11 隊長と面接
第2部隊の隊長との面接がやってきた。
騎士を続けられそうかとか、希望する班とか、そういうのを聞かれるらしい。
ロイが早めに呼ばれて、どんなことを聞かれたのか教えてくれた。事前に聞いてたことと大差はなく、ただひとつ言えるとしたら、ロイが希望する班を聞かれた時に私と一緒とか言いやがったらしい。
さすがだね、とユーリアとジャックは笑ってたけど、私はため息をついた。
計3日くらいかけて1人ずつ隊長と面談するようで、2日目くらいに私は呼ばれた。
入ってすぐにソファに座らされ、隊長の言葉を待ってると、隊長は言いづらそうに頭を搔く。
「あー…なんだ、ストーカーとかいないか、大丈夫か」
「え?いませんけど…」
「付きまとわれて困ってたりはしないか」
「しない、ですね…」
やはり女性騎士には質問の内容も変えるのだろう。女性が少ないから、過去にはストーカーとか付きまとわれたりすることもあったのだろう。
うん、今のところそういうのは見当たらないかな。
「じゃああいつはどうだ。ロイは、大丈夫か」
「大丈夫とは…?」
「あいつがお前に言いよってるだろ。困ってないか?」
ロイ?言い寄られては無いけど…。
どうやら隊長は、ロイが私にとって迷惑じゃないかを心配してくれてるらしい。
優しい人だ。
「大丈夫です。彼が何を思って私に構ってくるのか分かりませんが、嫌なことは嫌だと言ってますし、彼も無理矢理何かしようとはしてきません」
「そ、そうか…」
まぁ何かしようにも出来ないだろう。彼は私を必要としてるのだから。
彼は自分の目的のために、私しかできない結界石を壊すということを必要としてる。だから私の本気で嫌なことはしないはずだ。
「まぁ、平気ならいいんだ。…それで、アリアは希望する班はあるか?」
体勢を直して、顔をキリッと変えて隊長がそう質問してきた。
希望する班…。確か1班と2班が精鋭班で、魔物討伐をめちゃくちゃしてるんだよね。
「どこでも大丈夫ですが…なるべく強い班に入りたいと思ってます」
「ほほう?」
「魔物を倒した経験は何度もありますが、もっと自分の力を高めるためにも、より経験した人から色んな技術を盗みたいです」
出来るなら精鋭班に入りたいところだけど、新人でそこは無理だろう。だからその下の、5、6班くらいに入れるといいなぁ。
「そうか。ちなみにアリアは、1週間くらい野営をしたことはあるか?もしくは出来るか?」
「したことありますし、出来ます」
「2ヶ月くらい休み無しで、纏めてとる形でも大丈夫か?」
「こだわりはありません」
「最初からハードでも大丈夫か」
「はい」
聞きたいことを聞き終えたらしい隊長は、ふぅーと長めに息を吐く。
今の質問だと、私の入る班がまるで決まっているような感じだったな…。
隊長は私の目をじっと見て、声を出した。
「アリア。お前には精鋭班に入ってもらうが、いいか?」
「えっ、はい。むしろいいんですか?」
「お前達の訓練の報告は聞いてるからな。即戦力になることを期待してる」
まぁ大丈夫だろ、と軽めに言われて、あ、そんなもんなんだと思った。
何はともあれ、精鋭班に入れるのは嬉しい。各地を回れるし、彼らがいる時なら結界石を壊しても大した被害は出ないだろう。
「ロイがアリアと同じ班になりたいと言ったのは聞いてるか?」
「はい」
「それについてはどうだ?正直に聞かせてくれ」
正直に…。
私は真面目な顔で見てくる隊長にしっかり目を合わせた。
「どっちでもいいです」
「どっちでも?」
「いてもいなくても、変わりません」
私がそう言うと、隊長は少し哀れみを含んだ目をして、あいつも可哀想にな、と呟いた。
なんのことだろう?
