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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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小旅行

すみません。また、投稿の「ポチッ」を、忘れていました。

――――そして、数分後。


実菜は剣持の運転する車の助手席に乗っていた。


「見せたいものがある」


と言った剣持だが、どこに向かっているのかは教えてくれてない。


「今日は軽トラじゃないんですね」


車で行くと言われた時に、以前、静加の家から駅まで送ってくれた軽トラかと思って一瞬だけ躊躇した。

だが、それは黙っておくことにする。


「はは。あれは山用だよ。それに、静加さんの所有物だしね」



静加。



「そういえば、社長って静加の弟子になりたかったんですよね?」


弟子になりたければ養子になれ、という無理難題をふっかけたと静加が言っていた気がする。

実菜が運転中の剣持の横顔に向かって言うと、彼はなぜか苦い顔をしていた。


「あのさ、社長ってやめない?そりゃ、会社ではそれでいいけど……すんごく壁を感じてしまうのだけれども?」



確かに。

でも、呼ぶの?名前を?誰が?誰の?



名前を呼ぶだけなのに緊張で全身が熱くなっていく。


「じゃあ、剣持……さん?」


「………」


剣持は苦い顔のまま何も言わない。薄々勘付いていたが、やはり違うらしい。


「陽人……さん?」


「聞こえなーい」


激しく照れてしまい、蚊の鳴くような声の実菜に、剣持が意地悪く言う。


「陽人さん!!」


「はーい!……でも、さんも敬語もいらないんだけどな」


剣持は言いながら嬉しそうに破顔した。

実菜はそんな剣持の横顔をまじまじと見つめていた。



なんだ、「はーい」って。

なんだ、この可愛い少年は。

ギャップ萌え?ギャップ萌えを狙っているのか?!



実菜は、無邪気に笑う剣持の頭をわしゃわしゃとしたい衝動を必死に堪え、悶えていた。


衝動に負けるもんかと悶ながらもキュン死にしそうな実菜に気付くこともなく、剣持は続けた。


「そうそう、実菜には経緯をちゃんと話しておこうと思ってたんだよね」


「……経緯?」


キュン死にしていたせいで、自分がした質問を忘れていた実菜が「はて?」と、小首をかしげた。


「そう。元々は実父が調子が悪い時期があってね、静加さんの患者だったんだよ。俺が高校に上がった頃だったかな、そこで初めて会ったんだ。それで、弟子になりたいって言ったら俺には向いてないって断られた」



多分だけど、色々と端折られている気がする。



「ところで、静加って何屋さんなの?」


「あれ?聞いてないの?気功師だよ」



気功師っ?!

気功って、「はーっ!」とかやって相手に触れずに倒すとかの?!

静加っぽい、といえばそうだけど。



「気功師って……治療もするもの?」


「よく分からないけど、治療が主みたいだよ?だけど、前に言ったでしょ、静加さんは憑れて来ちゃうって」


だから、実菜はそれと間違われたわけだが。


「それが関係しているのかは分からないけど、静加さんに治療を依頼する患者の殆どが、憑いてる患者だったんだよね。だから、それを払うとケロッと体調が良くなっちゃう」


霊障というものらしい。と、剣持は笑いながら語っているが、全く霊感らしいものがない実菜にしたら、異世界と同じくらい不思議な世界だ。


「実父も実はそういう患者だったんだけど、実父に憑いてたのは凄いやつだったらしくて、流石にそれを払うのは専門家にお願いしてたけどね」


「凄いやつ?」


「うん。なんだか、元は神様だったけど闇堕ちっていうの?悪いものになったのが憑いてたらしい。まあ、そんな訳で本人も周りも最近は気功師なのか霊媒師なのか、よく分からなくなってたけどね」


