秋の気配
秋の気配
夏休みが明けて新学期が始まると護と香の関係を知っていたクラスメートたちは、彼にどう接したらいいか戸惑っていた。必要があって彼に話し掛けた仲間たちも、彼に陳腐な慰めの言葉を掛ける以外に方法がなかった。
彼は夏休み前とは全く別人のようになっていた。表情は暗く、声は抑揚がなく、そして歩く姿には哀愁が漂っていた。クラスメートたちはそんな彼に同情を寄せながらも少しずつ距離を置くようになっていった。
九月も終わり頃になると、香の死はクラスメートの間でも話題に上らなくなっていた。しかし護はまだ彼女の死のショックから立ち直れずにいた。彼はほぼ毎日学校から帰宅する途中に彼女と過ごした思い出の場所を訪れては、一人で呆然として彼女との思い出に浸っていた。彼はその場所にいるだけで、彼女の面影が生き生きと蘇ってくるような気持ちになれた。しかしその場所を離れてみると、それが幻想に過ぎないのだと思い知らされた。彼にとって現実は過酷で意味のないものになっていた。
護は香の死によって生と死のことを深く考えるようになっていた。生きるというのはどういうことなのか。ただ息をして、食べて、活動をするという日常の繰り返しが生きるということなのか? はっきりした生の意味は分からなかった。人は生きていながら、その本当の意味を誰も知らない。それは仕方のないことだった。人は死のことを何も知らないのだから。
人は対立する二つのことを知ることから物事を理解できるようになる。それが『分かる』ということなのだ。物事を『分ける』ことが『分かる』という語源だ。だから『生』しか知らない生きている人間は『死』のことを全く知らない。『死』を知った瞬間に『生』を失ってしまうのだから、『死』を知ることも経験することも永遠にできないことになる。だから人は『生』を知ることもできないんだ。それでも人は知りたがる。『生と死』の意味を。
護は考えた。俺は本当に生きているんだろうか? 死んでしまったのは俺の方で、彼女は本当は生きているんじゃないかと。人はどうやって自分が生きていると知るのだろう?それは人が死に近づいた時なのか?
「今の俺は死んでいるに等しい。生きている実感を失ってしまったのだから」
護はそう思った。
彼は気が付くと、いつの間にか彼女と出会った『紅葉通り』を歩いていた。
「俺は過去に生きている。現在を失ってしまったからだ。だから俺は今、きっと死んでいるんだ」
護がそんな風に思っていると、再びあの問い掛けが頭の中に浮かんできた。
「――何故――」
護はやっと気づいた。もう夏は終わってしまったんだと……