「まぁ分かった。とりあえずロイとは一緒でも構わないし居なくても構わないってことだな」
「はい」
隊長は手元の紙に何かをメモしている。面談の内容を書いてるようだ。
「アリアもロイも、強すぎて先輩の顔が立たないからなぁ。なんでそんなに強いのか怪しくはあるが、その姿勢を見てるとそう悪いものじゃ無さそうだしな」
あ、少し怪しまれてる。まぁほんの少しって感じかな?
怪しいけど、探るほどではない、ってくらいだろう。
悪いものじゃないと隊長は言ったけど、私のやってることは、悪いことって認識をされるだろうな。むしろこの国のためなんだけどな…。
まぁいいや、と考えをクリアにした。
「新人騎士を指導もしてくれてるだろう。人が足りないから助かる」
「いえ。みんなに強くなって欲しいので」
早くみんなが強くなって、あちこちに散らばってくれれば、私もどんどん壊していけるのに。
でもこの感じだと長そうだ。
「本当に助かる。次いつ結界石が壊されるかも分からないからな…」
どこかを睨みつけるように隊長は言う。
そうですね、と知らないフリして隊長の言葉に同意した。
「私はねー、強くなりたいです!って答えた!私が強くなれる班に行きたいって言ったよ!」
「俺もだ。やっぱ強いやつといると感化されるのかね」
同じ日にユーリアとジャックも面接を受けたので、夜ご飯の時に情報交換をした。何を聞かれてどう答えたのか。
2人は強くなりたいらしい。いい傾向だと思う。
「アリアは?」
「私は、魔物討伐の経験が多い人につきたいって言ったよ。」
「僕と一緒がいいとは言ってくれなかったの?」
「言うわけないよね?」
なんでそんな事言う必要があるんだ。
目の前に座るロイはわざとらしく眉尻を下げた。
「僕と一緒でもいいかって聞かれなかった?」
「聞かれたよ。どっちでもいいって言った」
そう言うと何故かロイは嬉しそうな顔をした。
今の会話のどこに喜ぶ要素があったのだろうか…。本当、分からないなロイは。
「じゃあきっと同じ班になれるね」
「…どうだろうね」
やっぱり嫌って言っといた方が良かったかな。いやでも、それで別の班になったらもっと面倒なことになりそう…。
ううん、隊長の判断に任せよう。
数日後、班が発表された。
ジャックは7班、ユーリアは5班、私とロイは2班だった。
そしてここからは、自分の班が帰ってきたその時からその班の一員になる。
「アリアとロイの班は、滅多に帰ってこないんだよね?」
「そうだね。2、3ヶ月出たままだって聞いてるよ」
「そっかぁ…」
夜、ベットに寝転びながらユーリアと話をしていた。
ユーリアはもう班が帰ってきていて、数日休暇をとったらしく、明日には出発なのだそうだ。だからユーリアとはしばらくのお別れになる。
「…寂しいね」
「ずっと一緒にいたからね」
ユーリアはぽつりと寂しそうな声を漏らした。
ユーリアとはこのひと月の間、ほとんどずっと一緒だった。訓練もご飯も寝る時も。寂しく思うのは仕方ないだろう。
「私の休みは長くとれるから、その間に帰ってきたら遊ぼう?」
「うん!」
私が誘うとユーリアは嬉しそうに頷いてくれて、少しは元気が出たみたい。
「大丈夫、ユーリアならきっと強くなれるから、頑張って」
「うん、アリアもね」
次会った時を楽しみに待っていよう。
ユーリアがいなくなり、ここ数日で人が半分は減った。
「ユーリア、大丈夫かな…」
「あいつなら大丈夫だ。図太いからな」
私の言葉にジャックが笑いながら返事をしてくれる。
そんなジャックも明日旅に出る。ジャックと次会えるのもいつかは分からない。
「ロイ、アリアさん、頑張って強くなってくるよ!」
