【番外編】しずか3さい。真夏の大冒険
一話に纏めたら、短編の長さになってしまいました。
お時間がある時にどうぞ。
二人の娘の夏の日の一日です。
異世界と現実世界では時間の進み方が違う設定です。
実菜が現実世界に帰ってから五年後の話ですが、異世界では十五年経っています。
―――ある夏の日の朝。
「それじゃ、しずか。パパはお仕事に行って来るからね。佳世おばさんが少ししたら来てくれるっていうから、それまでお家から出ちゃ駄目だよ?」
寝ぼけ眼で朝ごはんをもぐもぐしていると、パパが言いました。
しずかは、しまった!と、手に持っていたスプーンを投げ出してパパを追いかけます。
「やだーっ!!」
しずかのパパは、いつもは自宅でお仕事をしていますが、時々こうやって遠くまでお仕事に行くのです。
どたどたと廊下を走って玄関まで辿り着いた時には、パパはもう革靴を履いていました。
「やーだーっ!!」
食べている隙きに出掛けてしまおう。という、パパの目論見は上手くいきませんでした。走り寄って来たしずかに眉がハの字になります。
「昨日、言っておいただろう?すぐ帰ってくるから、それまで佳世おばさんと遊んで待ってて……」
「しらないーっ!!!」
だん、だんっ!と、その場で足踏みをしてしずかは抗議します。
佳世おばさんとは、たまにしずかの遊び相手になってくれる、人の良い近所のおばさんで、決して佳世おばさんが嫌いなわけではないのです。
だけど、前にもパパは遠くまでお仕事に行きましたが、その時はママもお家に居たので寂しくなかったのです。
しかし今、そのママは病院に入院していてお家にいません。佳世おばさんと二人きりです。
さらに、しずかは知っていたのです。パパの「すぐ帰ってくる」は、嘘だということを。
前にお仕事に行く時も、すぐ帰ってくると言っていました。でも実際に帰って来たのは、お外が真っ暗になって、しずかが寝てしまってからでした。
パパは困った顔でしゃがむと、しずかのおかっぱ頭を優しく撫でます。
「もうお姉さんなんだから、お留守番出来るだろう?」
そうです。しずかは三歳になってお姉さんです。昨日もそう言っていました。
もうオムツもトレパンも卒業しました。お姉さんパンツです。
パパも三歳の娘をひとり置いていくのは忍びないのですが、断腸の思いで立ち上がります。
「いいか。絶対、佳世おばさん以外の人が来ても玄関を開けちゃ駄目だからな?」
「ィヤーッ!!」
悲鳴にも似たしずかの声を振り切り、パパは玄関を出て行ってしまいました。
パパだって寂しいのです。でも、しずかはもっと寂しいのですが、パパは分かってくれません。
「ぅ、ぐすっ、ぅう〜っ」
玄関の鍵が閉まる音がすると、しずかは廊下に膝と両手をついて項垂れてしまいました。ママに似た、くりくりのお目々から、ぽたぽたと涙が溢れて廊下を濡らします。
……パパ、だっこしてくれなかった。
いつもパパは、しずかを抱っこしてくれます。そのまま仕事をすることもあります。でも、今日はしてくれませんでした。悲しくてたまりません。
だけど、誰に似たのか、しずかは切り替えの早い子でした。すっくと立ち上がると、小さな手の甲で涙を拭います。
「パパのばか。いいもん。もう、あそんでやんないんだから」
悔し紛れに悪態をつきます。でも、お嫁さんになってあげない。とは、言いませんでした。パパのお嫁さんにはなりたいのです。
「いいことかんがえた!」
しずかは、またどたどたと音を立てて廊下を走ります。食べかけの朝ごはんの事など、すっかり忘れています。
こういう時の子供の言う『いいこと』は、大抵が大人にとっていいことではありません。
この時もそうでした。しずかが向かったのは寝室です。
パパがいないなら、いつもパパ達がいる時には出来ない事をやろうとしたのです。
寝室に入ると大きなベッドがあります。いつもはママと寝ていましたが、ママが入院したのでパパと寝ています。
そして、壁際には大きなタンスが置かれていました。
しずかは知っていたのです。そのタンスの一番上の引き出しに、ママの宝物が入っている事を。
でも、しずかの身長では引き出しには手が届きません。しずかは一番下の引き出しを目一杯開けると、二段目、三段目と少しずらして開けていきます。そうすると、まるで階段のようになりました。
しずかの手が届くのは三段目までです。そこで、階段のように、うんしょ、うんしょと三段目の引き出しまでよじ上ると、同じようにして四段目まて上りました。ここまで来れば一番上の引き出しが開けられます。
前にこれをやったら、もの凄く怒られたのです。でも、今日は怒る人がいません。
「やったー。あけれたー」
しずかは背伸びをして、引き出しの中をぐしゃぐしゃとかき回しました。そして、お目当ての細長い箱を見つけると、ぱかっと開けて中から青い雫の形をした石のペンダントを取り出しました。
