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八千代と紗江と雅助と翔太の物語り【壱】

 ある山奥の小さな村に雅助(まさすけ)という少年が住んでいた。雅助は大人しく真面目で体は細くて大きい方ではなかったが、それでも毎日田畑を耕し病気がちだった両親を助けて黙々と働く少年だった。

 そんな雅助には翔太(しょうた)という一つ上の、と言っても年を跨いでというだけなので、実質は二ヶ月もかわらない少年が隣に住んでいた。

 その翔太は雅助とは逆に体格は良く、自分勝手で行動力がありずけずけしい少年だった。

 そんな翔太の事を雅助は嫌っていた。いや、嫌っているのは何も雅助だけではなく、他にも同じ歳ぐらいの八千代(やちよ)紗江(さえ)の二人も翔太の事は嫌いだった。

 なんせ平気で人のイヤがることをして、尚且つそのことで怒っているにもかかわらず、好かれている、もっとやって欲しいのだろうと勘違いをしていたからだ。

 嫌よ嫌よも好きの内とは言うものの、本当にイヤな事も分からずにやってくる翔太のことを三人は無視をした事もあった。

 しかし、挨拶をするようにお尻を触られたり、自分は何もしていないのに責任を目の前で擦り付けられたりすると、どうしても無視し続けることが出来なかった。

 そのうち三人は翔太はそういう人間だと諦め、何かあっても翔太が喜びそうな事は絶対に反応しないという対応を取るのみとなった。

 それから六年ほど経ち、雅助が十六歳になったころ仲が良かった八千代と恋仲になった。

 雅助は小さなころから優しく大人しい八千代の事が好きだった。だから想いを伝え、首を縦に振ってくれたときはガラにもなく飛び跳ねて喜んだ。

 八千代もずっと翔太から守ってくれた雅助のことが好きだったので、嬉しくて泣いてしまう程だった。

 二人は幸せだった。

 そんな八千代が一人で帰路を歩いていると、前から猪を担いで山から帰って来た翔太が歩いてきた。

「これスゲーだろう。今までで一番でかい猪だぜ」

 翔太は挨拶も無く狩って来た猪を目の前に置き自慢する。だが、それは本当に大きい猪で八千代も頷きながら、

「ほんとに大きい。翔太すごいね」

「だろ。まあオレ様だからな。これで今晩も宴会決定でタダ酒飲み放題だな」

 そう言って悪意も無く「ハッハッハ」と笑う。

「もう、またそんなこと言って。飲み過ぎてたら村のお酒無くなっちゃうよ」

「そんなの知るか。オレはオレで仕事してるんだ。酒作るヤツは酒作るのが仕事だろうが。仕事もしないで食べようなんておこがまし過ぎるんだよ」

「それはそうだけど……」

 確かに翔太は村一番の狩りの腕だった。翔太がいなければ、こんな立派な猪やその他の肉は食べることは出来ないだろうと八千代も分かっていた。

「お前もやらせてくれたら食わせてやるぜ」

「それなら私はいらない」

 いつものように流しながら会話をする。

「まあ、しょうがねーから食わせてやるよ。みんなオレみたいに頑張って欲しいもんだな」

 そう言ってまた「ハッハッハ」と笑った。そして猪を担ぎ直した後、

「そうだ。お前って雅助と付き合ってるんだって?」

 まだ三日と経っていないがどこから聞いたのかそう言われ、

「…………」

 八千代は顔を伏せながらコクリと頷いた。

 人には触れられたくない秘密があるというものだ。それは過去の過ちであったり、密かな想いであったりする。

 そして八千代にも、

「本当かよ!? お前オレの事好きだったくせにさ」

 そう、過去に八千代は翔太のことを好きだった事があるのだ。今では全くその気はないが、自分に正直でどんどん引っ張って行ってくれ、さらに三年前徐々に女性として成長していく段階で顔も骨格も変わっていき不安になっていたころ、翔太に「すげー綺麗になったな」と毎日のように言われ嬉しくなり、ついだった。

 それは別に自分から告白したわけではなく、ただいつものように「オレの事好きだろう」という言葉に黙ってしまったことでバレたのだ。

「…………」

「あ~唇まで合わせた仲なのによう。オレも好きだったんだぜ。――けど、これを聞いたら雅助のヤツどういうだろうな」

 二ヒヒと悪気も無さそうに笑う翔太。これもいつものことだった。弱みを握りそれをチラつかせ、いとも簡単に握り潰す。

 そして八千代は翔太を好きだったこと、ましてや相手にバレてしまったことは無かったことにして欲しかった。それに昔からいつも守ってくれた雅助にだけはそんな気持ちがあったなどという事は知られたくなかった。

 だが、その思いは虚しく、翔太は口付けをして一日と経たずに雅助にそのことを話していた。しかもやってもいない事も色々と付け加え「完全にオレに惚れている」とまで言っていたのだ。

 その時の雅助は悔しさでいっぱいだった。だが、それを誰かめに行ったり、八千代に問い詰めたりすることもなく、自分の中に押し込めるのみだった。

 しかし、そんな事を知らない八千代は、

「………………何をすれば、いいの……」

「おっ、従順だな。やっぱりやると言ったらやることは一つだろう」

 翔太のやるとは即ち性的行為を意味する。それを聞いて八千代は唇を血が出そうな程噛み締め、手も白くなる程握りしめた。

「まあ、これからいつでもどこでも二人で出来るんだから一回ぐらい気にするなって」

 など調子のいいことを口にするが、そんなことが許されるはずがないと言う事は八千代には分かっていた。だが、それでも今は過去の過ちが塗りつぶされるのであれば、と耐えるしかなく、

「じゃあ、行くか」

「…………」

 八千代は翔太に付いて歩いて行った。

 ――それから二ヶ月ほど経ったある日、雅助は八千代に人気の無いところに呼び出され、

「赤ん坊が出来たの……」

「……え?」

 それを聞き、雅助は戸惑った。なぜならば一度たりともそう言う事を八千代としたことがないからだ。だから当然赤ん坊など生まれるはずもない。もし、誰か別の人間と関係をもったのであればそうなることはある。

 それが分かり、あとは誰との子供なのかというところで、

「……翔太の子供なの」

 一番聞きたくない名を告げられた。

「………………」

 雅助は何があったか聞こうとしたが、八千代はただただ「ごめんなさい、ごめんなさい」というのみで、何も聞くことが出来ず泣き崩れ雅助の元から去って行った。

 残された雅助は呆然とし、そんな時、茂みの中から、

「まあ、そういうことだから。オレ様の男気に皆寄って来るからしかたねーって。好かれるのも困ったもんだな」

 と翔太が出てきて雅助の肩に手を置き笑う。そのあと色々翔太が自慢話をしていたが雅助の耳には入らず、「さてと、今日もやりまくるか」と言って帰って行った。

「………………」

 それからしばらく雅助は動くことが出来ず、へたり込んで気が付けば夜になっていた。


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