■第38話 余所余所しい態度
相変わらず、シオリの机の上には青りんごがひとつ置いてある。
シオリの塾の送り迎えですらコウに遮られるようになってもまだ、ショウタは
決して諦めようとはしなかった。 唯一、誰にも邪魔されずにシオリとふたりで
いられる昼休みだけが日々の愉しみになり、昼休みにシオリに会うことだけを
目的に学校に行っているようなものだった。
しかし、あの夜に ”決心 ”をしたシオリはそんなショウタを遠ざけた。
昼休み。 ショウタは部室でひとり、いつもの机の上にドデカ弁当箱を乗せた
ままシオリを待つ。
早く来ないかとソワソワして待つ。 その姿が現れるであろう戸口に目を遣り、
せわしなく腕時計に目を落とす。
早く顔を見たい、早く話がしたい。 シオリの傍にいられるだけでショウタには
充分だった。
しかし愛しいその姿はいつまで経っても現れなかった。 最初はなにか忙しくて
遅れているのかと思っていた。
部室の戸口から廊下を遠く見澄ましシオリを探す。
昼休みが終わるギリギリまで待っても来ないのが分かると、慌てて弁当をその
口にかき込んで早食いし、咀嚼もおざなりに飲み込んだ。
不思議に思い10分の休憩時間にシオリの2-Cを訪ねるも、その艶めくロング
の黒髪姿はない。
休憩時間が終わり始業のチャイムが鳴り響くと、キョロキョロと尚も必死に
シオリを探しつつショウタは自分の教室に戻って行った。
その寂しげな大きい背中が廊下に消えたのを確認すると、教室の隅に隠れていた
シオリが哀しげに目を伏せ自席に着き首をもたげて小さく溜息を落としていた。
『ホヅミさんて休み?』 次の休憩時間にも訪ねて来たショウタが2-Cの
クラスメイトに尋ねている声に、シオリが息を殺して素早く隠れる。
『さっきまで居たけど。』 という返事に、再び首を傾げながらあたりを見回す
ショウタ。 まるで親とはぐれた迷子のように、必死になってショウタのその
情けない垂れ目はシオリの姿だけを求め彷徨う。
そして教室にそれがない事を確認すると、他を探そうとたった10分の短い休憩
時間なのも構わず再び慌てて廊下へ駆け出した。
その日の放課後、シオリは大慌てで帰り支度をしショウタに見つかる前に教室の
ドアを飛び出そうとしたところ、一瞬早く飛び込んで来たショウタにそれを遮られた。
きっと終業のチャイムが鳴った途端に飛び出して来たのだろう。
中途半端にカバンが開いて、中の傾いだドデカ弁当箱が覗いてしまっている。
腕を伸ばし戸口を遮って、ショウタは囁くように言った。
『・・・やっと会えた・・・。』
心の底から嬉しそうに待ち侘びたように、やさしいあたたかい声色で。
しかしショウタの顔を見るなり、シオリは哀しそうにぎゅっと口をつぐんで
目を逸らした。
決して自分を見てくれない、その大好きな大きな瞳。
決して名前を呼んでくれない、その大好きなまあるい声。
やっと顔を見られたことに弾けるような眩しい笑顔を向けたショウタが、そんな
シオリの余所余所しい態度に、今日一日その姿を見掛けなかった理由がよぎり
瞬時にあの夜の言葉が甦る。
” ・・・ありがとう。 ・・・ごめんね。”
あれは、本気だったのだと。 悪い夢でも、なんでもないのだと・・・
顔を見合わせればシオリだってやはり傍にいたいと思い直すはずだと、根拠の
ない自信と期待をしていたショウタのぬるい考えを、完全に打ちのめす。
いまだ俯き決してショウタを見ないシオリへ、 『ちゃんと話し合・・・』
苦しげに言い掛けたショウタの横を擦り抜け、シオリは無言で廊下を進む。
無視をするように、ひとりショウタを戸口に残して小走りで靴箱へと駆けてゆく
その背中をダッシュで追いかけると、後ろから乱暴にシオリのブレザーの腕を
掴んでショウタは引き留めた。
『なんでだよ・・・?』
放課後の明るい喧騒が響き渡る廊下の真ん中で、ショウタの切ない呟きが小さく
足元に落ちた。




