柔らかい日常
リュミエール宮殿の自室では適度にだらけている私とマリアしかいない。
「何もやることがないなら侍女達と一緒にテレジアファッションショーでも開きますか?」
「なにそれ辛そう」
ぐでーっと身体をソファに預けながら気だるげに返答する。……侍女たちがぴくんと、私を着せ替え人形にしようと反応したが無視無視。私は武闘会という大イベントを終えて休憩中なのだ。市井では大会の興奮冷めやらず、私の姿絵やグッズが大量に出回っているらしい。あぁこれでは外に遊びにも行けない。人気者は辛いぜ。
アメリーとは、大会後にまた、ぐっと仲良くなれている。たまにキラキラとした目を見るに、商売人の魂を騒がせているようだが、まぁ私に害がなければいい。先ほど私宛に、味噌と醤油を送ってくれたのが、あまりに大きい。お陰で毎回の食事が楽しい。次は和牛を頼むぞ、モンフォール商会。
レオとの関係も良好だ。今は騎士団の指南役として忙しい毎日らしいが、合間を見て私に会いに来てくれる。真剣勝負を通じて分かったが、レオの苛烈さと言ったらもう、たまに呆れるぐらいだ。数年後の結婚式に向けて、今から参列者をピックアップしている。早過ぎである。更に言うとドレスを数着分、デザイン済みらしい。早過ぎである。
「なんだか平和ねぇ、気が抜けてどうしようもないわ」
「そうしましたら、同年代の方達との交流を図るために茶会を開くのは如何でしょう?」
「なんて正論を~ご無体な~」
そんなことをぐだぐだと話していたら、お父様からのお知らせが舞い込んできた。マリアが取次に向かう。……しばらくは目立った公務はなかったはず……なんだこの胸騒ぎは。
「あぁ……そう言えば、もうそういうお年頃ですか」
「な、なんのお知らせ? 非常に厄介なこと」
ちょっと姿勢を正して足をもじもじさせる。何かあった時、即、逃げ出せるように。
「他国への留学の話ですよ、」
「り、留学? 勉強?」
「はい、それはもう他国からの人気が絶大でございますし」
「……国内の学校じゃ駄目?」
「それも良いでしょう。きっと沢山の取り巻きに囲まれて身動きもできない、豊かな毎日を送れますよ」
含みがあるわよ、マリア姉様。
あぁでも、頭の中ではしっかりと逃れられぬ運命だと理解してしまった。
「さて、お嬢様。東西南北、何処が良いですか? 迎えてくれる国が目白押しですよ」
「常夏の国で、この国にも帰りやすくて、贅沢三昧できる留学なら考えてもいいわ」
「わかりました、そのように手配します」
「待って待って、貴方が言うと完璧に叶えてきそうで逃げられないじゃない」
「なんで逃げ切れると思っているんですか?」
怖いわよ、マリア姉様。分かった分かった、もう覚悟を決めましょう。
あぁ束の間の休憩だった……。そうして気づく、もうすっかり王女テレジアとして生きることに疑問を持っていないことに。
異世界であろうと、私は生きている人たちに囲まれている。マリア、レオ、アメリー……この世界で出会った大切な人達。
何処にいたって私は私だもんね。何も怖がる必要はない。
「常夏かぁ……日に焼けない様に気を付けなきゃ」
心はすっかり南国、いざや向かわん見知らぬ国よ。傍らに置いたエトワールが出番を欲しそうに佇むばかりだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。今回で第一部完結とします。もし作品を楽しんでいただけましたら、評価やご感想をいただけると今後の励みになります。




