異世界の使者
異世界の使者
いつの間にか日は沈み、辺りは暗くなっていた。丘に一定の間隔で設置されている外灯が丘の上を照らしていた。人影も疎らになり僅かに残った恋人たちが所々で海を眺めて楽しそうに語らっている。虫たちが秋の夜長を喜びつつ涼し気な鳴き声で合唱し、小波の規則正しいリズムがその歌に合わせるかのように響いていた。
護と遥は暫く見つめ合ったまま互いに言葉を発さずにいた。
「話を始める前に謝罪しておきます。ごめんなさい、今まで冷たい態度で接してしまって。私はあなたを試してました。あなたが香に相応しい男性かどうかを確かめたかったんです。でも香の言っていた通りです。あなたは私が思っていた通りの人だわ。香があなたを好きになった理由が分かるような気がします」
遥は突然打ち解けた口調になり笑顔を見せた。
「……」
護は少し拍子抜けしてしまった。彼女は最初に会った時とはまるで違っていた。落ち着いているには違いないが、やはり同じ環境で育った双子の姉妹なだけあって、打ち解けるとどことなく香と性格が似ているような気がした。
「それではお話します。香の死の理由を。それを理解するには、私たち姉妹の過去にあったある出来事を知る必要があるんです――」
遥はそう言うと、身体を海の方に向けて遠くの水平線を見つめた。
私たち姉妹は幼い頃、この浜辺によく遊びに来ていました。ある日のこと、私たちは夢中で遊び過ぎて辺り暗くなってきたことにも気が付きませんでした。そして互いの顔が次第に見え難くなってから、初めて遅い時間になっていることに気づいたんです。もう門限はとっくに過ぎているだろうと思いました。その日はちょうど今日のように空が澄み渡っていて、綺麗な星々が空一面に広がっていたんです。私たちは人気もなくなった砂浜に座って、家に帰ったら両親にどんな言い訳をしようかと相談し始めました。
その時です。海の水平線の彼方に小さな光が見えて、それがどんどん私たちに向かって近づいて来るのが分かったんです。私たちは恐ろしさのあまり抱き合って怯えたまま身動きが取れませんでした。やがてその光の正体が人だと分かり始めました。でもそれが返って余計に恐ろしさを増すことになって、立ち上がることもできなかったんです。顔が見分けられる位の位置までそれが近寄って来ました。それは光の人でした。身体中が青い光に包まれて、目は瞳がなく紅く輝きを放っていたんです。背中には透明な羽が生えていました。外見からそれが女性らしいと思いました。それでも本当に恐ろしかった。私たちはただ抱き合ったまま震えていました。それは私たちをじっと見つめたまま徐々に近づいて来て、ちょうど今の私たちと同じくらいの距離まで寄って来たんです。
「『アルビトリウム』の世界にあなたたちを招く」
その光の人がそんな事を言ったんです。何か響き渡るような声でした。私たちは恐ろしくて何も言えませんでした。
「十年後の同じ日にあなたたちを迎えに来る。それまでに準備しておきなさい」
その光の人はそう言うと、目が開いていられない程の光を放ちました。そして私たちが恐る恐る目を開くと既にそれはいなくなっていました。気が付くと目の前に金色に光る物が落ちてたんです。香が震える手でそれを拾い上げて、よく見るとそれはブローチのようでした。私たちは漸く立ち上がれるようになり、その出来事の意味も分からずに走って家に逃げ帰りました。両親からは酷く叱られましたが、それさえ安心感を覚えるほど怖い体験だったんです。
その後、香はそのブローチをずっと肌身離さず持ち歩いていました。私は彼女にそんな物を捨てるように言いましたが、彼女は私の言うことを聞かず、ずっと大切に持ち続けていました。
それから十年後というのが香の死んだ日だったんです」




