白仙城
白仙城
朝になるとマモルたちは『白仙城』へと出発した。マモルは城に近くなると山の頂に聳える尖塔を見上げた。
「近くで見ると迫力あるな。こんな物をどうやって作ったんだろう。機械なんてないのに…。これが『アルビトリウム』の人々の持つ能力……」
マモルはそう思った。
マモルたちは城門に近づいて行った。その左右には衛兵たちが立ち門を守っていた。ケラススは衛兵の一人に通行証を見せた。城門を通ると大通りが真っ直ぐに山頂に向かって伸びていた。建物は白い石や煉瓦造りでその多くは平屋根だった。壁や屋根はそれぞれ様々な色で塗られ所々に真っ白な建物が見受けられて目を楽しませていた。通りの両脇には店が建ち並び買い物客で賑わっていた。人間の他にも全身が体毛や鱗に覆われている者たち、身長、毛の色、目の色、二足や四足歩行、様々な種族が楽しそうに買い物をしていた。
マモルは物珍しそうに通りの両側をキョロキョロと見回しながら進んだ。大きな尖塔のある山頂まではかなりの距離があった。彼らが城門を潜った時には真上にあった太陽も彼らが山頂の第二の城門に着いた時には日が傾きかけていた。
山頂の城門は麓の城門よりも高く門の大きさもマモルの身長の五、六倍の高さがあるように思えた。そこの左右を守る衛兵は重装備で体躯の良い歩兵だった。ケラススはさっきとは違う種類の通行証を衛兵に見せた。少し経つと大きな城門が大きな音を立てながら開かれた。
その内部は城塞区と呼ばれ居住区とは全く様子が違っていた。マモルは何か殺伐としているような感じを受けた。建物は公共施設、宮殿、そして円形闘技場のような巨大な物が多かった。居住区の大通りより更に広い何十人もの大人が横に並んでも通れそうな大通りがこの区域の中央にあると思われる尖塔に向かって真っ直ぐに伸び、道の両側には高く太い沢山の円柱に支えられた回廊が沢山あり、広場では戦士や魔道士たちが近接格闘訓練を行っていた。鎧甲やローブに身を包み武装している者たちばかりでここが兵士たちの居住区になっていると思われた。
マモルは呆気に取られながらそうした光景を眺めつつ尖塔へと向かった。特にマモルの目を引いたのは魔道士たちの繰り出す魔法だった。戦士たちが剣、斧、槍、拳で戦うのは分かるが、魔道士は装飾が施され宝石が散りばめられた光り輝く宝剣や宝具を手に持ち火炎、氷塊、岩石などを出現させて相手に打ち込み、それを光の障壁で防いだりしている。彼はそんな戦い方を知らなかったので愕然としてしまった。
ケラススは尖塔の近くまで来るとマモルに言った。
「ここが『大尖塔』と呼ばれているこの城砦都市の中枢よ。ここには人族の最高指導者である『長老』、そして人族の直接の指導に当たる七人の『導師』たちがいるわ。そして彼ら全員による会合で人族社会の運営方針を決める『長老修道会』がここで開かれるの。
これから私はその長老の所にあなたを案内するわ。失礼のないように気をつけてね。私の役目はそれで終わりよ。だからここでお別れを言っておくわね。あなたは私が知る最高最強の戦士よ。これからかつての力を取り戻すことになるだろうし、記憶も回復してくると思うわ。またいつか会うこともあるでしょう。でも今はこれでお別れよ」
ケラススはそう言ってウィンクした。
「今までありがとう、ケラスス! 君のお蔭で色々と助かった。また会おう!」
マモルはそう言って右掌を広げて腕を上げた。彼女は左掌を彼の手に合わせた。これが人族の友好や別離の挨拶だった。私は何も隠し持ってないという意味だった。
彼らは『大尖塔』の中に入り太い円柱が林立する白い石造りの広間をケラススを先頭にして進んで行った。そこは幾何学模様の彫刻が施され石像が柱の間を埋めていた。何もかもが巨大で遥か頭上に天井があった。彼らの前方遠くの突き当りに大きな扉があった。そこに辿り着くとケラススは扉の左側に立っていた衛兵に取り次ぎを申し入れた。扉はすぐに開かれた。マモルはその理由を恐らく山麓の門番から既に連絡が入っていたからだろうと推測した。
