彼はストライド家へと入った。途中、何人かの使用人がフィゲルの姿に気がついた。そして、彼の容姿に口を当てて驚く者もいたほどである。それほどまでにフィゲルは容姿が良い。
リーリエに対して、いきなり訪れることは伝えていない。廊下を歩くフィゲル。
「リーリエ!リーリエ嬢はいるか!」
大声でフィゲルが呼びかけた。T字路になっている廊下。フィゲルの正面に大きな扉。彼はその扉を開けた。
木製の大扉が開き、中に暖炉のある部屋に出た。そこには、リーリエと、その両親がいた。リーリエはフィゲルの声が聞こえたのか、椅子から立ち上がっている。
「フィゲル様!?」
「リーリエ嬢、突然のことで申し訳ないな」
「何故、いらっしゃったのですか?」
「ストライド家が接収されるという話を聞いたからだ。しかも、あのアークル家に。嘘であれば、それに越したことはない。本当の話か?」
「どうして、それを……はい、本当のことです。私、どうしていいかわからなくて……で、でも、何故、貴方は来てくれたのですか……」
「アークル家の好きになどさせない。それに我々は友人ではないのか?理由はそれだけで十分だろう」
フィゲルは無表情で語った。リーリエは、涙が出るのではないかと、息を呑んだ。友人という言葉をフィゲルは使った。本当は恋人だったら、もっと良かったが、そんなことはどうでもよかった。フィゲルは来てくれた。リーリエは、それがどうしようもなく、頼もしく感じたのだ。まるで白馬の王子様だ。
「私、どうすれば……」
「詳しい情報を教えろ。それに、ご両親にも協力して頂く。構いませんね」
フィゲルは鋭い目つきで、リーリエの両親を見た。有無を言わさぬ圧力だった。
「フィ、フィゲル様の言う事なら……なんでもお話いたします」
しどろもどろの父親。黙っている母親。
「ミハエルの企みを防ぐぞ」
フィゲルは不意に、リーリエの手を取った。無表情なフィゲルの顔とは対称的に、彼の手は温かかった。
その時が境目だった。リーリエは打算でもなんでもなく、心の底からフィゲルを好きになってしまった。
その時、ストライド家の使用人が、おずおずと部屋の中に入ってきた。メイド服を着ている。
リーリエの父が使用人を睨んだ。
「今は立て込んでいる!何の用だ!」
「す、すみません。コーラル・ベインス様から直筆のお手紙が……」
「コーラル?」
父は首を傾げた。ベインス家から手紙が届いたことなど、今までにない。
「誰に向かって送られた物だ?」
「リーリエお嬢様にでございます」
使用人は睨まれて萎縮している。
フィゲルの眉が動いた。彼の直感が、何かその手紙に重要なことが書いてあると告げたのだ。
「リーリエ嬢、その手紙を読んだほうが良い」
「は、はい。フィゲル様。今読みます」
リーリエは慌てて使用人から手紙を受け取った。




