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アルビトリウム  作者: 新条満留
第六章 旅立ち
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カオルの力

カオルの力


 翌朝は空に黒い雲が立ち込め、風も強く今にも雨が振りそうだった。ソール隊は中隊から進軍の合図を受け取り、崖の上を偵察しながら部隊と並行して進んだ。崖の上は進むに従って鬱蒼うっそうとした森が右側に広がり、左側の谷間を挟んだ崖にも同じように森が広がっていた。道らしい道がなく地面には石がゴロゴロしていた。マモルは反対側の崖の森の中に、幾筋もの煙が上り彼らと同じ方向に進んでいるのを発見した。

 「かなりの人数が進んでいるようだ。たぶん軍隊だろうが、この辺にいるのは妖獣くらいだ。あっちに移動しよう」

 マモルはカオルに言った。

 「移動しようって…橋もないのにどうやって?」

 カオルは不思議そうに訊いた。

 「飛べばいいじゃないか」

 マモルは微笑んだ。

 「飛ぶ? どうやって?」

 「お前を抱えて俺がジャンプする」

 「そんなこと出来るの?」

 「ああ、最近飛び方を思い出したんだ。まだ長い時間は飛べないけど、この崖くらいなら簡単さ」

 「ひえぇ! あなたどこまで凄くなっていくの? あ、でもちょっと待って、トイレに行ってから」

 「じゃあ、その間に皆に伝えておく」

 「うん」

 カオルは慌てて森の中へ走って行った

 「俺たちはあっちの崖に移動する。お前たちはこのまま進んでくれ」

 「了解!」

 「隊長、奴ら森の中から出て来ましたよ! なんか大きな丸い物を持ってます」

 トレスがその方を指差して言った。

 「しまった! あれを中隊に落とすつもりかもしれない」

 「カオルぅ、俺は先に行くぞ! お前はウヌスたちと一緒にいてくれ!」

 マモルはまだ走っているカオルに向かって言った。

 「えっ!! ちょっと待って! 私も一緒に行く!」

 カオルは慌てて戻り始めた。

 「トイレは大丈夫なのか?」

 マモルは戻ってきた彼女に訊ねた。

 「たぶん少しくらいなら我慢できるわ!」

 カオルは頬を染めて言った。

 「じゃあ、行くぞ!」

 マモルはそう言って彼女を両腕で横向きに抱き上げた。

 「えっ!? おんぶじゃないの?」

 カオルは彼の顔が正面にあるので照れていた。

 「おんぶじゃ、仰け反るかもしれないからな。この方が安全だ」

 「う、うん。分かった」

 「首にしっかり両腕を回しておけ。じゃあ、行くぞ!」

 マモルはそう言って走り出そうとした時、後ろから大声で呼び止められた。

 「コラァ! オラを置いていく気か! 一緒に連れて行かんかい!」

 プエルが抗議した。

 「何でお前を?」

 マモルは不思議そうに訊ねた。

 「お、お前一人じゃ…危ないからに決まっておろうが…」

 プエルは小さな声で言った。

 「そうか…じゃあ、カオルのお腹の上に乗れ。確り捕まってろよ! じゃあ、行くぞ!」

 マモルはプエルが彼女の上に乗ると、全速で崖の縁まで走り始めた。

 「は、速い、速い! まるで風になったみたい!」

 カオルははしゃいでいた。だが、崖が近づくと彼女は恐怖に顔が引きった。

 「ちょ、ちょっと、マモル! 崖よ、崖よ! い、いやぁああ!! 落ちる、落ちる!」

 カオルは目をつむって彼にしがみ付いた。マモルは崖の縁で思いっ切りジャンプした。すると本当に空に舞い上がった。

 「きゃああああ!!!! こ、こ、怖すぎるぅううう!!! 止めてぇえええ!!!」

 カオルは絶叫していた。彼女は怖さのあまり失神しそうになった。

 「お前、声が大き過ぎる。敵に気づかれちゃったじゃないか! 仕方ないこのまま突っ込むぞ!」

 マモルは困惑した顔で言った。

 「ちょっと、いやぁあ、このままってどんだけ距離があると思ってるの? 無理よ、無理よ! 下ろしてぇえええ!!!」

 カオルの言葉を無視して彼は飛び続けた。その速さも彼が走った時と同じ速さほどあった。彼女じゃなくても怖がるのは当然だった。

 敵の集団はマモルに気づくと矢を浴びせて来た。ファルは光の障壁をマモルの前に出現させて矢を防いだ。敵は弓や投擲などの飛び道具を使った攻撃を得意とするシュータリオンという妖獣族だった。

 マモルは敵の密集している真ん中に着地した。そしてソルジャーに変身すると竜巻が巻き起こり彼の周囲にいた敵は風で吹き飛ばされた。彼はカオルたちを下ろすとグラディウスを抜き放った。

 「カオル、障壁を作れるか?」

 マモルは訊ねた。

 「ええ、勿論!」

 カオルは笑顔で答えた。

 「じゃあ、俺が敵を引きつけるから自分の身体を守ってくれ!」

 「了解!」

 カオルは応ずると、腰にぶら下げていた『麗波れいはの法器』を両手で前に突き出した。すると彼女の周りに黄色い光の盾が幾つも現れ彼女の周囲をグルグルと回り始めた。彼女に向かって放たれた矢は全て盾に弾かれた。マモルは既に敵の一角を切り崩していた。敵は接近戦に弱いが身体が異様に硬かった。そのため刀で両断するのは無理だった。一撃で倒せないと判断した彼は炎弾を放って敵の身体を焼き始めた。その時だった。

 「コキュートス!」

 カオルが法器を右手に持ち身体を覆うようにグルッと一周りさせていた。彼は驚いて彼女の方をチラッと振り向くと法器が青く輝きを放っていた。次の瞬間、周囲にいた敵が凍り付いてしまった。彼が呆然として立ち尽くしていると、彼女は法器を身体の前面に突き出した。すると身体を覆っていた氷と一緒に敵の身体は砕け散ってしまった。

 マモルは唖然としてカオルを見つめた。

 「今、何やったんだ?」

 マモルは数百体もいた敵の残骸を呆然として見回した。

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