騎士団長ダイオール
訓練場から受付に戻ったアステール、セーヤに、先に戻っていた受付嬢が声をかけた。
「はい、これがアステールさんの冒険者証明書です。ご確認ください。」
そういって受付嬢が渡したのは、冒険者証明書といわれるものである。
冒険者証明書には、持ち主のランクと名前、それに『ギルドが身分を保証する』という文言が書かれてある。
受付嬢に言われて、冒険者証明書を確認していたアステールだったが、おかしな箇所を一つ見つけた。
「俺のギルドランクがC級になってるんだけど、D級までじゃなかった?」
「ああ、それはそうですよ。さすがにB級以上は無理ですがあそこまでやられて、D級なんてことはあり得ま せん。」
「ふーん・・・」
ギルドランクがC級になっていた説明を受けたアステールだったが、興味を失くしたように返事をする。
その様子を苦笑して見ていた受付嬢だったが、伝え忘れたことがあることを思い出した。
「あ、そうそうギルドの規則などをお教えするのを忘れていました。」
「規則?」
「はい。まず、ギルド内での争いごとは禁止です。冒険者は基本荒っぽいので気を付けておいてください。」
そういうと受付嬢は併設されている酒場のほうを見る。
アステールもそちらの方に目をやると、十人程度の冒険者がいたが、全員がアステールのほうを見ていた。
どうやら、ガンベルに圧勝した話はもう知れ渡っているようである。
「次に、冒険者証明書は身分証としても使えますが、偽造は出来ませんが、万が一できた場合にもギルド から強制脱退処分になりますのでご注意ください。」
なんでも、冒険者証明書はギルドのみに伝わる方法で製造されており、偽造するのはほぼ不可能なのだそうだ。
(不可能ね・・・。)
アステールなら、偽造どころか、まったく同じものを作る自信があったが、それは黙っていた。
「最後に、冒険者同士の事件および事故はギルドの預かりではありませんのでご注意ください。
依頼に関することならギルドが介入することもありますがそれは例外だと思ってください。」
「それだけ?」
「はい。もう少し細かいこともありますが、覚える必要はありません。」
「なら、今日のとこは帰ることにするよ。」
「あ、冒険者証明書の再発行には銀貨3枚が必要ですので失くさないで下さいよ。」
受付嬢の言葉にうなずくとアステールはギルド本部を出る。
そして、先ほどから黙りこくっていたセーヤに声をかけた。
「どうしたんだ、そんな悩ましい顔して。」
「いえ・・・。今日のあなたの加勢、あれ必要なかったんでしょう?」
なんだそんなことか、とアステールは思う。
アステールにしてみれば何を悩んでいるのか知らないが、一応声をかけてみた。
「いや、必要だったよ。俺は見ての通り手加減が苦手でね。セーヤのおかげであの路地が血で汚れずに すんだ。」
「それは慰めているのかしら・・・・?」
アステールにしてみれば精一杯の慰めなのだが、セーヤには嫌味に聞こえたようだ。
アステールが肩を竦めると、セーヤは苦笑であったが少し笑った。
「さて、宿はどうしようか・・・」
「まだ決めてなかったの?」
「仕方ないだろう。セーヤに会ったのはこの街に来て直ぐだぞ。」
「それもそうだったわね。」
時刻はもう西日がきつい時間も過ぎている。
もう露店をしまう人も出てきているほどである。
この時間に宿を取ろうとすると、極端に安い宿か極端に高い宿になってしまう。
どうしようかと思っているとセーヤが提案をしてきた。
「そうね、じゃあ騎士団の本部に来ない?」
「騎士団本部?」
「そう、騎士団は貴族出の人もいるからそれなりに施設は豪華だし私は騎士見習いだけどそれなりに顔が 広いからね。ただ・・・ちょっと『条件』があるんだけど・・・。」
「『条件』?まぁ、いけるなら行きたいが。」
「じゃ、きまりね。」
そういって歩き出そうとしたセーヤだが、「あっ」と声をあげると急に振り返って悪戯を思いついた子供のような表情をすると、こういった。
「そういえば、ここに来たとき『道をおぼえた』って言ってたわよね?」
「ん?ああ、いったな。」
セーヤの問いにアステールが肯定すると、
「騎士団本部に行くには、私たちが会った通りの向こうの通りに行かなきゃならないんだけど、覚えたな ら連れていってくれるわよね。」
