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34 友達か否か(ユーリア)

 

 アリアとロイが捕まった。

 その事実は私の心に重くのしかかった。



 アリアとロイに間者の疑いがあると聞いたのは、アリアたち第2班と合同で任務にあたった時。うちの班の班長が2人を疑っていて、1度目の遠征が終わって街に戻った時に聞いた。


 それを初めて聞いた時はそんなわけないって班長に怒った。あのふたりのことはこの中では私が1番知ってる。

 2人とも強いし疑いたくなる気持ちも分かるけど、怪しくなんて無かった。


 だってアリアは新人騎士みんなを強くしようと頑張ってくれていたし、同じ班のメンバーを庇って大怪我までしていた。ロイはそんなアリアがただ大好きなだけ。

 何も怪しくなんてない。



 でも私たち第5班が、第2班と別れて街を出る間際に結界石が破壊された。

 第2班が、結界石が壊されるタイミングに出くわしたのはこれで2度目。しかも私たちが出発する前を狙ったかのような時間。



 ……いやいやまさか。そんなわけない。

 アリアとロイがそんなこと、するわけない。



 結界石を壊した時ロイにはアリバイがあって、アリアには無かった。それが更にうちの班長の疑心を強めた。



「ユーリア、もしアリアさんがそうだと確信した時は、君を人質にするつもりだ」


「…私を、ですか」


「それくらいじゃないとあの子は捕まらないからね。勿論ユーリアに傷をつけはしないよ。薄皮1枚くらいは切るかもしれないけど」



 確信したら、なんていいながら、班長はアリアとロイが犯人だってもう確信してるようだった。

 確かに私を人質にすればアリアは捕まってくれるだろう。そして捕まったアリアを人質にすればロイも捕まる。


 私は、頷くしか出来なかった。




 6つめの結界石が壊された。

 アリアを尾行していたにも関わらず、壊される直前に姿を消したらしい。

 それがアリアを不可視の悪魔だと決定づけた。



 アリアたちが基地に帰った時を狙って、私は人質となり、アリアとロイが捕まった。2人とも抵抗はしなかった。





「アリアは不可視の悪魔であることは認めた。だがそれ以外のことは一切話さない。明日君を人質に連れていこうと思うがいいか?」



 アリアが捕まって次の日。第2部隊の隊長にそう言われた。


 アリアが不可視の悪魔だと認めた?

 アリアは本当に結界石を壊していたの?あのアリアが?



 信じられない気持ちを抑えながら、次の日私はアリアの前に立った。

 彼女は堂々としていて気高く、罪悪感も悪気も感じていないようだった。



「アリア、嘘だよね?アリアが不可視の悪魔って、嘘だよね?」


「そうだよ。私が不可視の悪魔だよ」



 認めた。本当にアリアが認めた。

 本当にアリアが、不可視の悪魔だった。

 アリアが、私たちの生活を脅かしていた。



「…っ!な、何で、なんでそんなことするの!」


「理由?それは教えられないよ」


「アリアっ!」


「こうすると言っても?」



 隊長が私の首にナイフを当てる。深く傷つけるつもりがないとはいえ、少しは怖い。

 縋るようにアリアを見るも、彼女の目は変わらず力強いままだ。



「私の優先順位は1に主、2に主からの命令、3で人々です。主の命令より大切なものはここにはありません。……まぁ、隊長が本気でユーリアを傷つけるわけがないと思いますが」