「きれー」
青い雫は光りが当たると、濃くなったり薄くなったりと色を変え、とても素敵です。
ママが宝物だと言って仕舞っていたのを、しずかは見ていたのです。しずかが欲しいと言ったら、大人になったらあげる。と、ママは約束してくれました。
たまに見せてもらっていましたが、今日も見たくなったのです。
しずかは、タンスの階段を下りると、鏡の前に行って自分の胸元にペンダントを当ててみました。
「おひめさまみたーい」
袖が膨らんだ半袖の白いワンピースに、青いペンダントがとても映えました。
しずかの機嫌を取るためにパパが着せた、しずかのお気に入りのワンピースです。
鏡の前で暫くぼーっと見惚れていましたが、そろそろ返しておかないといけません。佳世おばさんが来てしまったら大変です。
タンスの階段をよじのぼり、箱にペンダントを入れようとしましたが、箱が見つかりません。どこに置いたか覚えていないのでした。
「どこかなー」と、引き出しの中をかき回していると、ぴろっと一枚の写真が飛び出てきました。
「あ、ママのおともだちー」
前にママがペンダントと一緒に見せてくれた写真です。ママのお友達が写っています。しずかの名前はそのお友達から貰ったと、ママは言っていました。
その時です。
「しーちゃーん。佳世おばさんだよー!」
玄関の方から声がしました。佳世おばさんが来たのです。
大変です。しずかは焦りました。階段にしたせいで、タンスの引き出しの中はぐしゃぐしゃです。
佳世おばさんは怒らないかもしれませんが、もしパパに言いつけられたら、もの凄く怒られるに決まってます。
早く箱を見つけて片付けないと、と引き出しに身を乗り出したしずかは、引き出しの中に落ちてしまいました。
「ありゃっ?!」
そして、不思議な事に、引き出しの中にもかかわらず、底がありません。どこまでも落ちていくのです。引き出しの中は真っ暗でした。
驚いたしずかは、叫び声を上げながら暗闇の中を落ちていくしかありませんでした。
ばさ、ばさっ!ごろん、ごろん!びたんっ!
暗闇から抜けたしずかは、ごろごろと転がって、どこかの道に尻もちをついていました。
どうやら茂みの上に落ちたようで、痛みはありませんでしたが、転がったせいで目が回りました。
「ここ……どこ?」
しずかが、尻もちをついたまま周りを見渡すと、大きな木が沢山生えていました。道の両脇に森が続いています。
しずかの家も山の中にあるので、家の周りには沢山の木が生えていますが、こんな広い道はありません。パパの車が横に三台は通れるくらい広いです。
お空は青く明るいですが、その鬱蒼とした森が風でざわざわするので、しずかは怖くなりました。
「か、かよおばさぁーん!!」
大声を出しましたが、返事はありません。その代わり、茂みががさがさと音を立てました。
ひっ、としずかは息を呑みます。
さっきまでは驚きの方が勝っていましたが、じわじわと怖くなって来たしずかは立ち上がることも出来ませんでした。
「ぱ、パぁパぁ……、マぁマぁーっ!!」
当然、返事はありません。
「ぅふぅっ、ふっ、う、あぁあ……?!」
しずかが今にも泣き出そうとした、丁度その時です。「ダダッ、ダダッ」と、地面に震動を感じました。思わず、しずかの涙も止まります。
その震動はしずかに近付いて来るようでした。どうやらその震動は馬が駆ける足音だったようです。
ぽかんと口をあけたままの、しずかの前に二頭の黒い馬がやって来ました。
「ヒヒーン」と、嘶くと二頭の馬は、しずかの前で急停止するようにして止まりました。
「父上、何かいます!」
上から声がします。馬には人が乗っていました。
馬から下りてきた黒髪に金色の瞳をした七歳くらいの男の子が、地面にぺたっと座り込んでいるしずかを見下ろした後、馬上の父親を振り仰ぎました。
「父上、小さい女の子のようです」
顔立ちが似ているので親子なのでしょう。父上と呼ばれた銀髪で青い瞳をした男性も馬から下りて来て、「ふむ」と、しずかを見下ろしました。
「おい、娘。どうやって結界の中に入ったのだ?」
銀髪の男性は聞きましたが、しずかには意味が分かりません。突然、知らない場所で、知らない大人に怖い顔をされたしずかは、怖くて止まっていた涙が溢れてきました。
「ぅっ、わぁーん、あーん!あーっ!!」
「ゎわっ?!何だ?どうした?!」
「父上……ちょっと、下がってて頂けますか?」
泣き出したしずかに狼狽える父親をじっとりと睨むと、黒髪の男の子がしずかの目線に合わせるように膝をつきます。
「驚かせてごめんなさい。僕は、セシウス·クリスフォードといいます。こちらは、僕の父のセシル·クリスフォード。お嬢さんのお名前を聞いてもいいですか?」
狼狽える父親とは違い、セシウスはハンカチでしずかの涙を拭いながら優しく聞いてきました。
