プロローグ
荒れた大地が続く。雲一つ見えない空からは恵みなく、恐らく地下水脈も無いのであろう荒野には生物の気配がほとんどない。昼は暑いが、見上げても頂きが見えない巨岩の連なりで涼をとれるのは救いだ。夜は寒くても分厚い毛布を被れば耐えられるから、水の少ない過酷な旅となる割には多くの商人が行き交っている。
そんな土地を、馬を使わず何日も歩き続けて、ようやく遠くに街を見付けたある旅人達は歓喜し、肩を叩き合って互いを労った。表情の豊かさはそれぞれ違っても、全員に笑顔が戻った。しかし、それからまた幾日も歩き続ける内にまた沈黙が多くなった。
そうして歩く内に、喜ばしい変化があった。ぽつんぽつんと、草木が生えている場所が出てきた。木の根元には小さな泉が必ずあり、その水はとても澄んでいて不純物も少なく見える。木が強い日の光を遮ってくれる上に、水筒に補充も出来るという、旅人にはとても良い休憩所だった。
その休憩所の一つで旅人達、馬を連れていない4人組のパーティーは休憩を始めた。装備が軽く、上着は薄手のローブ位で、手荷物は少ない。このような荒れ地を踏破したとは思えない出で立ちだが、現に彼らは街の目と鼻の先まで辿り着いており、まだ余裕が伺えた。
各自、水を汲み入れたり食事をしたりして、のんびりと時を過ごしていた。
その中に一人、身体が小さく顔立ちに幼さが残っている、パーティーの中で最年少と見られる少年がいる。若さからかじっとしていられなくなったようで、少ない草花を掻き分けて虫を探してみたり木に登って遠くを眺めてみたりと、暇潰しに余念がなかった。小さな楽園を思い付く限り探索し終わり、とうとうやることがなくなって、仲間たちの輪に戻った。
「明日には着くかなあ?」
見た目通り、まだ甘えの残る口振りで他の者達に話し掛けた。
その問いに、若いがパーティーの中では比較的年長者とみられる、男の子と同じ青髪碧眼だが顔立ちは似ていない青年が答えた。
「そうだなぁ。今のペースなら今夜遅くには着くんじゃないか?」
「ほんと!? ここらの雰囲気にも飽きちゃったし、ひとっ跳びしちゃおうよ。そしたら明るい内に着くよ」
子供らしい気の短さを表し始めた男の子に、青年はどう言い聞かせようかと迷う素振りをする。
その横で、残りの食料を全て食べ尽くさんとばかりに手と口を動かし続けていた、長い金の髪を高い位置で一纏めにした紫眼の女性が口を開く。
「見られる危険があるから却下。あの街、旅人を受け入れているとはいえ、結構封鎖的で古い考えが残っているって話よ」
次に行く街の情報はしっかりと押さえた上で出立している。
噂話ではあるが、他の街ではとっくに廃れてきている宗教を信仰する人口が多く、宗教団体の力も強い。団体は布教活動に積極的でないらしいが、政治に口を出せる程度の権力は有しているとのことだった。
「ええ~、そうなの。こんなことなら付いて来るんじゃなかったなぁ」
溜め息混じりにぼやく少年に、女性が眉値を寄せる。今さら何を言い出すのかと、顔に書いたかのような不満顔だ。
青髪の青年が苦笑し、女性が言葉を発する前に少年をたしなめた。
「まぁ、俺もここには飽きたよ。早めに行って宿で体を休めたい。もう行こうか」
ぷうっと頬を膨らませている少年以外は頷き、手早く荷物を纏め始める。その様子を見た少年も渋々動き出した。
「さあ、後もう一息だ」
納得できないものの動くことは賛成なので、男の子も黙って従った。皆に付いて行こうと歩き出した時、ふと休憩した泉の向こうにある小さな泉が気になった。木と、そこだけにある硬い枝と葉っぱの低木に隠れていたので気付かなかったが、自然にできたとは思えないほど綺麗な正円だ。
時間が無いので走って近寄り淵から覗いてみると、正円の形のまま奥へと続いている。底は暗くて見えない。奥の、暗くて見えなくなる少し手前に横穴があるのはぼんやり見えた。それも正円で、まるで配管のように見える。人工的なものではないかと思われた。
この雨の少なそうな地域で、きっと必要な役目をもつ泉なのだろうなと少年は推測した。次いで、旅に飽きていたし、泳いで探検してみれば良かったなぁと急かしたことを後悔した。
そうしていると、無口で先程の会話に全く参加しなかった、肩まである赤髪をたなびかせた赤眼の青年が近寄った。そして、ポンと少年の頭に手を置き、行こうと促した。
少年は青年を見上げた後、ふっと一つ息を吐いて頭を振った。頭を切り替えて、この旅の目的地である街へと既に向かっている、2人の仲間達の元へと駆けていった。
その後を赤髪の青年が追い掛け、また4人一塊となった。
大人の3人は、あの見えている街で何が待ち受けているかを気に掛けていたが、少年はその事情を知りながらも、何か楽しいことがあると良いと願った。




