カオルとファル
カオルとファル
「えっ!? あ、あああ!!!」
カオルは驚いて身を乗り出してマモルの肩の上にいるファルをまじまじと見つめた。
「初めまして…かな、カオルさん!」
ファルはカオルに向かってお辞儀をした。
「あ、あ、はい、初めまして……マモル、これ、何なの?」
カオルはファルを不思議そうに見つめた。
「そう言えば、まだ紹介してなかったな。彼女はファルって言って、俺の幻霊なんだ」
マモルは苦笑して紹介した。
「ゲ、ゲンレイって、一体何なの?」
カオルは少し落ち着きを取り戻し椅子に座り直した。
「俺もまだ詳しく分かってる訳じゃないけど、『テネレ』という称号を戴くと、その兵士はファルのような幻霊を授かるらしいんだ」
マモルはファルを見ながら言った。
「『あれ』とか『これ』って呼ばれるのも心外だけど、初めてみたいなものだし、許してあげます。私はマモルの守護を司る幻霊。私はマモルと主従契約を結んでいて、彼を守るのが役目なの」
ファルは彼の顔を見つめながら説明した。
「あ、ご、ごめんなさい! 少し驚いてしまって……悪気はなかったの」
カオルは慌てて謝罪した。
「別に気にしないでいいわ。知らない人が驚くのは仕方ないもの。でも、本当のこと言えば、あなたと私は初対面じゃないの。あなたが昔この世界にいた時は毎日のように会ってたのよ」
ファルは彼女の顔を見つめた。
「えっ、そうなの?」
カオルは驚いた。
「だって、あなたもマモルと同じ『ポルソアメオ』のメンバーだったからよ。あなたは常にマモルと行動を共にしていたのよ」
「ポルソ…アメオって?」
マモルがファルに訊ねた。
「ここから遠く離れた南東に『諸族の城』という大きな城塞都市があるの。それは『五族』と呼ばれる、人族、エルフ族、仙獣族、幻霊族、水獣族が自分たちのために建てた城塞なの。そこの最高議決機関『五族評議会』によって公認された特殊部隊が『ポルソアメオ』という組織よ。『五族』の支族の中からそれぞれ一名ずつ最強とされる兵士を選んで構成されてたの。この大東原の平和と安定を守るためにね。マモルは人族の戦士代表、あなたは魔道士代表として、その『ポルソアメオ』のメンバーだったのよ」
ファルはそう説明した。
「えええっ!!! わ、私ってそんなに凄かったの!?」
カオルは驚きのあまり仰け反った。
「そうよ。あなたは最強の魔道士だったの。私はそれを知ってる。でも今のあなたはまだ全然その力を取り戻していない。何かがあなたの力が回復するのを妨げてるのかもしれないわ」
ファルはそう言った。
「そう…なんだ…私、頑張らないといけないのね……」
カオルは俯いて落胆していた。
「でも、それはマモルも同じよ。彼はあなたよりは力を取り戻してるけど、まだ半分にも達していない」
ファルは彼を見ながら言った。
「あんなに強いのに半分にもなってないなんて。どれだけ強かったのよ、マモルは?」
カオルは驚いて彼を見つめた。
「そうねぇ。どれだけ強かったかと言えば……例えば、バンロウの大軍との戦い、あの戦争を一人で戦っても勝てるくらいかな。それも恐らくは一瞬でね」
ファルは右の人差し指を立てながら言った。
「何だってぇえええ!!!」
マモルの方が驚いてしまった。
「まあ、私の助けが必要だけどね!」
ファルが戯けた口調で言った。
「うーむ」
マモルは上目遣いになって考え込んでいた。
カオルはファルが羨ましかった。マモルとファルがまるで夫婦のように思えた。ファルもマモルのことが好きなのかもしれない、と彼女は思った。
「少し訊いてもいいかしら、ファルさん?」
「私のことはファルって呼んでくれて構わないわ。以前はそう呼んでたのよ。その代わり私もあなたのことをカオルと呼ばせて貰うわ」
「じゃあ…ファル…あなたたち幻霊って姿を消したりできるみたいだけど、消えてる時はどうしてるの?」
「マモルと融合して意識体になってるの」
「その時は外のことは分かるの?」
「ううん、直接認識することはできないわ。でも知ろうと思えば、マモルが感じてるものを感知することはできるの。それで間接的に外のことが分かるわ」
ファルは説明した。
「じゃ、じゃあ、あの…マモルと私が…その……」
カオルは頬を赤く染めて言葉を濁した。
「うん? どうかしたの、カオル?」
ファルは不思議そうに彼女を見つめた。
「い、いえ…何でも……」
カオルは俯いてモジモジした。
「何で赤くなってるの? もしかして…私がマモルのことをいつでも監視してるって思ってるの? そんなことしないよ。ただ知ろうと思えば分かるってだけで、いつも彼の感じたものを私が感じてる訳じゃないの。彼が戦ってる時でもなければ私は眠ってるわ」
ファルは彼女の気持ちを察して言った。
「ふぅ…良かった!」
カオルはホッと胸を撫で下ろした。
「お互いに個人的なことは干渉しないようにしないと、長くいい関係は築けないと思わない?」
ファルはそう言って微笑んだ。
「うん! そうよね、いくら仲良くても、ちゃんと区別するものはしないとね!」
カオルは彼女に好感を持った。
「ええ!」
ファルはそう言って彼女に微笑みを向けた。
「でも、何か羨ましいわ。いつもマモルと一緒だなんて」
カオルはしみじみと言った。
「そうとも言い切れない時もあるわよ。辛い時だって……あるのよ」
ファルはボソッと言った。
「そうよね! マモルは手が掛かるからね」
カオルはちらっとマモルを横目で見遣った。
「うんうん!」
ファルは大きく頷いた。
「あははは!」
カオルとファルは一緒に声を出して笑った。
「お前らなぁ、何で俺の悪口で意気投合してんだ!」
マモルは困惑した顔で抗議した。