まるで絵本の中の王子様みたいだと、しずかは思いました。
「くじょうしずかです!3さいでしゅ、す!」
「「……え?」」
保育園に通うことになるかもしれないから、と、パパとママとお名前を言う練習をしていました。
お名前を聞かれたしずかは、泣いていたのも忘れ、元気よく答えましたが、最後に噛んでしまいました。
いつもそうなのです。この時も、噛んでしまって悔しくなりました。
ですが、セシウスもセシルも、顔を見合わせてから、しずかをびっくりした目で見ています。
どうしたのでしょうか。噛んだのがそんなに変でしょうか。変かもしれません。笑われてしまうでしょうか。
しずかが二人の反応にどきどきしながら、両手をぎゅっと握ると、セシウスが「あっ」と、声を上げました。
「それ、見せてもらえますか?」
セシウスがしずかの手に手を伸ばしました。しずかはママの宝物のペンダントを握ったままだった事を思い出しました。
「だめ!ママのだもん!」
盗られると思ったしずかは、両手を後ろに隠します。取られてしまったら、ママが悲しくなります、しずかも悲しくなります。
なのに、セシウスは優しく笑いました。
「そうですか、大切な物なのですね。でも、それは首につけてあげないと……貸して下さい、つけて差し上げますから」
渋々としずかがペンダントをセシウスに渡すと、セシウスはそのペンダントを光りに翳して少し眺めてから、約束通りしずかの首につけてくれました。
しずかにはペンダントの金具が外せなかったので、ひとりでは首にかけられなかったのです。
ペンダントをつけた自分を見ることは出来ませんが、とても嬉しくてセシウスに「ありがとう」を、言いました。
何かしてもらった時は「ありがとう」です。パパとママから教えてもらいました。
「カントラの涙によく似ています。それに、母上と同じ名前とは……」
セシウスはセシルに言いました。セシルがまじまじとしずかを覗き込みます。
「ふむ。おや、どこかで見たことあるような顔だな」
セシルが首を捻っています。セシルの顔を近くで見たしずかは思い出しました。セシルは写真に写っていた男の人にそっくりです。
「ママのおともだちー!」
しずかはセシルに指をさしました。人を指さしてはいけないとパパから言われていましたが、この時は忘れていました。
「ママ?いや、その前に指をさすな。いくらお姫さまでもやってはいけないぞ?」
「パパー!」
セシルに指をさしたまま、しずかは嬉しそうに声を上げます。パパはしずかのことをお姫さまと言ってくれるのです。それを思い出して、パパみたいだと嬉しくなっていました。
ですが、セシルはぎょっとして「何?」と、おろおろし始めます。セシウスは隣に立つ己の父親を見上げました。
「ママのお友達で、パパ……ですか」
「何だ息子よ、その目はっ?!」
確かにセシウスのセシルを見る目は、変態でも見るかのような目をしていました。
「まさかと思いますが、父上……母上を裏切ったり……」
「すると思うかっ?!」
「……思いません。そうですね。逆に、そんなことをしていたら尊敬してしまうかもしれません」
「それは、どういう意味なんだ、息子よ」
今は尊敬していないというのか?と、ぶつぶつ言っているセシルは放って、セシウスはしずかの手を取って立ち上がらせました。
「ここはトレイス王国のクリスフォード伯爵領です。あなたはどこから来たお姫さまですか?」
「おうじさまー!」
セシウスはまるで王子様みたいです。しずかは、セシウスの仕草に「きゃーっ」と、はしゃいでしまいました。
セシウスは照れているのか、顔を赤くしています。
「王子ではありませんが……父上、どうしましょう?」
「どちらにせよ、このままにしておくことも出来まい。結界が破られた形跡も感じられないし、どうやって中に入ったのか……一度、屋敷に戻ってシズカと話そう」
しずかの頭上で、二人が相談しています。どうやら、しずかを連れてお屋敷に行くようです。セシルが、ひょいっとしずかを抱き上げました。
しずかは驚きましたが、セシルの事はもう怖くなくなっていたので、抱っこされるのも大丈夫でした。
「しずか、おうちかえるー」
「お家はどこだ?」
「………」
ですが、このままどこかに連れて行かれたら、もう、お家に帰れないかもしれない。と、しずかは不安になってきました。
お鼻がすんすんしてきます。でも、しずかはお姉さんなので、泣かないように頑張ります。
「大丈夫だ。帰れるから」
「………」
セシルがしずかの背中をぽんぽんして励ましてくれました。
でも、しずかは口を開いたら泣いてしまいそうだったので、頷くだけでありがとうが言えませんでした。
セシルはしずかを抱っこしたまま、馬に乗りました。セシウスも自分の馬に乗りましたが、どこか悔しそうな表情をしています。「僕だってすぐ大きくなりますから」と、しずかに向かって言っていますが、意味が分かりません。
