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忍びの僕に注目しないで下さい!!  作者: 酒吞ピース


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忍びの五 風間蘭丸 飛翔!

「……」


 赤田は腰を抜かしたまま、動けずにいた。


「大丈夫? 赤田くん」


 蘭丸が歩み寄る。


「ひいっ!」


 赤田は手足をばたつかせながら後ずさった。


「赤田!」


 青田と黄田が駆け寄る。


「蘭丸、お前……」


 飛山は口をぱくぱくさせながら、震える指で蘭丸を指した。


「えっ?」


 そのとき、体育館に角刈り教師の声が響いた。


「よし! お前ら、授業を再開するぞ!」


 その声を合図に、皆が堰を切ったように騒ぎ出す。


「木刀を叩き割ったぞ!?」


「風間君って、もしかして剣豪の家系なんじゃない!?」


「普通、できねえよな? なあ?」


「当たり前だろ! こんなに硬えのに!」


 同級生たちは口々に声を上げる。


 紫原小町も、目を丸くして蘭丸を見ていた。


「なんだ、いったい?」


 角刈り教師だけは、状況を飲み込めずにいた。


「これは……目立ってしまっている」


 蘭丸は小さく呟いた。


 状況を理解すると、考えるのと同時に身体が動いた。


 まずは折ってしまった木刀を拾い上げ、近くの出入り口から外へ出る。


 皆の視界から消えたところで高く跳び、火遁で木刀を燃やした。


 火災報知器に配慮した蘭丸! 偉いぞ、蘭丸!


 そして体育館に戻り、角刈り教師の前へ。


「先生、授業をお願いします!」


 突然目の前に現れた蘭丸に、角刈り教師は驚いて飛び退いた。


「うわっ! お前、いつの間に!」


「いやー、僕、影が薄くて」


 蘭丸は頬を掻きながら言う。


「……まあいい。ほら、お前ら、早く並べ!」


 角刈り教師は生徒たちに近づきながら、床に竹刀を叩きつけて声を張り上げた。


「あれ? 蘭丸? えっ? さっきまで……」


 飛山は、先ほどまで蘭丸がいた場所と、教師の前にいる蘭丸を交互に見る。


 その視線に気づいた蘭丸は、屈託のない笑顔を向けた。


 本人は、うまく誤魔化せたと言わんばかりの満面の笑みである。


 授業が再開してからも、生徒全員が蘭丸に注目していた。


 蘭丸とペアを組む飛山は、どこか居心地の悪さを感じていた。先ほどの赤田と同じ目に遭うのではないかという恐怖も覚えながら、木刀を振っている。


 一方、赤田は体育館の隅で震えていた。


 青田と黄田はその前でペアを組み、教師から赤田を隠すように木刀を振っている。


 そして、注目の的である蘭丸は、紫原のことを気にしていた。


「紫原さん、ペアは組んでるけど、話してる様子はないなぁ。恥ずかしがり屋なのかな」


 授業終了のチャイムが鳴り、男子たちは教室に戻った。


 蘭丸が席に着くと、飛山が目の前に立った。


「さて、蘭丸」


「うん?」


「聞きたいことがある」


 気づけば、ほかの男子たちも集まっていた。


「さっきの、どうやったんだ?」


「さっきの?」


「木刀だよ! 木刀!」


「ああ」


 蘭丸は少し考える。


「なんか折れちゃったね」


 かわいらしい笑顔で答えた。


「『折れちゃったね』って、にこっとしてんじゃねえよ!」


「お前、剣道やってたの?」


「いや、やってないよ」


「じゃあ、なんであんなことできるんだ?」


「運動は苦手って言ってたよな?」


 飛山が机に手をつき、顔を近づける。


「蘭丸。お前、なんなんだ?」


「いやー、えへへ」


「えへへ、じゃねえんだよ!」


 男子たちは次々に質問を投げかける。


 蘭丸は右を見たり左を見たりしながら、一つずつ答えようとしていた。


 そのとき、教室の扉が開いた。


「あっ、風間君!」


 着替えを終えた女子たちが戻ってきた。


「ちょっと、男子! そこ、どいて!」


「私たちも話したいんだけど!」


「おい、まだ聞きたいことが……」


「後でいいでしょ!」


 男子たちの間を抜け、女子たちが蘭丸の机を囲む。


 飛山は押し出され、倒れ込んだ。


「風間君、すごかったね!」


「木刀って、あんなふうに折れるんだ!」


「振るところ、全然見えなかった!」


「赤田君に『大丈夫?』って声を掛けてたのも、優しかったよね!」


「分かる! あの後なのに、ちゃんと心配してたもん!」


 蘭丸は目をぱちぱちさせた。


「えっと……ありがとう」


「何か習ってるの?」


「今度、私にも教えてよ!」


「私も!」


「細マッチョなの? 腕とか触っていい?」


 返事をする前に、次の声が飛んでくる。


 蘭丸は困ったように笑いながら、教室の時計を見上げた。


 次の授業までは、まだ時間がある。


 どうやら、すぐには解放してもらえそうにない。


 その様子を少し離れたところから眺め、飛山が呟いた。


「……どこが影薄いんだよ」


 そのとき、誰かが教室の黒板を叩いた。


「おい! 調子乗んなよ!」


 赤田、青田、黄田が教壇に立っている。


 しかし、誰一人として見向きもしない。


「「「……」」」


 その頃、保健室から戻ってきた白田は、廊下から教室を覗いていた。


「風間君の席に、みんな集まってる。やっぱり怪我したんだ……」


 皆が心配して集まっているのだと思った。


「ごめんね。赤田君たちに脅されて、僕は……」


 白田は視線を落とし、震えた。


「あっ! 白田君だっけ? もう体調は大丈夫?」


 後ろから蘭丸が声を掛ける。


「う……うん。心配してくれてありがとう、風間君……」


 ん?


 風間君?


 白田は慌てて振り返った。


「あれ? 風間君? あれ?」


 もう一度教室を覗くと、蘭丸の席を囲む生徒たちも困惑していた。


 そして、蘭丸の席には飛山が座っている。


「なんで俺、蘭丸の席に?」


 飛山も困惑した顔で、自分の座っている椅子を見下ろしていた。


 女子たちも顔を見合わせる。


「あれ? 風間君は?」


「なんで飛山?」


 白田は、教室の中と隣にいる蘭丸を交互に見た。


「えっ? えっ?」


「どうしたの?」


「さっきまで、中に……」


「えー? 気のせいだよー。じゃあ、僕はトイレに行くね!」


 蘭丸はそそくさとその場を離れた。


「……」


 白田は、その場に立ち尽くすことしかできなかった。


「とりあえず、授業が始まるまで隠れてよっと」


 蘭丸はそう呟き、トイレへと姿を消した。


 そして授業開始のチャイムが鳴る頃には、いつの間にか自分の席に座っていた。


 そんな蘭丸の姿に、生徒たちはまた驚くのであった。


 次回、昼食だ蘭丸! にんにん。

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