20話
「フッ!」
4体を相手に立ち回った後では、その半分の2匹は強敵ではないと、リンは考えていた。
釘バット持ちに警戒しつつ、まず鉤爪持ちを潰す。鉤爪持ちは一度カウンターを受ければそのままコンボを繋げられ、事故が起きる危険性がある。少しでもリスクを潰すため、視界に釘バット持ちを捉えつつ、鉤爪持ちを盾にするような形で戦いを進めた。
バランスの悪い見た目からは考えられないようなフットワーク、そこから繰り出される鋭い拳を、コースを読みながら弾き、叩き落とし、隙を見つけては細かく細かく体力を削っていく。
「ググルゥゥ……」
苛立たしげに聞こえるトロントのうめき声。鉤爪のグリップを握りなおすように、手を細かく動かした。
「そこっ!」
それを見逃すリンではない。ストンピングコンボの有能さに気づいたリンは、再び同じパターンで行動を開始する。
短剣はメインとサブで合計二本。まずメインの一本で足を縫い付ける。投擲スキルが無ければ威力が足らず、硬い岩の地面に突き刺さることはなかっただろうが、投擲スキルさえあればスキルレベルが低くても、システムアシストによってある程度の勢いを与えられる為、ウロコは愚か硬い岩盤まで貫くことに成功した。
悲鳴を上げて思わず足を止めてしまうトロント。そこに向かってノーマルバイトで突撃する。今回は余裕があったため、わざわざ自分を傷つける必要はない。
最速の一撃がひらめく。確かに腹部を貫くことに成功したが、しかしもともとのレベル差もあり、体力はあまり削れなかった。
しかし考えはその先、勢いを乗せた体当たり。
「んぐっ! うぅぅ……!」
ヒットした。
壁にぶつかったような強い衝撃が体中に走るが、なんとかしてそれを押し返そうと力を込める。このまま押し切ることができれば、そのままコンボに繋げられる。
しかし。
「んぐっ!?」
勢いが足らない。逆に押し返されて、壁に叩きつけられる。
「がっ……」
脳が揺さぶられ遠ざかる意識、上に流れていく視界の中で、リンは気づいていた。
(ラビット・ラピッドだ……! スキルアシスト分の勢いが足らなかったから……)
あの苦し紛れの体当たり、あまりにも冷静さを欠いたギリギリの戦いであったため意識していなかったのだが、成功するには成功する訳があったということ。いや冷静さを欠いていたというよりは、本当に熱くなれていたのか。熱くなれていた中にも光る何かがあったのだ。
しかし余裕が生まれた瞬間に、戦いの中で研ぎ澄まされた感性は一気に錆び付き、どうして成功したのかを思考することをせず、ただ無謀に即死コンボを繋げようとした。その結果、油断によってなまくらと化した刃は敵を貫くことはなかった。
息が突然苦しくなる。いつの間にか周りは水に覆われていた。
「……」
水泡が登っていく。ゆらり、くらりと不規則に揺れるそれを見つめる内に、思考がまっさらに戻っていくのを感じた。
(ここで諦めたら……今までと同じ。でも違う、レベル差も、数の差もある、こんな無茶な戦いに進ませたのにも、きっと理由がある。何より……)
リンは絶望に覆われかけた瞳を一度閉じ、思考をまとめる。
再び開かれた瞳に絶望の色はなく、冷たい、感情のない、全く色のない鉄の瞳と化した。
希望はいらない、余裕もいらない。戦うにそれは必要ない。
「……助け、いる?」
陸に上がったリンに向かって、トーマが声を掛ける。
リンは首を振った。そしてただ一言。
「いりません」
短剣を抜いて、余裕に澱んていたその視線には鋭さが戻った。
「こんな簡単に、カナちゃんを救う敵にも届いていないのに、こんな雑魚相手に、諦められませんっ!!」
何より、諦められない。
それを見たトーマは目をそらし、頷くように瞳を伏せた。
「……それでいい」
「ッ……あ、ありがとうございます!」
トーマはひとまず一つの目標を達成し、満足していた。
リンに足らない物の一つとして、助けを求めず、一人で戦い抜くことができる根性が必要だった。簡単に言ってしまうと、負けず嫌いなところが足らなかったのだ。意地でもあの相手を潰してやる。人の助けなどいらない、ただ自分の力のみでそれを成す。そうあらねば、自分の目指す目標に手が届くわけもない。努力だけでは届かない、リンには殻となっている物を破ってもらわなければならないのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
地を這うようにリンが二匹に向かって吶喊する。
それからは消化試合だった。
簡単なコンボではなく、落ち着いてカウンターを決めていく。その度にスキルを使用せず軽い突き、もう一匹を常に意識しながら、確実にヒットできるタイミングでのみ隙の少ない格闘スキルを打ち込んでいく。順手、逆手、状況によって入れ替えつつ有利に戦闘を進めていく。
洞窟にレベルアップのファンファーレが響くのに、そう時間はかからなかった。
こんなザコ敵に時間をかけていくスタイル
でも、ビビってた頃に比べりゃ進歩ですよね。基本的にはミスか挫折をばらまいていくスタイルなので、こんな感じになりそうです