しずかだってすぐ大きくなるもん。と、変な対抗心を持ってしまいます。
しずかを乗せているからなのか、ぱかぱかとゆっくりお馬さんが歩きます。暫く行くと、大きな建物が見えてきました。まるで絵本に出てくるお城です。
しずかは「きゃーっ!!」と、感嘆の声を上げます。悲しい気持ちが吹き飛びました。
ここに住んでいるセシウスは、やっぱり王子様です。しずかはそう思いました。
城壁の向こうには広い芝生が広がり、しずかのお家が十個くらい入るのではないかというくらい大きなお屋敷がありました。
とんがり屋根のお屋敷にくっついて、高い塔もありました。よく見ると、その塔のてっぺんに人がいます。
セシルがその塔にいる人に手招きしました。こんな遠くで気付くのかと思いますが、気付いたようです。
屋敷の大きなドアを開けると、目に入ってくるのは天井が高くて広いエントランスホールでした。天井には豪華なシャンデリアが輝いています。それを見たしずかの瞳もきらきらと輝いていました。「きれー」と、見惚れています。
「父上、そろそろ、しずか嬢を下ろしてあげてはいかがですか」
ホールに入ったところでセシウスが言いました。
馬から下りた後も、セシルはしずかを抱っこしたままだったのです。ですが、しずかは抱っこされるのが好きでした。しかも、今日はパパに抱っこしてもらってません。
「む。そうか……」
「やー!」
セシルはしずかを下ろそうとしましたが、逆にしずかは、セシルの首にぎゅっと抱きつきました。もう少し抱っこしていて欲しかったのです。
「はは。ではもう少し抱っこする栄誉を頂いておこうか」
セシルは満更でもない様子で、しずかを抱き直しました。何故かセシウスは、むすっとしています。
「僕だってすぐ大きくなります」
また何か言っています。
そんなやり取りをしていると、塔にいた男の人が屋敷に入って来ました。とても厳つい顔をしています。身体もセシルより大きいです。
「おかえりなさい。旦那様」
怖い顔をしたその男の人は、周りを威圧するような雰囲気です。しずかはセシルの胸に隠れるように抱きつきました。何もしていなくても怒られそうな気がします。
「イーチェン。何か変わった事はなかったか?」
「いえ、何も」
イーチェンと呼ばれた男性は無愛想に答えます。
「そうか。メイメイは?」
「奥様と研究室にいると思いますが」
それを聞くと、セシルはずんずんと屋敷の奥へと歩いて行きます。すると、向こうから、どどどっと、何かが迫ってくる音がしました。
音が近付くと、それは割烹着を着た女の人だという事が分かりました。
その女の人は「やったー!!」と、叫びながら凄い勢いで走って来ると、しずか達に気付いて急ブレーキをかけて止まりました。
「セシル!やったぞ!遂に完成した!!」
女の人は興奮して鼻息が荒くなっています。ぴょんぴょんと跳ね回ったと思ったら、今度はくるくると回り始めました。どうにもセシルとセシウスの二人に対して温度差があるように感じます。
でも、しずかには楽しそうに見えたので、一緒にくるくる回ってみたいと思いました。
「おお、やったな」と、明らかに何をやったのか分かっていないセシルの物言いに、女の人はぴたっと動きを止めました。不満そうな顔をしています。
不穏な空気を察したセシウスが、「母上、何が完成したのですか?」と、問い掛けます。
「シリウス!よくぞ聞いてくれた!」
「母上……シリウスは一番上の兄上です。僕はセシウスです」
「そうだった、そうだった!ああ、もう、ややこしい名前にするんじゃなかった!」
天を仰いで「ぅあぁ〜」と、言っています。
セシウスがしずかにこっそりと、三人兄弟で上からシリウス、リシウス、セシウスなんです。と、教えてくれました。
確かに三人とも名前が似ていてややこしいです。でも、兄弟姉妹は割と似た名前にされることもあるのでおかしくはないです。
「シズカ、それで?何が完成したって?」
やはり、セシルは分かっていなかったようです。
「ママのおともだちー!しずかのおなまえのおともだちー!」
ですが、しずかはこの元気な女の人が写真に写っていた人、静加だと気付き、また指をさして声を上げて話を遮ってしまいました。だって、気付いてしまったんですから仕方ありません。
そこで初めて静加はセシルに抱っこされているしずかに目を向けました。片眉を上げて、しずかをじっと見つめています。
「なんだい?この、ちんまいのは?」
「うちの森に落ちてた」
「落ちてた?簡単に生き物を拾ってくるんじゃないよ!」
しずかは落とし物ではありません。ぷぅ、と頬を膨らませてセシルを見上げましたが、セシルは静加に見惚れているので効果はありませんでした。
「お嬢ちゃん、お名前は言えるかい?」
「くじょうしずかです!3さいです!」