「ふ、ふーん?」



……闇堕ちの神様?なんだか、どこかで聞いたことのある話ね。よくあることなのかしら。


でも、だから静加に職業を聞いた時、歯切れが悪かったのかもしれないわね。



「てことは。……は、陽人さん……も気功師になりたかったということ?」


まだ名前を呼ぶのは照れてしまう。名前の部分だけ小声になってしまい、「少しずつ、慣れてね」と、剣持に苦笑された。


「気功師……うーん。そうだね。なんでも良かったというか……」


しかし、苦笑したまま返す剣持は、何故だか歯切れが悪かった。


「違うの?」


「あの……さ。言って、引かない?」


運転中の剣持が、一瞬だけ実菜を見やった。

見れば剣持の顔は耳まで紅潮している。



よそ見をしないで欲しい。

そして、話を聞かないと、引くかどうかは分からない。



赤くなるということは、何かやましい理由だろうか。黙っている実菜に、意を決した様子で剣持が口を開く。


「静加さんに会った時に……なぜか、近くに居てあげなくちゃ。と、いうか、一緒に居たいって、思ったんだよね。だから、側にいられれば弟子でも何でもよかったというか……」


「………」



……それって。



「あぁあ!!違うよ?!恋愛感情みたいなものは一切ないからね!!兼元には年増好きとかって散々からかわれたけど!」


無言のままの実菜に不安になったのか、剣持は慌てて補足した。実菜の方を見られないので、左手で実菜の手を探り当てると、ぎゅっと恋人繋ぎにして、しきりに親指で実菜の親指を擦っていたが、流石に祖母と孫ほど離れた男女の仲を疑うことはない。



そうか、陽人さんはラインハルトの人生の全てを見たわけではないのね。

じゃあ、純子が九条純子だということも、もしかして気付いてない?


……だけど、惹かれたものがあったのか。


だって、静加は二人の子供だもの。


理由は思い出せなくても、大事にしてくれてたんだ。



それを思うと、嬉しいような切ないような。何とも形容し難い感情が込み上げて、ついつい堪えきれず、「ぅっ、ふぅっ」と、声を漏らした。


「えっ?!実菜?!何で……違うって!泣かないで!どうしよう……車を停められるところ……」


突然泣き出した実菜に、勘違いさせたと勘違いした剣持が、繋いだ実菜の手を抱きしめるようにして狼狽えたが、残念ながら車は高速道路に入ったばかりだった。


えっ、どこまで行くの?と、思ったが、嗚咽で言葉が出ない。勘違いも正したいところだが、取り敢えず落ち着いて運転して欲しい実菜だった。


すぐに涙も止まったが、剣持が動揺しそうな気がするので運転中は静加のことは言わないでおこうと決めた。

そして、鼻をかみたいので手を離して欲しいのだけれども、離して欲しくもないというしょうもない葛藤をした結果、片手で鼻をかむという特技をあみ出した。



「それにしても、よく養子なんてご両親が許しましたね」


何度も実菜を気遣い、車を停めようとする剣持を制して話を戻す。それでも実菜が心配なのか、話に集中出来てない様子だ。

そして、周りの景色といえば、どんどん緑豊かになっていく気がした。


「あ?ああ……そうだね。俺があんまりしつこいから……その辺は親と静加さんとでも話し合いがあったみたいだけどね」


その頃を思い出したのか、苦笑した。


「俺の実父は代議士をしているんだけど、兄と弟がいるからね。特に跡継ぎ問題とかはないし、家を出てもいきなり他人になるわけではないから、今でも関係は良好だよ」



ん?今、さらっと何か言った?



