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七星伝説 薄明の足跡 〜ルーヴェン大公国編〜   作者: Y.M
序章:崩れゆく結界と螺旋の陰謀

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第1話:のどかな大公国

バグでもとのやつが投稿できなくなったので改善版をこっちに投稿していきます。

歴史ある街には、今日も変わらない朝が流れていた。

ギルド支部の高い窓から差し込む陽光が、薄暗い室内を穏やかに照らしている。

窓の外からは、石畳を叩く馬車の音と、朝市へ向かう人々の笑い声が聞こえてくる。

街には、いつもと変わらない穏やかな時間が流れていた。


「はい、確かに対象の確保と納品を確認したわ。お疲れ様、ルーク!」


受付のエマが笑いながら手招きをした。差し出された革袋の中で、銀貨が小さく触れ合う。


「ありがとうございます、エマさん! 嬉しいなぁ…。 これで今日は、市場で一番美味しいベリーパイを買って帰れますね!」


新米ギルド員のルークは、袋を両手で受け取ると、嬉しそうに中を覗き込んだ。

迷子の子猫を探したり、老人の荷物を運んだり。

ルークに回ってくるのは、そんな地味な依頼ばかりだった。


その報酬を受け取る際、ルークはうっかり銀貨を一枚落としてしまう。

「あわわっ」と情けなく手を伸ばすが、指先は空を切り、銀貨が床へ落ちる。


「あっ」


ルークが慌てて手を伸ばしたときには、銀貨はもう彼の指の間に収まっていた。


「あ、危なかった……。本当に僕ってドジですね」


照れくさそうに頭を掻く彼に、エマは気にする様子もなく、困ったように笑った。

エマはそんなルークを、少し心配そうに見つめていた。


「ふふっ、本当に真面目ね。でも、無理はしないで少しずつ慣れていってね?」


「はい! 頑張ります!」


ルークはぺこりと綺麗にお辞儀をして、スキップでもしそうな足取りでギルドを後にした。

ギルドを出ると、石造りの街並みが朝日に照らされていた。

長年踏み固められた石畳の上を、馬車や人々が行き交っている。


足元に続く規則正しい石畳は、長い年月を経て角が取れ、鈍い光沢を放っている。

中央広場の時計塔からは、歯車の噛み合う音が一定の間隔で響いていた。


「よぅ、新入りのお兄ちゃん。今日も頑張ってるかい?」


市場の果物屋の店主が、店先から威勢よく声をかける。 ルークは足を止め、爽やかな笑顔を返した。


「はい! おかげさまで、ようやく初給料を貰えました!」


「そりゃめでてぇな! ほら、おまけのリンゴだ。持ってきな!」


手渡された真っ赤なリンゴを、ルークはほくほくと嬉しそうに懐にしまい込む。 彼はこの数週間で、すっかり街の風景の一部として馴染んでいた。


(北門に人が集まりすぎている。西側は薄い)


それだけ確認すると、ルークは視線を戻した。


(……まあ、今の僕には関係ないか)


笑顔を崩さぬまま、その内面では氷のように冷徹な分析が繰り広げられる。


「あ、あった。ベリーパイ!」


パン屋の店先で目的の品を見つけた瞬間、彼は再びほくほくとした青年へと戻る。


「これ、帰ったらすぐ食べよう……」


パイを抱えたルークは、満足そうに笑った。

        


パン屋を出たルークが大通りを歩いていると、路地の奥から悲鳴が聞こえた。


「ひっ、やめて、離して……!」


市場の喧騒が届かない薄暗い路地では、三人の男が若い女性を壁際に追い詰めていた。


「やめて……」


「大人しくしてりゃいいんだよ」


ルークは物陰で足を止め、ため息をついた。


(……朝から面倒だな)