静加の金色の瞳が近付いて、しずかは少しびっくりしましたが、大きな声でしっかり噛まずに答えることが出来たので、少し得意気な気持ちでした。
静加は、少し驚いた顔をしましたが、「よし、よし。よく言えました」と、しずかの頭を撫でて褒めてくれたので、嬉しくて胸がほこほこしました。
「母上、しずか嬢はカントラの涙を持っているんです」と、セシウスが言うと、「そうだろうね」と、さも当然といった感じで静加が返します。
「え?」
「あれは、この娘の母親から貰ったんだから、この娘が持っていてもおかしくはない」
「「えっ?!」」
「ちょっと、何でセシルまで驚いてるのよ?!どう見てもこの娘は実菜の娘でしょう。そっくりじゃないの!」
「あー、どこかで見たことがあると思ったらミナか!」
しずかはきょとんとして三人の話を聞いていましたが、そういえばさっきの怖い顔のイーチェンも写真に写っていたのを思い出しました。あの写真は、きっとこのお屋敷で撮られたんだと思います。
「……それにしても、あの二人は何でまた娘に同じ名前をつけるかね」
静加が苦い顔をしたところで、静加の後ろから「こんな所で何してんだい?」と、また人が増えました。
「完成したお祝いで、お茶をするんじゃなかったのかい?」
現れたのは、切れ長の、少しつり上がった目をした女の人でした。この女の人も写真に写っていた人です。
「おや、面白い娘がいるじゃないか」
その女の人はしずかを見て、にいぃっと、笑います。それは、とても怖い笑顔だと、しずかは思いました。
「そうだった!じゃあ、皆でお茶にしよう!メイメイ、お願いね!」
「シズカ……そろそろ、人を雇ってくれないか?」
メイメイは恨めしそうに静加を見ましたが、静加は笑うだけでした。「何で私が……」と、言いながらメイメイはお茶の準備に向かいます。
しずかはセシルに抱っこされたまま、広いお部屋に連れて行かれました。
細長いテーブルに、椅子がいっぱい並んでいます。セシルはテーブルの真ん中に、しずかを座らせました。しずかの隣にはセシウスが座り、正面に静加が座るとその隣にセシルが座りました。
「ほら、回しな」
メイメイがワゴンを押して来ると、お茶を淹れたカップをリレー形式でテーブルに配りました。同じ要領でケーキも回って来ました。何だか、雑です。
でも、しずかは遊んでるみたいで楽しくなりました。
「では、バイオ燃料の完成を祝して!かんぱーい!!」
「かんぱーい!」
静加がカップを手に、元気よく乾杯の音頭を取ると、皆もカップを掲げました。しずかは背が足らないので、カップを持つのが精一杯です。それを見たセシウスが、しずかの椅子にクッションを置いてくれました。
しずかが、ありがとうを言うと、セシウスは赤くなっていました。
「いやー!トレイス王国に移住して、早、十年!長かったわ〜!」
「……で、バイオなんちゃらって、何だい?」
感無量の静加に、セシルが問い掛けます。やはり、温度差が否めません。静加が、きっ、とセシルを睨みます。
「微生物のエネルギーを燃料に変えるのよ!これを使えば地球温暖化も防げるし、炭坑で死ぬ人間だって減るわ!!」
「お、おお……」
静加の圧にセシルが押されています。
「それだけじゃないわ!食料にだってなるんだから!しかも、高タンパクで高栄養!免疫力も高めてくれる!!いい事尽くめよ!」
「ふむふむ」
なんとなく聞いているセシルに興醒めしたのか、静加は「ふんっ」と、鼻を鳴らして、しずかに向き直りました。
「で、あんたのパパとママは元気?何であんた一人で来たの?」
しずかは同時に二つの質問をされ、「うーん」と、悩みます。
「しずか、おねえさんだから、おるすばんなの。それで、たんすにおちたの」
取り敢えず、どうやって来たかを伝えましたが、静加は目を細めただけで、何も言いません。恐らく何の話か分からないのでしょう。
「パパはげんきで、おしごと。ママはびょういんにいる」
「ママは病気なの?」
これには静加は眉を顰めてしずかに聞きました。
しずかもママに会っていない寂しさを思い出してしまいました。
「パパ、ひどいの。ママびょういんにいるのにうれしそうなの」
ママを病院に送った後、おうちでママの話をしたら、パパはそわそわ、にやにやとしていたのです。
「は?陽人は浮気でもしてんのか?!」
「もしかして、暴力とか?」
隣のセシウスも心配そうにしずかを覗き込みます。その金色の瞳に、しずかは少しどきっとしてもじもじします。
「ママはいつ、病院に入院したの?」
「えっとー、きのう?」
確か、今日の前は昨日だったと考えながら、しずかは話します。
「昨日っ?!そりゃ、急だね。どこか痛いって言ってた?」
「んー……?そろそろ、びょういんいくっていってた。おうちがおやまでとおいからって。しずかはおねえさんだからいいこにしてるの」
「………」