「でも、静加さんからは条件があってね。それが、独立することだったんだ。だから、単純に起業すれば良いのかな?って、最初は軽い気持ちで起業しちゃったんだけど」



うん。普通は単純ではないと思う。凡人には簡単に上手くいかないと思うしね、そんなこと。



「俺はあくまでも静加さんの住み込みの弟子になるテイでいたんだけど、今思えば最初から静加さんにはこれっぽちもそんな気はなかったんだよね。

いや、俺の両親の方かな?ある程度、安定した収入を得られるようになった時に、養子になることを許してくれたから」


色々と突っ込みたい実菜を余所に、懐かしそうに遠い目をしている剣持。


「ね、陽人さん?代議士って言った?」



確かに、剣持という名字の議員さんがいたような、いなかったような。



「へ?ああ、実父?うん、そう。だけど……」


剣持はバツが悪そうに言葉を濁すと、握ったままの実菜の手の平を忙しなく揉み始めた。

見れば、何となく視線が泳いでいるようにも見える。



なに?急に?



実菜は運転免許は持っているが、ペーパーであった。なので、よく分からないが、こんなにも運転に集中しなくても良いものか不安になってくるのである。


「俺が実父の言うことをきいてしまった所為で、結果的に実菜に辛い思いをさせてしまったよね。ごめん」



謎の謝罪をされた。



「俺は最初から断わってたんだ。なのに、いつまでも使えない秘書を、天下り先みたいに俺に押し付けてさ」


「もしかして、木根部長って?」


「実父の元秘書。でも実父にもちゃんと言っておいたから、使えない人間はどこに行っても使えないって。それと、もう誰も引き受けない、ともね。元々、少数精鋭でやってるんだから、そんなに増やしたくもないんだよ」


「……そっか」



そうか、だからか……。

不思議だったのよね。なんでお爺ちゃんみたいな人がいるんだろって。仕事をしている風でもなかったし。

確かに、あの人は根本的な考え方を変えないと変わらないだろうな。そもそも、もう仕事を無理してやらなくてもいいような気もするけど。



実菜の手は今や剣持の精神安定剤にでもなっているのだろうか、ひたすらもみもみとした後、気がすんだのか握ったまま剣持の膝の上に置かれてしまった。


しかし、実菜も運転中の剣持がこちらを見られないのをいい事に、ここぞとばかりに横顔をまじまじと見つめていた。



この顔でお坊ちゃまか。だったら、余計にモテたよね〜。

あ、でももう、この人は私の……。



剣持の横顔を見つめたまま、実菜の顔が紅潮していく。そして、剣持の隣に立つ自分の姿を想像して今度は血の気が引いていった。


「ゴンッ!!」


実菜の頭が車の窓に激突した音である。


「えっ?どうしたっ?!」


「いえ、何でも……ないです。今更ながら、顔面偏差値の差を痛感したといいますか……」


「何?何のこと?具合でも……あ!もしかして車に酔った?!」


「いえ、違いますので、どうぞ、お構いなく……」


「??」



間違いなく、不釣り合いよね。

なんだか、隣にいるのが申し訳ないわ。


うぅ。何で今までそこを考えなかったのかしら。

でも、でも。陽人さんは私のことを好きって、言ってくれたもん。

美女と野獣があるんだから、逆があってもいいわよね?!

そうよねっ?!



座席にもたれて、そんな事を考えていると、車はいつの間にか高速道路の出口に向かっていた。


「あ、あの、どこまで行くのでしょうか?」


見れば周りは、本当に、なんというか、田舎の風景になっていたのだ。ここまでくると、ちょっとした小旅行な気分になる。


「言ってなかったっけ?家だよ」



家。……うち?誰の?何しに?



「今日は天気が良いからさ、実菜に見せたいなぁ、と思ってさ」


剣持は何やらご機嫌である。



だから、何を?



