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■第40話 哀しい重み


 

シオリに乱暴なことをしてしまったその日以来、ショウタは合わせる顔がなくて

まるでシオリから隠れるように身を潜めていた。

 

 

嫌われたかもしれないという恐怖と、なんであんな事をしてしまったのだろう

という後悔に苛まれ、ちゃんと謝らなければならないのにシオリの顔など見られない。


廊下ですれ違う時も、シオリは足を止めショウタに哀しげに目線を向けるも

その情けない下がり眉は咄嗟に顔を伏せ口をつぐみ、決してシオリを見ようとは

しなかった。

 

 

しかし、絶対に諦めないという気持ちは変わらなかった。 むしろ余計に気持ち

は高まっていた。

それを表すかのように毎朝毎朝青りんごだけはシオリの机の上に置きに行った。

その存在でまるで ”諦めない自分 ”を誇示しているかのように。

 

 

もう昼休みですらシオリと一緒にいられなくなったショウタは、再び狂った

ように勉強をしていた。 哀しさ、寂しさ、怒り、苦しみ、全てをぶつける

かのようにその大きな背中を丸め教科書を睨み付ける。 

 

 

シオリが来ない部室にひとり、教科書を広げ勉強をしながら食べる昼食。

自分の咀嚼する音とシャープペンシルが文字を記す擦れた音だけが物哀しげに響く。

 

 

 

 

  ”コレ、ちょうだい?” 

 

 

シオリが箸を伸ばして、ショウタの弁当のおかずを摘みもぐもぐ食べ、

『美味しい。』 と嬉しそうに頬を緩ませて笑った顔を思い出す。

 

 

 

ふたりで笑い合って食べたあの時間は夢だったのではないかと思う程、

ひとりのそれは虚しくて寂しい。 シオリがいなくては何を食べたって

美味しくなどない。 

ただ数回咀嚼してただ飲み込み胃に落とすという行為でしかなかった。 

どんなに味の濃い玉子焼きも、全く味気なく感じた。

 

 

 

時間が足りない。


勉強してもしても、追い付く気配など微塵もない。

 

 

 

思わず舌打ちをし、イライラする握り締めた拳で乱暴に机を叩きつけた。


破裂するような大きな音が静まり返った部室に木霊する。

弁当箱と箸が小さく跳ねあがり、ペットボトルのお茶がボコンと音を立てて

倒れ零れた。

その弾みで箸が1本ポトリと床に落ち、コロコロと転がって埃にまみれる。

 

 

『くそっ・・・。』 ショウタの目に涙が滲んでいた。

 

 

シオリの為なら、シオリと一緒にいられるなら勉強だって苦痛ではないショウタ。

決して得意ではないけれど好きではないけれど、シオリの為なら頑張れる。


しかし考えたくはないけれど、少しずつ少しずつ無理かもしれないという思いが

頭をかすめはじめていた。 確実にチクタクと迫りくる制限時間が、考えなしな

甘い考えをこれでもかというくらいに無残にも打ちのめす。


馬鹿が付くほど楽天的なショウタも、今更ながらそれに気付いた。

 

 

 

 

  (どうしたらいい・・・?


   どうしたらホヅミさんと一緒にいられる・・・?)

 

 

 

周りの第三者にも分かるほど、次第にショウタの顔から朗らかな笑顔が

消えていった。

時折見せる笑顔は、まるで泣いているようなそれに見えた。

 

 

 

 

机の上に寂しそうにポツンと置かれている青りんごを両手で包み、シオリは

必死に涙を堪える。 あんなに眩しく輝いていた萌葱色が、今はまるで泣き出し

そうなそれ。

 

 

 

 

  (私のせいで、ヤスムラ君から笑顔が消えちゃう・・・。)

 

 

 

 

目も鼻も唇も頬も手も声も、全部全部好きなのに。大好きなのに。


自分はいつもいつもショウタにしてもらうばかりで、何も返してあげられない。

それだけではなく、今現在、ショウタから笑顔をさえ奪おうとしているのは

誰でもない自分なのだと、シオリはどんどん自分を責めはじめた。

 

 

シオリの心も、もう限界だった。

ショウタがシオリのために頑張れば頑張るほど、シオリの心は哀しい悲鳴を

あげた。

 

 

 

ショウタのあたたか過ぎるまっすぐな想いは、次第に次第に哀しい重みを

生じはじめていた。

 

 

 


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