静加はぽかんとしていましたが、「ぷっ」と、笑い出しました。
何がおかしいのでしょう。静加もママの入院が嬉しいのでしょうか。しずかは少し、むぅっとなりました。
「あはは。ママはお腹大きくなかったか?あんたに弟か妹が出来るって言ってなかったか?」
そうです。パパとママはしずかに弟ができると言っていたのです。だからしずかはお姉さんになるんだよって言われてました。どうして分かったのでしょう。
「そりゃ、病院で弟を産んでくるだけだから大丈夫だ。すぐ帰ってくるよ。パパはあんたの弟が産まれるのが嬉しいってだけさ」
なんということでしょう。ママは病気ではなかったようです。それだけではなく、ここは喜ぶのが正解だったのです。
「なんだかんだ言って忙しかったから、そっちには行ってなかったけど、今度来る時はパパとママも一緒においで」
静加はそう言いましたが、しずかはどうやってここに来たのか分かっていません。
「シズカ、それは難しいんじゃないか?魔法陣を転写した写真を送った時に、それを説明した手紙を添付し忘れたって言ってなかった?」
「……あ。そうだった。写真だけ送ったんだっけ。じゃあ、あんたはどうやって来たの?」
改めて、しずかに聞いてきますが、そんなことを聞かれても困るのです。責めるように、じっと見つめられて泣きそうになります。
「ペンダントを持ってたし、偶然じゃないか?分かんなかったから、森の中の変な所に着地したんじゃないかな」
言っている意味は、しずかには分かりませんでしたが、セシルが助け舟を出してくれたみたいです。静加もその意見に頷いて納得してくれたみたいで、ほっとしました。
突然「母上!」と、意を決したセシウスの声が上がりました。
「彼女に湖を案内したいのですが、良いですか」
静加はきょとんとしていましたが、セシウスの顔を見て、にやっとしました。
「おー、行っておいで」
勝手にどこかに行くことになっていましたが、しずかのケーキはまだ半分以上残っています。ゆっくり食べたいところです。
「ケーキたべるのー」
「面白い場所があるんです」
「……たのしー?」
「ええ、とっても」
「じゃー、いくー」
ケーキも食べたかったですが、楽しくて面白いという言葉に惹かれて、しずかは椅子を下りました。
セシウスに手を引かれてやって来たのは、お屋敷の裏手にある湖でした。大きなお屋敷よりも、もっと大きな湖で、思わず「うみ?」と、呟くほどでした。
「うちは、さっきあなたがいた森と、この湖を管理しているんです」
セシウスが言いました。
「母上はこの湖の水で何か研究していたようですね。僕にもよく分かりませんが……こっちです」
湖のほとりまで行くと、セシウスが湖に手をつけました。すると、どうでしょう。ビキ、ビキ、ビキッと、湖があっという間に凍っていきました。
「えー、なんでー?」
しずかは驚いて湖をばん、ばんっと叩きましたが、分厚い氷でした。不思議です。
しずかの反応に「ふふっ」と、満足そうに笑うと氷の上に乗り、すいーっと滑り始めました。とても楽しそうです。
「しずかも、やるー」
と、氷の上に乗りましたが、そこで自分が裸足でいることに気付きました。芝生の上は平気でしたが、氷は駄目でした。足を着いていられません。
仕方がないので、楽しそうに滑るセシウスをじっと見ていると、それに気付いたセシウスが慌ててこちらに戻って来ました。
「ごめんなさい、そうでした。じゃあ……しっかりつかまっていて下さい」
「あーい」
何故だが照れ臭そうに言うと、セシウスはしずかを抱き上げます。しずかが、ぎゅっと首に抱きつくとセシウスの頬が熱いのが分かりました。
「せしゅー、おねつある?」
「僕はセシウスです」
「いしうす?」
「……セシューで良いです」
セシウスはしずかを抱き上げたまま滑り出しましたが、セシウスもまだまだちびっ子ですので、しずかを抱っこしているというよりも、しずかがぶら下がっているという状態でした。
「きゃっはーっ!」
それでも調子よく氷の上を滑り出し、楽しくなったしずかは、足をぷらぷらとさせて喜んでいます。
ですが、しずかが足をぷらぷらしていることで、くるくると回り始めてしまったのです。遠心力も相まって、どんどん回るスピードが加速します。まるで遊園地のアトラクションみたいで、しずかは「きゃっ、きゃっ」と、喜んでいますが、セシウスの顔は青くなっています。しずかを放り出さないようにするのに必死です。
セシウスの頑張り虚しく、案の定といいますか、勢い余ってバランスを崩して二人は倒れてしまいます。
それでも何とかセシウスは、自分が下敷きになることに成功したのですが、今度は氷が、ばきばきっと音を立てて割れ始めました。
「ええっ!何で?僕の魔法が……」
セシウスは自分の氷魔法に自信を持っていました。ちびっ子ですがそのへんは有能です。まさか、割れてしまうなんて、と、思っているうちに、ばしゃばしゃと氷が溶けて沈んでいきます。
