社会と世界は独りでに回っている
叔父さんは私に似ている。
「やめるんならもうなにしてもいいだろ」
退職届に筆ペンで「ごめんちゃい☆ やめますね☆」とふざけたことを書いていた。
「普通退職願じゃないのか?」
「退職願いだとあくまで願いだ。取り消されたら終わるだろう。だから退職しますと届けるんだ」
「なるほど」
「まぁ、願と届けの違いなんて僕は知らないしそういう解釈でいる」
願いはかなわないからな。
「社長も損失がでかいとかなんちゃら喚くだろう。そこらへんはスカウトした君が何とかしてくれ」
「もちろんよ。……パパがやるわ」
「そこは自分でやるとか嘘でも言おうぜ月乃さんや」
月乃さん自分でやりましょう?
「だがまあいいのか? 損失があるのは事実だろ?」
「俺が抜けて会社が落ちるような損失なら普通にダメだと思うがな。社会なんて人が少しいなくなっても回るんだよ」
叔父さんが得意げに語る。
これが叔父さんの口癖だ。「社会と世界は独りでに回る」っていうの。ようするになんとかなるだろうっていうことなんだけどな。
地球も勝手に回ってるし世界も勝手に回ってるんだからなるようになるということもある。
「ともかく、もう倒れないでね。心配したんだから」
「そうか。悪かった」
叔父さんは頭を下げた。
よかった。ブラック企業で働いてほしくないと前々から思っていた。いつか死ぬだろう。死ぬ時期を早めてるだけだって何度も言ってきたのに聞きやしなかった。
でも、助かった。
「一人にならなくてよかったな」
「まったく……」
もう、家族を失いたくはない。
叔父さんと叔母さんは私が守る。だからこそ、ブラック企業で働いてほしくない。
「とりあえず明日退院できるから。帰りに退職届けつきつけてくる。だから、待ってろ、眠」
「うん。待ってる」
叔父さんが私の頭をなでる。
悪くない。私ってファザコンの素質あるのかもしれないな。