「頑張ってね」
指導してた新人騎士達が、私たちに頑張ると言ってからみんな旅に出ている。それが少し嬉しくもあった。
次どこかの結界石を壊した時にきっと誰かのいる班が駆けつけてくれるだろう。その時にもっと強くなってることを願おう。
「死ぬ気で頑張ってね」
ロイはにこにこしながら彼らにそう言っている。ちなみに最近ずっと機嫌がいい。
ジャック曰く、私と班が同じなのがとても嬉しいらしく、旅が楽しみなんだそうだ。
…やっぱり分からないなぁ。
「アリア、ロイの手綱ちゃんと握れよ」
「えぇ、なんで私」
「お前以外の言う事聞かないからだよ」
ジャックに話を振られて、私は不満げに答えた。
「そもそも言う事聞かないってどうなの、それ」
「アリアが関係しなければ言うこと聞くよちゃんと」
なんでよ。私か関係するとなんで言う事聞かなくなるの。
む、と眉を寄せた私に、ジャックが私の肩をぽん、と叩く。
「そういう事だから、頑張れ」
「ジャック、なんで今アリアに触れたの?」
「ちょ、誤解だ!それは許せよ!」
えぇ、私がロイの手綱握るの…。面倒くさいなぁ。
1週間ほどして、みんなが居なくなった。私とロイだけが、取り残された。
第2班はもうすぐ着くらしく、あと数日はここにいなくちゃだろう。
「2人きりだね」
「ん?指導してくれる騎士さんいるよ?」
「それはカウントしないよ」
なんで。
2人で木刀でゆるく戦いながらそんなことを話す。とはいえ木刀じゃ決着も付かないので、15分ほど打ち合ってお互いに手を止めた。
「どうせ誰もいないなら、別の武器はどう?」
「いいね、そうしよう」
指導してくれる騎士と共に、別の訓練場へ向かう。
まずは弓の訓練場に向かった。
「アリア、弓は得意?」
「普通かな。ロイは?」
「僕も普通かな」
ロイがそう言いながら弓を構える。軸が真っ直ぐしていて乱れのない綺麗な姿勢。
そこから勢いよく放たれた弓矢は、的のど真ん中に刺さった。
「うん、弓もいいね」
ロイは弓を見てうんうん頷いた。
私も同じように構えて、的を真っ直ぐ見据えて弓矢を引く。そして放った。
私の放った弓矢は、的のど真ん中に刺さった。
「弓矢は消耗品だからね…。弓矢だけで戦うのは心もとないよね」
「確かに」
少し小走りしながらさっきと同じ的を狙って、見事真ん中に命中させるロイ。うん、やっぱりロイも、どんな武器も十分なくらいに使えるんだ。
「でも馬とか乗ってる時は弓がいいよね、降りなくていいし」
「弓、支給してもらう?僕は一応持っておくけど」
「うーん」
的を狙うラインから離れて、助走をつけてジャンプしたそのいちばん高いタイミングで弓を放つ。的の真ん中に命中した。
「ロイが持つなら私はいいかな。別のにするよ。私は接近戦にしようかな」
「待ってダメ!アリアが接近は怪我したら嫌だから、アリア弓持って!僕が接近戦するから!」
ええ、何その理由…別に怪我くらい構わないのに…。
「いや待てお前ら…。普通の人はいくつも武器を持たないんだよ…」
「え、そうなんですか?」
げっそりした顔の騎士さんに言われて、私は首を傾げた。でもロイは思い当たるところがあるらしく、確かにと頷いた。
「荷物になるからですか?」
「それもあるけど、そんなにいくつもの武器を極めてる暇はないんだよ」
「あ、なるほど…」
ロイが説明してくれて、納得した。
え、でもそれでいうなら、ロイはめちゃくちゃ超人ってことにならない?私は天使だし、もうかれこれ200年は生きてるから時間もあったからこれでもおかしくないけど…。
「じゃあロイって滅茶苦茶凄いってこと?」
「何言ってるの、アリアもでしょ」
「もうやだこの子達…。」