扉が開くと彼らの前に広々とした大広間が現れた。部屋の中央にラピスラズリのような色彩の石造りの大きな円卓があり、それを囲むように木造りの大きな椅子が置かれていた。そこが『長老修道会』が開かれる『騎士の間』と言われる会議場だった。
そしてマモルたちの真向かいでテーブルの反対側に老人が座っていた。彼は白い髭を蓄え長い白髪を持ち笑みを讃えて、他の椅子より一際大きな椅子に腰掛けていた。誰の目にもそれが『長老』だと分かる風貌だった。ケラススはテーブルに近づいて行きマモルも彼女の後に続いた。彼女は『長老』とテーブルを挟んだ真向かいで立ち止まった。
「長老、マモルをお連れ致しました」
ケラススは深くお辞儀しながら言った。マモルも彼女に倣って頭を下げた。
「おお、ご苦労だったな、ケラスス」
『長老』は満面の笑みを讃えて答えた。そして言葉を続けた。
「長旅で疲れておるじゃろう。すまなかったな。そなたの任を解く」
「はっ! ありがとうございます。それでは私はこれにて」
ケラススは再び一礼すると、マモルの方に振り向き彼にウィンクすると部屋を出て行った。彼女がいなくなると『長老』は長い顎髭を右手で掴んで何度も撫で下ろしながら、マモルを満足そうな笑顔で見つめていた。マモルはどうしていいか分からず戸惑っていた。
「久方ぶりじゃのう」
『長老』は漸く言葉を発した。
「はっ、ご無沙汰しております」
マモルはどう答えていいのか迷った末、彼に調子を合わせることにした。
「どうもわしにはマモルと言う名前はまだ馴染まんでの。そなたのことを以前のように『ステラ』と呼ばせて貰えるとありがたいんじゃがの」
『長老』は笑顔を崩さずに言った。
「はい、お好きなようにお呼び下さって構いません」
マモルは落ち着きを取り戻した。
「うんうん」
『長老』は再び満足そうに微笑み言葉を続けた。
「そなたもここまでの長旅ご苦労じゃった。大変であったろう」
「私はまだ完全に能力も記憶を取り戻せていません。正直な話、ここも初めて来た気がしています。これまでケラススにこの世界について色々と教えられ、少しずつこの世界のことを理解できるようになったばかりです」
マモルはそう言って苦笑いを浮かべた。
「そうか。それは良かった。本来ならそなたに二、三人の供の者を付けて道中の世話をさせるべきじゃったが、事情が事情なだけにわしの判断でそれを差し控えた。その代わりにケラスス一人にそなたの案内役を頼んだんじゃ。彼女は人の教育が上手なんじゃ。どうやれば人が成長できるかよく知っておる。過保護に過ぎず、かと言って冷徹でもない。人の力を見抜き、何が出来て何が出来ないかを的確に判断できる。だからそなたが早く力を取り戻すには打って付けと判断した。それに彼女はそなたのかつての戦友じゃからの」
「戦友……。…ええ、そのご判断は間違ってなかったと思います。お蔭で戦い方も段々と分かってきました。それに私にはファルがいます。彼女が私の世話をしてくれるので道中で困ることは何一つありませんでした」
マモルはそう言って胸に手を当てた。それは今は彼の身体に融合しているファルに対する感謝の気持ちからだった。
「そうかそう言って貰えるとわしも嬉しく思う」
『長老』はそう言って立ち上がるとテーブルを回って彼の方に近づいてきた。彼は少し緊張した。
「オッホン! そなたに一つ頼みがある」
『長老』は少し照れ臭そうにしていた。
「何でしょうか?」
マモルは不思議そうに『長老』を見つめた。彼はマモルの両肩に手を置き、自分の方に向けさせた。マモルには彼の目が潤んでいるように見えた。
「そなたを抱き締めさせてくれんかの?」
『長老』がそう言うと彼はゆっくり頷いた。
『長老』は笑顔を浮かべて力強い腕で彼の背中に腕を回した。彼も『長老』の背中に腕を回して抱き締めた。
「おかえり、『ステラ』!」
『長老』は彼の耳に囁いた。