二人も氷と一緒に湖に沈んでいくと思われました。
ところが、ぼちゃんと落ちたところで二人の身体は「ザッパァン!」と、下からきた勢いで浮上しました。
突然、冷たい水の中に落ちたしずかは「げほ、げほっ」と、むせましたが、泣きませんでした。
何かごつごつとしたものがしずかを包んで宙に浮いているので、空を飛んでいる気分です。
セシウスもごつごつとしたものに包まれています。それは、湖からせり出した細長い岩のようにも見えました。……細いと言っても、しずかの何倍も太いのですが。
「小僧、お前か、凍らせたのは。儂を氷漬けにでもするつもりだったか?」
岩が喋りました。とても低くて響く声です。しずかは少し、びくっとなりました。でも、泣きませんでした。
その声が、怖いというよりも、呆れたといった雰囲気で優しく感じたからです。
「あ!ごめんなさい!忘れてました」
セシウスも、てへへ、と、頭をかいて謝っています。
その岩は、「まったく」と、ぼやきながら、しずかとセシウスを地面に下ろしました。
セシウスが、「これは、海龍さまで怖くはないですよ」と、説明してくれます。
どうやら、しずかを包んでいた岩は、海龍さまの手だったようです。
海龍さまは、大きな顔を二人に近付けると「ふんっ」と、大きな鼻息を吐きました。二人にとっては爆風です。しずかは、ころんと後ろ回りに一回転してしまいました。
でも、しずかは泣きませんでした。「きゃはっ」と、立ち上がると、海龍さまの大きな鼻に体当たりしていきます。
海龍さまの鼻の穴は、しずかの顔よりも大きく、その下から生えている髭はしずかの腕よりも、ずっと太いです。
「かいりゅーさまー!おっきー!」
その太い髭にぶら下がって「きゃっはーっ!」と、はしゃぐしずかに、セシウスは「怖くないんだ」と、驚いていました。
「シズカはまた子を産んだのか」
はしゃぐしずかに満更でもない様子の海龍さまは、髭を上下に揺らしながら言いました。
「違います!母上の友人のお嬢さんです!」
何故だか焦るセシウスに加え、しずかも「しずかはまだママじゃないよー」と、見当違いなことを言います。
しずかがぶら下がるのに飽きて、海龍さまの髭から手を離した頃、遠くから二人を呼ぶ声がしました。静加です。
静加はちびっ子だけで湖に行かせるほど人でなしではありませんでした。遠くから見守っていたのです。
危険はないだろうと思ってましたが、二人ともびしょ濡れになったので声をかけたのです。
静加と交代するように、海龍さまは湖の中に潜っていってしまいました。
「びしょ濡れじゃないか」
そう言うと、静加は「ブワァーッ」と、暖かい風を出して二人の髪も洋服も乾かしてくれました。
「さあ、あんたはそろそろ帰らないとね」
「えっ?」
屋敷に戻り、エントランスに入ったところで、静加がしずかに言いました。その言葉に驚いた声を出したのはセシウスです。
「もうですかっ?しずかは帰りたいですかっ?!」
セシウスが、静加としずかに尋ねます。
しずかは佳世おばさんがお家に来ていたことを思い出しました。もう随分と待たせてしまっています。帰ってしまったかもしれません。
「かよおばさんが、まってるのー」
「かよ……?ああ、佳世ちゃんか」
静加の顔が綻びました。静加は佳世おばさんを知っているようです。しかも、ちゃん呼びです。
「じゃあ、心配させないように帰らないとね」
しずかが頷くと、セシウスが慌てて間に入ってきます。
「しずか!大きくなったら、僕のお嫁さんになってくれますか?!」
静加は目を点にして、息子を見下ろしています。
しずかは困りました。だって、しずかは大きくなったら、パパのお嫁さんになるのです。
「しずかはパパのおよめさんだから、だめよー」
静加は大爆笑しました。何がそんなにおかしいのでしょう。セシウスも、ほっとした顔をしています。
しずかがパパのお嫁さんになれないと思っているのでしょうか。しずかは少し、むうっとしました。
「じゃ、もし、パパのお嫁さんになれなかったら、僕のお嫁さんになってくれる?」
だから、何でパパのお嫁さんになれないと決めつけているのでしょう。しずかは、むむっとなりましたが、セシウスのことは王子様みたいで優しいし、遊んでくれるので好きです。
「じゃー、せしゅーはパパの次ねー」
しずかは、お嫁さんというものを正しく理解していませんでした。
セシウスもセシウスで、パパの次だと言われているのに、それでも顔を、ぱあっと綻ばせます。
しずかはその顔を見て、やっぱり王子さまみたいで好きー。と、思いました。
セシウスは、「約束です」と、言ってしずかの手の平に、ちゅっと、キスをしました。静加は「どこで覚えたんだ」と、半目になっています。
