ある保護者から見た時野先生
息子の担任の先生には、よくない噂がある。それは、旦那さんが不倫をしているという噂だ。そしてそれを、知ってて言い出せないでいるというらしい。
仕事はしっかりしている人だ。人当たりも良くて、息子が言うには授業も面白いらしい。だが、ここらで中心街と言われている駅前で、確かに見た。
先生が仲睦まじげに歩いていた顔や肌は若いのに髪だけグレーになった男の人が、別の日別の女の人と歩いているのを。それも仲良さそうに腕を組んで。
懇談会の日、不躾だとは思いつつ私は思い切って先生に聞いてみた。
「不倫をしてる? うちの旦那がですか?」
きょとんとした表情の先生。でも私が見た女性の特徴を言うと、徐々に納得した顔になる。
「というか私も見られてましたか。お恥ずかしい」
で、結局どうなんですか? 旦那さんを追い詰めたたいなら協力しますよ。
間違わないでほしいが、私はこの先生の味方だ。どうにも愛嬌があって憎めない。
年も私と同じくらいだろう。
私は、六年前に旦那に不倫されて裁判の末に離婚している。
だから私は女を泣かせる男が許せない。
「隠してる訳じゃないんで言いますけど、あんまり言いふらさないでくださいね」
そう言って先生が教えてくれたのは、先生のご一家の事実。
私が不倫相手だと思っていた相手も、先生も、あの男の人と一緒に住んでいて子供もいるらしい。
「私の姉もですよ」
「朋絵先生のお姉さんも? 三人? は?」
理解が追い付かない。
え、私が見たちょっと年配の胸の大きい女性が正妻で先生とお姉さんが内縁関係?
三人同時に愛されてる? 子供は全部で五人? 今先生が二人目、つまり旦那さんからしたら六人目を妊娠中。それは……おめでとうございます……。
「いやいやいやいや⁉」
「まぁ、そうなりますよね。でも事実ですし、法的にも認められた関係ですよ?」
「えぇぇー……」
「私たちは誇張無く幸せですよ。早くこの子を産んで、もう一人くらいは頑張ってほしいですから。旦那ももう五年で定年なんで」
年頃の少女のように頬を染めてちょっとくねくねする先生に私は唖然とする。
嘘の気配が全くしない。
そう言えば確かに、どっちも愛されてるように見えた。
後日街で四人で歩いている先生たちを見て私は納得した。
声をかけようとして、伸ばしかけた手を引っ込める。
あんなに幸せそうなんだもの。邪魔しちゃ悪い。
ふと私の脳裏に、元旦那の顔が浮かんだ。
何故かスマホを取り出して、勝手に指が電話をかける。
「はい」
「もしもし?」
「やっぱりお前か。もう恨み言はやめてくれ。あの時決着はついただろう。養育費も滞ってないはずだ」
「違うわよ」
本当に違う。ただ、あなたの声が聞きたくなっただけ。
「あの子の卒業式。来てくれない?」
「……いいのか? 俺が合っても」
「ええ。私も会いたい」
「……どういう風の吹きまわしだ」
「ちょっとね。こういうのも感傷っていうのかしら」
約束をして、電話を切る。
年度末。三月十四日が待ち遠しい。
完