静加とは、血は繋がっていないはずなのに、言葉が足らないところは似ているらしい。

一緒に生活していると似てくるのかもしれない。


「何を見せてくれるんですか?」


仕方がないので、質問してみた。


「それより、お腹空いただろ?何か食べようか」


教えてもらえなかった。


だが、お昼も食べずにドライブしていたので、お腹が空いているのは確かだ。既に四時を回っている。


見覚えのある町並みを少し走ると、趣のある食堂の駐車場に車を停めた。

剣持の馴染みの食堂らしい。中に入ると年季の入ったテーブル席が十席ほど。だけど、綺麗に掃除されていて清潔感のある、居心地の良い空間だった。時間的なものなのか、お客さんは二人以外にはいない。


「いらっしゃい……あれぇ?陽くんじゃないかい?!久しぶりだねぇ。あらあら、可愛らしいお嬢さんを連れて。お嫁さんかい?」


割烹着を着たお婆さんが調理場の方から出て来ると、親しそうに声を掛けてきた。その声色と微笑みはまるで孫に接する様な雰囲気で、「さあ、さあ」と、言って二人を席に座らせると、店の奥に向かって声を上げた。


「お爺さーん!陽くんがお嫁さんを連れて来てくれましたよー」



お、お嫁さん……。

すみません、こんなんで。



「千代さん!まだ!……まだだから」


「おや、そうなのかい?()()恋人かい」


千代さん、とは女将さんのことなのだろう。千代さんは、慌てて止める剣持と、真っ赤な顔で俯く実菜を見ながらによによとしていた。


「んー?なんだい婆さん。大きな声で」


奥から出て来たのはお爺さん。どうやらこの食堂はご夫婦で営んでいるようだ。


「おー、陽か。おっさんになったな。全然、顔出さなくなりおって、全く」


そうは言っているが、その顔は嬉しそうににこにこしている。この老夫婦と剣持はよほど仲が良いようだった。


「よーし、待ってろ。すぐ用意してやっからな」


そう言うと、まだ注文もしていないのに、お爺さんは調理場へと戻って行く。

剣持も注文する様子もなく、「ここのおじさんと、おばさんには凄くお世話になったんだ」と、耳打ちした。


「こんな良いお嬢さんを連れて来たなら、静加さんも喜んでるでしょ。もう、会わせたんかい?」


「それが、実は……」


剣持は静加は失踪した事にしていた。遺体がないのだから、仕方がないといえば仕方がないが、少しの心配もしていないのは周囲からしたら不審に思われるかもしれなかった。



「えぇえっ?!静加さんが!いつからだいっ?!」


話を聞いて驚きすぎた千代さんが、思わず二、三歩後退る。腰を抜かしたのではないかと剣持は思ったのか、彼女を椅子に座らせた。


「今月の始めですよ。捜索願いは、一応出してありますけどね」


一応そういう形だけはとっていたようだ。だが、どんなに捜しても見付かるはずはないので、捜す側からしたらいい迷惑な話だった。


「はぁ……、まりちゃんの事があったばっかりなのに、良くないことが続くわねぇ」


「まりちゃん?」


「剛造さんとこの、お孫さんよ。亡くなったの。交通事故ですって……まだ高校生なのに」


「ええっ?!あの子が?」


初耳だった剣持は、軽く腰を浮かして驚いた。


「落ち込んだ剛造さんは見ていられなかったわねぇ……でも、きっと、静加さんは大丈夫よ。きっと見つかるわ」


意気消沈していた千代だったが、奥から声が掛かると立ち上がり、料理を運んで来てくれた。


「わあ、美味しそう!鮭定食ですね」


運ばれて来たのは、焼き鮭とご飯、お漬物とお味噌汁というシンプルな定食だった。

二人の前にトレイに乗った定食が置かれた。しかし、置かれたのはそれだけでは済まなかった。


「陽くん、唐揚げが好きだったでしょ」


コトッと、唐揚げがこんもりと盛られたお皿が置かれた。


「それと、ポテトサラダと、里芋の煮物……」


「千代さん!こんなに食べられないよ」


「今、海老フライとカツも揚げてるからね」


千代はにこにことしている。断れない雰囲気がそこにはあった。



今日は、お夕飯はいらないわね。



こんもりと盛られた唐揚げを見つめながら、実菜はお腹を擦った。

お読み頂き有難う御座いました。

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