「まぁ、構わないが覚えてるのは出会った通りまでだからな?」
「構わないわ、いきましょ。」
そういい、アステールを先頭に二人は歩いて行った。
----10分後-----
「ホントに覚えてたっていうの・・・」
「なんだ信じてなかったのか。」
「あたり前でしょう!私なんて二年かけて覚えたのよ!?」
「お、おう・・・」
一回も迷うことなく二人は元の通りに戻ってきた。
途中なんの迷いもなくアステールがセーヤが来た道をたどっていく姿に、セーヤの顔が不機嫌になっていったのは言うまでもない。
そして無事通りにでた瞬間、セーヤが地面に崩れ落ち、アステールに食ってかかったのが今の会話というわけだ。
「はぁ・・・あんたっていったい何者なのよ?」
「なにが?」
「なにがって・・・あんだけ強力な力、圧倒的な魔術、その記憶力、それだけあれば仕事なんて引く手数 多でしょうに、なんで冒険者なんかになったのよ。」
「楽しそうだから。」
「ハァッ!?」
セーヤの質問に即答したアステールの答えにセーヤは絶叫してしまう。
「確かにお前の言うとおり俺は引く手あまただろう。なればこそ俺は楽しい仕事を選びたかったんだ。」
「意味わかんない・・・・。」
アステールの自分本位な考え方にセーヤは絶句してしまった。
そんな取り留めのない話をしていると騎士団本部についたようだった。
「ここが騎士団本部よ。」
「ここが・・」
それは、貴族の屋敷のような白さをしていながら砦のような無骨な印象を与える広大な建物だった。
アステールが建物を見ていると門番が話かけてきた。
「お、セーヤじゃねぇか。ん?そいつは・・・あぁまた団長の遊びか。」
「そおいうことよ、それより団長はいらっしゃるわよね。」
「ああ、いるぜ。」
門番の話からしてセーヤが人を連れてくるのは初めてではないようだ。
「ああ、そこのあんた身分証かなんか持ってるか。」
「これでいいか。」
「ああ。アステール・・・C級・・・っと。悪いな通っていいぞ。」
「ご苦労さん。」
「おう。」
門番が身分証の提示を求めてきたので、冒険者証明書を出すと、門番は紙になにか書き込むとアステールに返した。
アステールがもう一人の門番に挨拶すると、相手からもかえってきた。
どうやら、この門番たちは人柄のいい門番のようだ。
「こっちよ付いてきて。」
セーヤに案内されてしばらくすると一つ扉の前で止まった。
するとセーヤが、
「騎士見習いセーヤ・ドレット。騎士団長様に面会を求めに参上しました!」
そうやって大声で口上を述べると中から、「入れ」という渋い声が聞こえるとセーヤが「失礼します」
と言って、中に入るとアステールにも中に入るように促した。
そこにいたのは50をとっくに過ぎた初老の男性であったが、鎧を着たその下からもわかる筋肉は少しも衰えを見せておらず、その気迫も息をのむものがあった。
実際セーヤなどはその気迫にいまだ慣れることができない。
「ダイオール騎士団長、仮宿希望者の者を連れてまいりました。」
「うむ。君がギルドで噂のアステール君だね、始めまして、エルメニア騎士団の団長をやっている。
シュト・ダイオールというよろしく。」
「C級冒険者のアステールだ。ずいぶん情報が早いな。」
まずダイオールが笑みを浮かべて挨拶をする、それにアステールがぞんざいな口調で挨拶をするが、その時アステールは天井と右側の壁にめをやる。
それをみたセーヤは意味が分からなかったようだが、ダイオールは笑みを深めて、
「まあ、二人とも座ってくれ。」という。
そして、二人が座ったのを確認すると話をはじめた。
「さて、アステール君は仮宿希望ということでよかったかな?」
「ああ、それで構わない。」
実は仮宿のシステムはここに来るまでにセーヤにされていた。
仮宿は本来浮浪者などを収容するものであるが、アステールの使うものはそれよりグレードが上がるため仮宿とは違うものになる。
そもそも仮宿希望者を騎士団長に合わせるなんてことはしない。つまり『仮宿』とは、この騎士団のあることをさす隠語であった。
そしてそのあることとは・・・・
「では、戦おうか。」
――――騎士団長との遊びだった。―――――




