柔道の練習試合
体が打ち付けられる音が聞こえる体育館。熱気がこもっている。
「一本!」
審判の声が響き渡った。
私たちの高校の体育館で、他校との練習試合が行われていた。隣の県の強豪校2校がきた。この学校は強豪というわけじゃないのだが、白露がいるから強い。
白露、ものすごく強いもんなぁ。日々白露に鍛えられているためにめちゃ強くなったそうだけど。でもまだ一年だぞ私たち。しかもまだGWだしな。
「さすがね白露」
「柔道バカだし」
「聞こえてるぞパン子」
柔道着を着た白露がこちらに近づいてきた。
私はスポーツドリンクを投げて渡す。
「あんがと」
流石に喉が渇いたのか、ごくごくと勢いよくスポドリが減っていく。
「白露、相手どう?」
「鍛えられてはいるが、一年ということもあってまだまだだな。ほとんど高校から始めたような感じのやつばかりだ。相手が妙に驕っているのは強豪校の柔道部に通っているから。先生方が私と戦わせることによって負けることを知らせたかったんだと思う」
「柔道では冷静に分析できるのね……」
「まぁ、相手ことごとく自信喪失してるしな」
強豪校の柔道部だから偉いというわけじゃないけれど。
強豪と呼ばれているのは強いからだけど先生が教えるのがうまいだけなんだと思うがな。
「お、お前っ!」
と、一人の男が声をかけてくる。
黒鍬高校と呼ばれる高校の柔道部。さっきの対戦相手の男の子が白露に近寄ってきた。近寄って、胸ぐらをつかむ。が、白露がそれをほどき、一本背負い。
よ、容赦ねえ……。
「胸倉をつかんでくるとはいい度胸だな」
「か、勝ったと思うなよ! 女如きが!」
「この体勢でまだつよがれるんだ……」
「女如きって時代錯誤よね。男尊女卑って」
「白露ってもともと男から性転換したんじゃないの? ほら、TSってやつ」
「私はもともと女性だ」
いや、知ってるけど。
それにしてもこの子柔道に関してはすごい自信家なのか? 負けてもこう突っかかってくるとはわからないやつだな。
「強豪の部活に入ったからとはいえそれで驕るのはバカだ」
「お前も驕っているだろうが! なんで高校で始めたお前と俺でこんな違うんだよ!」
「何を言っている? 私は物心ついた時から柔道に打ち込んでいるが」
「は?」
「父が警察官の偉い人でな。小さいころから自分の身を守る術として柔道を教えられていた。楽しいと思うようになったんだ。昔から柔道をやって……もう13年か。お前とは10年以上の経験の差がある。私も高校から始めた、なんて思うなよ」
「そんな……」
「まぁ、高校からでも白露才能めちゃくちゃあるから普通に勝ってたと思うけどね。知らない? テレビで特集されたことあるのよ?」
「それは中学の頃の話だ」
「中学の頃、天才柔道少女として警察官に混じって柔道をしていた子って特集されてたな」
「恥ずかしいからやめろ」
恥ずかしがる必要はないのに。
中学の頃、結構周りの高校からスカウトが来ると嘆いていた。私たちと同じ高校行くから嫌だと言ったそうだけど。
「……勝負で負けて口でも負けるとかださ」
「パン子」
そういって月乃は私を咎める。
その男の子は泣いて戻って、先生に叱られていた。勝利。




