表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/60

■第39話 壊してしまいたくなる衝動

 

 

 『だから・・・ 言ったじゃない・・・。』

 

 

決してショウタをその目に見ようとしない俯く白い顔は、必死にその声色に

感情を表さないように冷然と返す。 本当は苦しくて遣り切れなくて涙が

溢れそうだけれど喉の奥に力を入れて、込み上げるそれを抑える。

 

 

ショウタが悲痛な面持ちでかぶりを振り、腕を掴む手を緩めた一瞬の隙に

シオリは再び廊下を駆け出した。 階段を駆け上がり闇雲に走るその足は

シオリ自身どこに向かっているのか分からない。

 

 

 

ただ、ショウタから逃げたかった。


ショウタの近くにいるのがツラかった。


ショウタにまっすぐ見つめられるのが苦しかった。


本当は、全てなにもかも投げ出してずっとショウタの傍にいたいという気持ちを

口に出してしまいそうで怖かった。

 

 

 

気が付けば、ひと気のない理科室がある西棟に駆け込んでいた。


相変わらず静まり返ったそこには、シオリの靴底が床面を蹴り上げるゴムが

擦れる音と必死に涙を堪える苦しげな呼吸音のみ響き渡る。

 

 

 

 

  ”ヤスムラ ショウタ! 2年A組 出席番号18番 実家は八百・・・ ”

 

 

 

 

ショウタのやわらかいけれど強引な勢いに気圧され、ここの廊下でよく立ち話を

した事を思い出し、あの頃の想いに胸が締め付けられ思わず立ち止まる。 

 

 

 

 

  ”好きだから!


   これから少しずつ俺のこと知ってもらえればいいと思ってるから!”

 

 

 

 

  ”俺がさ~・・・


   すんげー がんばってがんばってさ~


   ホヅミさんの気持ちを変える可能性だってゼロじゃないじゃんっ?”

  

 

 

 

いつもいつもショウタがバカが付くほど呑気にお気楽に、そして陽だまりみたい

に笑っていた。 土足でシオリの心に踏み込んで、あたたかい陽を照らし気が

付けば橙色のミムラスを咲かせていた。

 

 

すると、大きな足音と共にショウタがもの凄い勢いで追いかけて来た。


そして廊下に俯き立ち竦むシオリをその目に捉えると、勢いもそのまま思い切り

後ろから抱きしめる。

 

 

 

 『なんで・・・ なんでだよ、やだよ・・・。』

 

 

 

ショウタの熱い息をシオリは耳元に感じていた。

すがるように呟き抱きすくめるその腕は、シオリを押し潰してしまいそうに

力が強い。

 

 

 

 『ごめんね・・・ 今まで、ほんとありがとう・・・。』

 

 

 

愛しくて仕方がないやわらかく低いショウタの声色に、シオリは冷静を装うのも

限界だった。 思わず漏れた諦めたような涙声に、ショウタが爆発する。

 

 

 

 『 ”ありがとう ”ってナンだよ? 


  なに、想い出みたいな言い方してんの?


  進行形だろ!! なに終わらしてんだよ・・・ やだよ・・・


  ・・・ゼッタイやだ!! なんで離れなきゃいけないんだよ・・・。』

 

 

 

シオリの背中から離れ向き合うとその細い両肩を掴んで顔を覗き込むショウタ。

情けない下がり眉が更に下がって、その顔は哀しげに悔しげに今にも泣き出しそうで。

 

 

 

 『・・・ホヅミさんは、それでもいいの・・・?』

 

 

 

シオリの瞳に今にも溢れそうな涙を目に、ショウタが懇願するように肩を揺さ

ぶる。 乱暴に揺らされ、とうとうその透明の雫がツヤツヤの白い頬にカーブを

描き伝い流れた。

 

 

 

 

  (誰にも渡さない・・・ 離すもんか・・・。)

 

 

 

 

  誰かにとられるくらいなら、いっそのこと壊してしまいたくなる衝動。

 

 

 

突如、ショウタの心にそれが湧き上がったその時・・・

 

 

シオリの細い手首を激しく掴み、その華奢な体ごと廊下の壁に押し付けると

ショウタは無理やり唇を押し付けた。 その軽い体は容易にショウタの思うまま

ざらつく壁材に押し遣られ、ブレザーが擦れる感覚を背中に伝える。


その突然の衝撃に驚き目を見張るシオリ。 唇にかかるショウタの荒く熱い息。

乱暴に掴まれた手首が圧迫されジリジリと熱をもち痛み、はじめて感じる

”恐怖 ”に身が竦んで動けない。

 

 

『ぃ、いや!!!』 わずかな唇の隙間から拒絶をするも、再び強引に唇を

塞ぐショウタ。


激しくぶつかった際に唇が少し切れたのか、鉄のような血の味が微かに口内に

広がり無理やり押し入ってきた熱い舌先のぬめった感触に、シオリは怯えて

仰け反り必死に顔を避けようとする。

 

 

激しくもがいてショウタの腕から逃れようとするも、シオリの細い体は

”男の顔 ”をしたショウタには敵わない。


怖くて恐ろしくてガタガタと震えショウタに涙で潤む怯えた目を向けると、

そのシオリの顔に呆然自失状態だったショウタの手から力が抜ける。 

シオリは一気に腰が抜けたように床にしゃがみ込んだ。

 

 

 

 『こ・・・怖いよ・・・ やだ・・・


  やだよ、やめてよ・・・ ヤスムラ君、怖い・・・ 怖いよ・・・。』

 

 

 

ガクガク震えながら泣きじゃくるシオリ。 乱暴に掴まれた手首はショウタの

握る指の跡が真っ赤になって痛々しく残り、シオリはそれをかばう様に胸に抱える。


”怖い ”と延々繰り返し怯えて泣き続けるシオリを、呆然と見つめるショウタ。

我に返ったように自分がしてしまった最低な行動に恐怖すら覚え、ショウタも

また目を見張りガタガタと震えた。

 

 

『ごめん・・・。』 ショウタのそれは涙声となってか細く床に落ち後悔しか

ないその瞳から透明な雫が滴り落ちる。 廊下の床材に小さな粒がぽつぽつと

広がりシオリのすすり泣きが響く中、その雫を踏みつけてショウタは逃げるよう

に走り去った。

 

 

 

 

  (やだ・・・ ゼッタイ離れたくない・・・ 離れたくない・・・。)

 

 

 

 

陽だまりのように笑っていたショウタから、徐々に笑顔が消えていった。

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