後日談1
2020年、8月――ロックダウンのせいで夏休みと修学旅行が消えた夏。
15歳になった佳子の息子――名を「悠太」という――は、母から聞かされていた「あの噂」を試す夜を迎えていた。
「ねえ、本当にそんなのいるわけ……ねえよな?」
半信半疑のまま古びた実家の鏡の前で0:00ジャストに唱えた。後ろにはもちろん佳子。
――瓜子姫!
すると見えない手に引っ張られて鏡の世界、つまり鏡界にやってきた。目の前に現れたのはどこか冷徹で妖しい赤い皮膚の小鬼――天邪鬼のラロだった。
「やあ。待っていたよ、二代目」
ラロが背中の鎌を鳴らす。世界は感染症のパンデミックで混乱しリモートワークだ、マスクだと騒いでいた。そして悠太見たのは現実の教室。アクリル板が並び黙食を強制される例の光景!!
「母さんから聞いてるだろ。ここは人間の負の心を映す鏡の中の世界だ」
「……母さんは、ここで何を学んだんだ?」
悠太の問いに、ラロはふっと不敵な笑みを浮かべる。
「あいつはな、夫を奪われ、時代に叩きのめされても、泥水をすすってでも『生き抜く』って事を選んだ。天邪鬼そのものだろ? ……お前はどうする? もうこの国の未来が見えてる。報道の通りデジタル化に遅れいまだにFAXと来たもんだ。延期したオリンピックなんてそれはそれは惨めな国辱イベントとなるだろう。君はこんな世で社会に出て何をする? 氷河期だった親と同じ苦しみを味わいに来たのか?」
口角を徐々にあげながら笑みを浮かべる天邪鬼。校舎内には母から聞いた「スライム」たちがうごめいていた。だが銀色どころかもっと禍々しい色をしていた。
「……ふざけんな。こんなところで終わるかよ」
悠太が吐き捨てるように言うと、ラロの目に満足の色が宿る。
「いい返事だ。それでこそ『天邪鬼』の心そのものだよ。だがな?もう日本は先進国転落寸前だぜ?子供はさらに減って地方は朽ちていく。君も駄目な大人に染まって行くのさ。人間、楽な方に流れるのが楽だからな」
壁には1991年以降の日本国勢図絵が貼っている。現実の教室と違う証拠だ。いいや、壁に貼ってあるのは現実の惨めな日本そのものだった。現実から目をそらしているのはほかならぬ自分達なのだ。
「そんな国にさせない」
「どうだか? 1年後に来て見? それはそれは惨めな国になってるよ」
天邪鬼は人の心を読むという。たぶんうっすらと見えているのだ。自分たちの近未来が!