 私に人質の価値はないとアリアは言っているのだ。

 私がここで殺されても、構わないと。





 アリアへの取り調べを終えて、私は休憩所の椅子で頭を抱える。


 信じたくない、信じられない。アリアが私たちを裏切っていたなんて。私が死んでもいいと思っていたなんて、考えたくない。



「ユーリア…」



 ジャックが落ち込む私の背中を撫でてくれる。アリアやロイと仲の良かった私たちは、彼らに対するカードになるんじゃないかということで集められている。


 でも私たちは所詮、ただの同僚だった。

 友達だと思ってたのは、私だけだった。

 あの二人にとって私たちは、潜入先の知り合いでしかない。



 悲しい気持ちと許せないって憤慨する気持ちが合わさって、何が何だか分からなくなる。


 ジャックも私と同じく2人を信じたかったみたいで、今私を慰めてはくれてるけど内心とても落ち込んでいる。

 そりゃそうだよ。今だって信じたくないよ。あの二人を信じていたいのに。


 アリアが自白したから、それは確実なものとなった。物的証拠は何も無いけど、アリアが結界石を壊したのは事実だ。



 信じたくない。

 でも、牢屋でのアリアの力強い目が思い出される。

 主とやらに忠誠を誓って、それに勝るものはないとはっきり言ったアリア。あの姿はとても同じ新人騎士では無かった。歴戦の騎士のようだった。



「ジャック…2人が捕まったから、もう結界石は壊されないよね?もう、安心なんだよね?」


「……ユーリア、落ち着いて聞けよ」


「……なに?」


「帝国から、降伏命令が出てる」



 降伏命令。いつのまにそんなことに。


 結界石が壊されて、騎士が足りなくなって、帝国の騎士を借りたからだ。そこから帝国の騎士に囲まれて、戦争をせずとも抗えない状況になってしまったんだ。


 悔しい。すごく悔しい…っ。



「数日のうちにここは帝国の領土になるだろうな。あいつらを捕まえるのは遅かった。多分すぐ釈放されちまうだろ」


「そんな…っ!なんの罰も受けないの…!?」


「帝国からしたら罪でもなんでもない。あいつらのお陰でこの国が手に入ったんだから」



 私たちの国を奪っておいて、罰もないなんて。罪じゃないなんて!

 酷い、こんなことって、ないよ…。

 私たちはたた平和に暮らしていたいだけなのに。



 感情が溢れて泣く私に、ジャックがずっとそばについていてくれた。




 数日後、この国は正式に帝国の領土になった。ファンダート王国からファンダート領へと名前を変えた。

 そしてそれが騎士団に知らされると共に沢山の帝国騎士が基地の中に入ってきて、私たち第2部隊はホールへと集められた。



「今基地にいるやつはこれで全員だな。」


「はい。あとは牢屋にいるロイ・ファストとアリア・ルーンだけです」


「彼らにはもう人を送ってる。殿下もすぐ来られるだろう」



 やっぱりアリアとロイは帝国の人間だったんだ…。

 悔しい。騙されていたことも、彼らを信じていたことも。友達だと思っていた私がバカみたい。



 集められて少しして、ホールの壇上付近の扉から、ロイが姿を見せた。その瞬間、私たちを囲うように配置されてる帝国騎士達が敬礼をした。



「ロイ…っ!」


「控えよ」



 副隊長がロイに向かおうとしたものの、帝国騎士に阻まれる。ロイは副隊長をちらりと見ただけで、特に気にもとめない。


 そんなロイが堂々と壇上に立った。

 いつも見ていたあの笑顔はなく、真顔で圧を感じる顔だった。



「皆も知っての通り、ファンダート王国は帝国の領土となり、ファンダート領となった。そしてファンダート領を治めることになった、ロディスレイ・ファン・グラナートだ」



 空いた口が塞がらない。


 ロイは、帝国の王族だったの?

 そして新しいこのファンダート領を、ロイが治めるの?



「ここ中央基地はファンダート基地と名前を変え、ここで働いていた騎士の皆も、希望する者はそのまま騎士として残ってもらう。やることは変わらない。魔物討伐のエキスパートになってもらう」



 ロイが淡々と告げる言葉は、耳に入ってるような入ってないような。まさかロイがこの土地を治めるとは思ってなかったし、王族だなんて。

 喋り方も一人称も、纏うオーラも全て違う。彼は本当に周りを完璧に欺いていた。



「ファンダート領騎士団の団長にはシュステンを据える。任せたぞ」


「はっ!尽力させていただきます!」


「この基地を騎士団の主要基地にするように。施設は足りないだろうから増設しろ。第1部隊と第3部隊に関してはお前の判断に任せる」


「はっ!」



 手馴れた様子で次々と指示を出していく。一緒に戦ってた時は、同じ仲間として誇らしく思っていたそれも、今となっては憎らしい。



「それと、当たり前だがロイ・ファストの名前は消しておけよ」


「なんと…。殿下と仕事できるのかと楽しみにしておりましたのに…」


「私が騎士団に入ったら誰もついてこれないだろうが」


「それは殿下が強すぎるからです」



 当然だがロイは騎士団をやめるようだ。王族だし、これからこの領を治めなくちゃいけないんだから当たり前だ。

 アリアもきっと、いなくなるんだろう。ロイと共に。



「では殿下、アリア・ルーンはどういたしますか?」


「アリアは……」



 アリアのことを聞かれたロイが言葉につまる。

 ロイの仲間の言葉に違和感を感じた。なんだかまるで、アリアのことを知らないみたいだ。



「…アリアには直接聞くことにする。彼女の任務とやらもまだ終わってないらしいからな」


「左様ですか」



 ……え?