しずかはそのお返しに、セシウスのほっぺに、ちゅっとしました。いつもパパとママにしています。パパとママもしずかに、ちゅっとしてくれるのです。
ですが、セシウスには刺激が強かったようです。真っ赤になって、しずかに抱きつこうとしたところを静加に羽交い締めにされていました。
「まったく、誰に似たんだ!」
「父上です!」
「じゃあ、仕方ないな!」
しすかをよそに、そんなやり取りが繰り広げられました。
二人は仲良しです。それを見ていたしずかは、ママが恋しくなってしまいました。
「あんた、幸せか?」
静加はセシウスをしずかから遠ざけると、しずかの頭を撫でながら聞きました。
しずかは、何を聞かれているのかよく分かりませんでした。不幸もないので幸せも分からないのです。
でも、パパとママといると嬉しいです。
「パパとママといるのがいいー」
素直に言うと、静加が笑いました。でも、何故でしょうか、少し寂しそうにも見えたのです。
「そうだな。……あんたの幸せが、私の幸せだ。ということにしよう」
そう言った後に、静加がしずかに目線を合わせるようにしてしゃがみ込みました。
「あと、セシウスはセシルに似ているようだ。覚悟しておくように」
「??」
内緒話のようにされましたが、当然しずかは意味が分かりません。きょとんとしてます。
その意味が分かるのは、もっと、ずっと何年も先の話でした。
「さて」と、言って静加はしずかの手を引いて、エントランスの端に連れて行きます。その床には、丸い模様が描いてありました。魔法陣です。
「ほら、ここの真ん中に立つんだよ。動いちゃ駄目だからね」
しずかが言われた通りに円の中心に立つと、「この屋敷が写った写真を思い出せるかい?」と、静加が聞きます。しずかが頷くと、「それを頭に思い浮かべときな」と、言いました。
「ペンダントの魔力を使ってこっちに来る時は、この床の円を思い浮かべるんだよ。今は私が送ってやるからね」
と、色々言われて、しずかは混乱しましたが、写真のことだけを思い浮かべることにしました。他の言われたことは理解出来なかったからです。
「じゃ、いくよー」と、静加が言うと、魔法陣が赤く光り出しました。その光りがしずかを包んできたのでびっくりしましたが、動いちゃ駄目と言われたのを思い出し、ぎゅっと両手を握って堪えます。
その光りで周りが見えなくなる頃に、「必ず迎えに行くから、待っていてねー!」と、いうセシウスの声がした気がしましたが、どこかに飛んでいくような、落ちていくような感覚に返事は出来ませんでした。
「―――ちゃん!しーちゃん!!」
激しく揺さぶられて、しずかは目を覚ましました。佳世おばさんが心配そうな顔で、しずかを覗き込んでいます。
「んー」と、伸びをすると、がつんと手が何かに打つかりました。起き上がると、しずかはタンスの一番上の引き出しの中にいました。
「あれー?」
きょろきょろしますが、そこは間違いなくお家の寝室でした。タンスの中身もくしゃくしゃのままです。
「しーちゃんたら、こんなところで寝てるんだもん。おばさん、びっくりしちゃったわ」
佳世おばさんは、パパからお家の鍵を預かっていたのです。何度呼んでもしずかが出てこないので、鍵を使って入って来たのでした。
「あれれ?お城は?せしゅーは?」
「ふふっ、しーちゃん夢を見てたのね」
佳世おばさんが笑っています。
しずかは「ほんとだもん」と、言いましたが、「楽しい夢だったのね」と、佳世おばさんが言います。信じてくれません。
もしかしたら、本当に夢だったのでしょうか。
「あら、しーちゃん!足の裏が真っ黒だわ。裸足でお外に出たの?」
ずっと裸足で遊んでいたのですから、それはそうです。それに、しずかの首にはママのペンダントが下がっていました。と、いうことは、大きなお屋敷で静加たちと会ったのも、セシウスと遊んだのも、やはり夢ではなかったのです。
しずかは「ほら……」と、言い掛けましたが、止めました。内緒にしておこうと思ったのです。後で、パパとママにだけ教えることにしたのです。
足を奇麗に洗ってもらって、佳世おばさんと一緒にタンスの中身も奇麗にしました。
お散歩をして、お昼寝をして、佳世おばさんのお家で、佳世おばさんの家族とお夕飯を食べて、すっかり夢の中に入った頃、パパが帰って来ました。
しずかの思った通り、パパは嘘をついていました。
「明日、ママのところに行こうな」
しずかの寝顔を見ながらパパは言いますが、当然ながらしずかに聞こえているわけがありません。
でもパパも、知らぬ間にしずかにボーイフレンドが出来ているなんて夢にも思っていません。
ですから、しずかから「せしゅーのおよめさんになる」と、言われて、「せしゅーって誰だっ?!」と、倒れてしまうのは、もう半日くらいだけ先のお話。
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