ルークの目から、笑みが消えた。ほんの一瞬だった。


「……あ」


ルークはすぐに肩を震わせた。


「あ、あの!やめてくださいよぉ……!」


情けない、裏返った声を上げながら、ルークは震える足取りで路地へと割って入った。


「こ、こんな真っ昼間から女の子に乱暴するなんて……! やめたほうがいいですよぉ……!」


「あぁ? なんだテメェは」


リーダー格の男が、不愉快そうにルークを睨みつけた。 その視線が、ルークの胸元にあるギルド員のバッジに止まる。


「チッ、新米じゃねぇか。ギルドのガキが、一丁前に正義の味方気取りか?」


男の一人が冷たく光るナイフを抜き、もう一人が拳を固めて肉薄する。


「うわあああ! ナイフなんて危ないですよぉ!?」


「ひっ……!」


ルークは後ずさり、足をもつれさせて尻もちをついた。そのまま、無様に地面へと転がる。

男たちは、その滑稽な姿を見て鼻で笑った。「死ねよ、ガキ!」と、一人がナイフを突き出し、もう一人が無防備なルークを蹴り飛ばそうと跳躍する。

ナイフが迫る。左から蹴りが飛んでくる。


(遅い)


「うわぁっ!?」


情けない声を出しながら、ルークは地面を転がるようにして体を捻った。 ナイフが頬をかすめる。

ルークは転んだだけに見えた。

だが、次の瞬間には男が地面に崩れ落ちていた。


さらに、ナイフを持ったもう一人が、地面に這いつくばるルークに覆いかぶさろうとした。

「す、滑ったぁ!」


ルークは慌てて足をばたつかせた。その踵が男の足を払う。


「うわっ!」


男の身体が傾いた。ルークはその手首を掴み、地面へ押さえつけた。

ほんの数瞬だった。二人の男は、もう動けない。


「ひ、ひぃっ……!? お前、何をしやがっ――」


リーダーの顔から血の気が引いた。


「……何なんだ、お前」


「うわっ、まだ来ますか!?」


ルークは守るべきものを抱えるようにして、身を屈めた。 懐に抱えたベリーパイの袋を庇うその動作に紛れ、ルークは一歩踏み込んだ。すれ違いざま、ルークの指が男の首元に触れた。


「……え?」


男の身体から力が抜け、その場に膝をついた。


「が、は……っ」


リーダーは力なく膝をついた。


「あれぇ……? 急にみんな倒れちゃいましたね。熱中症でしょうか……?」


ルークは、涙目でガタガタと震えている女性に対し、いつもの優しい笑顔で首を傾げてみせた。

女性は呆然としながらも、命が助かったことに何度も頭を下げ、逃げるように路地を去っていった。


「…………ふぅ」


ルークはしばらく男たちを見下ろしていた。

さっきまでの怯えた表情は、もうない。彼は乱れた服の襟元を直した。

外套の隙間から、漆黒の鞘が覗いた。ルークはそれを隠すように外套を直す。

その瞳には、かつて薄冥の凶刃と呼ばれた男の冷たい光が戻っていた。


(……鈍すぎる。伝統だの平和だのと浮かれている間に、毒はすでに回り始めているというのに)


ルークは倒れた男たちを見る。


(この程度なら、まだいい)


その目が、ほんの少しだけ細くなった。


(問題は……あいつらだ)


終わりなき螺旋。


その名を思い浮かべた瞬間、ルークの表情から笑みが消えた。

だが、ルークはすぐにいつもの笑顔を浮かべた。


「あ、大変だ! パイが潰れちゃう前に衛兵さんを呼ばなきゃ!」


「衛兵さん、どこかなぁ……」


ルークはそう言って、慌てた様子で大通りへ駆けていった。

腕の中には、まだ潰れていないベリーパイがある。その顔には、いつもの人懐っこい笑顔が戻っていた。

眩しい朝の光が、石畳の街を照らしている。ルークは一度だけ足を止め、街の外壁へ目を向けた。

そして何事もなかったように、再び歩き出す。


その穏やかな日常の裏側で、未だ明きらぬ薄明の闇に消える足跡だけが迫りくる嵐を静かに予感させていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。感想や修正点があったら、感想にお願いします。ブクマと高評価もお願いします。

第2話は9月29日19時40分!

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