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アルビトリウム  作者: 新条満留
第五章 過去
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決心

決心


 マモルはファルの話が終わっても呆然としてしまい、どんな言葉を掛けていいかも分からなかった。彼女は包み隠さず正直に心に秘めていた想いを彼に打ち明けた。本来ならここで否応どちらかの答えを返すべき場面である。だが今では彼の心にも迷いが生じていた。カオルを愛しているのは間違いなかった。だがファルを単なる自分の幻霊に過ぎないと位置づけることもできなくなっていた。もし彼女にここで告白されなかったら彼の彼女への想いは自分の気の迷いに過ぎないと振り切ることもできた。だがこうして彼女の本当の想いを知ってしまった今、彼の心の揺らぎが突然ある位置に昇華し始めていた。それが好きという感情なのかどうかはまだ彼自身にも分からなかった。それがステラだった時の自分の想いが蘇ってきたことに依るものなのかどうかも判断が付かなかった。

 事実としてあるのはカオルを愛しているということ。そしてファルは自分の幻霊であるということ。

 しかし彼はこのアルビトリウムに来てから、ファルと一年以上もの長い時間を二人だけで過ごしてきた。彼はカオルとマテリアで過ごした一ヶ月よりも長い時間を積み重ねてきてしまっている。その間、彼女は彼に献身的に尽くしてきてくれた。それは契約という枠の中で捉えれば、それだけに過ぎないものと片付けられる。だが彼女が個人的な想いを込めて尽くしてきたとなれば話が別になってくる。しかしそれは彼女にしか分からないことだ。

 マモルにはまだやるべきことがある。早く力を取り戻すこと。そして記憶を取り戻すことだ。だから今はこのことについて結論を急ぐべきではない。これからゆっくり答えを出せばいい。彼はそう考えた。

 今はファルの心を鎮めてやらなければならない。彼女は俺の大切な幻霊なんだ。これからもずっと……永遠に……

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