 アリアは、仲間じゃないの?


 ロイはアリアの任務を知らないような口ぶりだ。

 アリアは本当に、帝国の間者じゃなかったの?



 ……じゃあ、アリアは誰?どこの人なの?




 ホールの中央扉がけたたましい音をたてて壊され、そこからアリアと見知らぬ男が一緒に入ってきた。

 アリアの隣にいる男に、関係ないこちらが怯えるほどの殺気を放つロイ。でもアリアも隣の男も、なんの影響もない。


 アリアと隣の男の会話は、理解できなかった。

 ただ仲間であることは確かなようだ。



 アリアはロイに魔物の忠告をして、そして別れを告げた。

 帝国騎士に囲まれて逃げ場のなかったアリアと隣の男は、羽を生やして天窓を突き破って飛んで行った。



 アリアは、天使だった。






「…どういうこと?天使がなんで、結界石を壊したの?」



 解放されてジャックと共に談話室で頭を抱える。


 なんで?神から授かった結界石をどうして天使が壊しに来たの?それにこの国は神に愛されているんでしょう?なんでそんなことを…。



「……神の考えることは、俺ら人間には理解出来ねぇよ。ただまぁ納得だな。天使が動いてちゃあ誰も見つけられるわけないし、神罰だって下るはずもない。神の命令なんだから」



 どうして神罰が下されないのか疑問だった。

 そういうことだったのか。



「じゃあ、大神官様達が、信託がおりたって言ってたのは…」


「嘘に決まってるだろ。もしくは、神の声を騙ったから神がお怒りなのかもしれないな」


「そんな……」



 神の声を届ける役目の大神官が、神の声を騙った。大罪だ。怒るのも無理はない。



「アリア……」



 どんな気持ちで、魔物討伐をしていたんだろう。アリアがグレイスさんを守った事や、私たち新人騎士を鍛えてくれたのは、どうして?


 それも全部、神の命令だったの?

 アリアにとって私たちは、取るに足らない人間の1人だったの?



「アリアも、ロイも、分からないよ……」



 私たちはこれからどうすればいいんだろう。

 仲間だと思ってた人は、私のいた国を乗っ取ろうとしてた人で、まんまと策にはまってしまった。

 友達だと思ってた人は人間じゃなくて、私たちには理解できない思考で動いている。


 どうしたらいいんだろう。

 何をしたらいいんだろう。



「ユーリア、とりあえず俺は騎士を続ける」


「ジャック……」


「俺たちが騎士を続けるかどうか任せてくれたってことは、この国を悪くしようとは思ってないということだ。俺らの生活は何ら変わらないと思う」



 ジャックはもう、前を向いているの?

 ロイとアリアに裏切られても、もう前が向けるの?



「それで……もっと大物になって、次ロイに会った時ぶん殴ってやる。アリアには会えるか分からないが、アリアにも会えたら、ユーリアが引っぱたいてやれ」



 ……ジャック。


 …そうだね。次会った時に1発くらい引っぱたいてやろう。素直に叩かれてくれるだろうか。避けられて終わりな気もする。


 それでも、その希望を持つだけでも心が強くなれる気がした。



「…うん。それで仲直りして、また皆でお出かけしよう」


「そうだ、その意気だ。やるぞ、ユーリア」


「やろう、ジャック!」



 前をむこう。考えても悩んでも、今の私たちは騎士を続けるか辞めるかしか出来ない。

 それなら騎士を続けて、この地をより良くしていくために尽力しよう。



 そしていつか2人に会えた時に、ちゃんと怒ろう。怒って仲直りして、また仲良く話がしたい。

 2人にその気があるのかは知らないし、そんなことが出来るのかも分からないけど、その希望を抱いて頑張ろう。


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