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■第14話 なにかが起こっている気配


 

 

シオリが突然深夜に訪ねて来た、その翌日。

 

 

まだ冬休み中のショウタは、母親に頼まれ半ば強制的に八百屋の店番を

していた。

 

 

逆さにした黄色いビールケースに浅く腰掛けて、寒そうにダウンジャケットの

ポケットに手を突っ込み背中を丸めるショウタ。 午前中はまだ買い物客の姿は

少なく疎らだった。


配達に向かうスクーターや段ボールを乗せた台車を押す姿など、どう見ても

客より商売人の方が多く通る店前の見慣れた風景。

店に立っていても立たなくても変わりない程のそれに、気怠そうに大口開けて

欠伸をする。

 

 

突然吹き付けた冷たい冬風に、そっと首元のマフラーを口許まで引き上げた

ショウタ。


かすかにシオリの香りがかすめて、昨夜のこどもの様に泣きじゃくったり、

かと思えば感情が読み取れない表情をしたりする姿を思い出して再び不安と

恐怖が胸に甦った。

 

 

なにかが起こっているのは確かなのに、それを知らされない事にジレンマを覚え

物憂げに溜息を落とす。 再び首をもたげ、眉根をひそめてそっと目を伏せた。

 

 

すると、ぼんやり俯いて足元の汚れたスニーカーに目を落としていたショウタに

ツヤツヤに磨かれた革靴が目に入った。 小さめのキャップトゥ、節度のある

クラシックなデザインながら、どっしりとした佇まいで一目で高級だと分かる

それ。

 

 

 

『すみません。』 呼び掛ける客の声が聴こえ、 


『ぁ、いらっしゃい・・・。』 慌てて目を上げた。

 

 

 

すると、そこにはいつかの雨の日にシオリを迎えに来た医大生の従兄弟が

立っていた。

 

 

『ぁ・・・ どうも。』 

驚きつつも小さく呟いて首を前にピョコっと出し会釈をし、


『あ、えーっと・・・ なんにしますか?』

今は店番中で、相手は買い物客だったと気付きポケットから手を出して、

色とりどりの野菜に目を向けるショウタ。

 

 

 

 『ごめん、買い物に来たんじゃないんだ・・・。』

 

 

 

そう目を細め微笑んで言うその姿は、すぐさま続ける。

 

 

 

 『ぁ・・・ 俺、名乗ってなかったよね?


  ・・・ホヅミ コウ。 シオリの従兄弟です。』

 

 

 

ショウタも慌てて『ぁ、あの・・・ ヤスムラです・・・。』 

よく分からないまま返した。


すると、コウは再び頬に笑みを作って言った。

 

 

 

 『青りんご君に、ちょっと話があって来たんだ。』

 

 

 

 

  (・・・俺に、話???)

 

 

 

 

名乗ったにも関わらず ”青りんご君 ”と呼ぶその声色が、どこか馬鹿にしている

感じがして普段温厚なはずのショウタもなんとなく胸に引っ掛かる。

コウが頬に浮かべる微笑みも、自然に見えるように繕った感じが逆に不自然で

気味が悪い。


それよりなにより、コウがショウタへなんの話があるというのだろう。

 

 

 

 『すいません・・・


  ちょっと母ちゃんに頼まれて今、店番してて・・・


  あと1時間くらいしたら母ちゃん戻るんで、それからでもいいですか?』

 

 

 

コウは左手首のコートをずり上げ、高級腕時計にそっと目を落とす。

大学生が付けられるようなものでは無いそれに、ブランド品に疎いショウタで

さえもたじろぐ。

 

 

『じゃぁ、1時間後に駅前のコーヒー屋に来てもらってもいい?』 

コウの切れ長の目がショウタを覗き込むように見る。 

どこかシオリに似たその雰囲気にショウタは本当に、従兄弟なのだと心の中で

再確認していた。

 

 

『分かりました。』 そう返して、去ってゆくコウの高級そうなコートの背中を

じっと見ていた。

 

 

昨夜のシオリといい、コウといい、やはり確かに ”なにか ”が起こっている

気配にショウタの胸は大きく跳ね打ち付けて、せわしない浅い呼吸に苦しげに

目を眇めていた。

 

 



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