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18話

前者でした。

「……ここの、洞窟」

ぶーぶー言いつつも普通について来たリンを引き連れて、トーマが辿りついたのはぽっかりと口を開けた一つの洞窟。

 いかにも、といったゴツゴツした見た目のそれは『ローレル洞窟』と名付けられており、奥に進むにつれて、中が満たされていくのが特徴だ。ダンジョン下部まで下っていくと道のほとんどが水で塞がれてしまい、そこからは泳いで進むしか道がなくなってしまう。よって、このダンジョンの攻略には水泳スキルが必須とされていた。

 中に入ると、既に水が滲んでいるのか足を踏み出す度に甲高い水音が洞窟の中にくぐもって響いた。

「おお~、おおっ! お、おおっ!? うわっ!?」

反響さえも緻密に表現されていることに感動し、リンが感嘆する。その声さえも響き、驚き、声をあげ、それも響き、といった風な声を上げ続ける無限機関と化した。とてもうるさい。

「……静かに」

「おおおおっ!? ……あ、す、すいません」

「……ここにくるのは、大体アストロンキャンプの人間。でも、油断はしないで」

「はい……はい。すいません」

リンはみるみるうちにテンションを下げ、瞳を昏い色に染めた。うつむいたまま、無言でこちらについてくる。

 トーマは少し、良心が痛むような気がしたが、こちらが注意しただけのことであり、自分全然悪いことしてないなと思い直しつつ、しかし慰めに似たことだけでもしておこうと、トーマは一度立ち止まって嘆息した。

「……いい。過ぎたこと。それより、今はマラソンのこと」

そう言って、トーマはすぐに歩き出した。リンもそれに続いて移動を開始する。

 水に侵食されて不規則に歪められた岩壁から水が滴り落ち、トーマの黒ローブに見えづらいシミを作る。歩いていくにつれて水かさが増えていき、いつの間にか踏むのでなく、蹴飛ばすような歩き方に変わっていた。水音も同じく同じく大きくなっていく。

 洞窟というダンジョンは非常に単調だ。探険をしながら、警戒して進むのであればきっと、もっとスリリングな攻略になるのだろうが、トーマはまるで一本道であるかのように分かれ道を迷わずに進み、時々不規則に動くのに続けば罠にも掛からない。ひたすら洞窟の凸凹を眺めながら歩いていくだけの作業である。

 無音の空気に耐え切れず、リンはトーマに声を掛けた。

「あ、あのトーマさん? どこまで歩くんですか? いま自分がどこにいるのかすらもあやふやになっちゃって……」

「……」

トーマは応えない。

「トーマさん?」

「……慌てない。なんで、モンスターが全くでてこないと思う? ……そろそろ、始まるから」

「へ? ……な、何?」

トーマの言わんとする意が読めず、リンは首をひねる。しかしどこかから響いてきた何かの物音が自分の耳に届いていることに気付き、顔を引き締めた。

「これ、誰かが泣いてる声?」

周りを見回しながら、リンは一人呟く。

 トーマはある一点を鋭く見つめ続けていた。そして眉を少し動かし、リンに手で合図を送った。つまり、敵襲に備えよ。

「……きた」

「ッ!」

リンが短剣を抜いた。続いて速度ブーストスキル『ラビット・ラピッド』を発動。体全体に浅葱色の光が灯る。足や拳限定の強化と違って尖った性能は出せないが、すべての部位においてブーストがかかる為、結果として攻撃、スキルどちらも加速されるのだ。一部分を強化するというのは中級者以上のすること、というのがこのスキルを好むリンの言い分である。

 トーマの視線の先には、

「……海藻?」

見た目は普通そうな海藻の群生地があった。わかめのような深い緑色で、あまりに普通すぎてなんだか気が抜けてしまった。その周りには澄んだ湖があり、その水は自分たちの進む道に沿って広がっているようだ。なかなか深そうだが、しかし特に、異常は見られない。

 リンは短剣をホルダーにしまい、トーマに話しかけに行く。

「なんですか、トーマさん。ただの海藻……」

「……ばか。油断大敵」

「え? がッ―――ッ、ンッ―――!?」

突如、体にしびれが走る。舌すら回らなくなり、リンは声にならない悲鳴を上げて倒れ伏した。混乱しながらステータスを確認すると、そこには電撃のようなマークがあった。つまるところ、麻痺状態である。

「ッ―――ッ、ッ」

体を横たえて細かい痙攣を繰り返すリンに、トーマが近づく。よく見ると、近くにプカプカと浮かぶ黄色い胞子のようなものがある。きっちり当たらない位置に立っていて、このフィールドに慣れていることが目に見えてわかった。

「……油断しすぎ」

そう言って、トーマはリンを見下ろした。その目はいつにもまして冷たい、凍えて、切り裂かれてしまいそうな視線にリンは恐怖した。

「前は危ないって言ったら、すぐに構えて、怯えてた。今、違う。ちょっと強くなって、自分ではそんなつもりなくても、油断しきってる」

トーマは展開した投げナイフをリンの瞳のギリギリ、当たらないように床に突き刺す。

「……もっかい、死にかけたい?」

「……」

リンは首を振ろうにも、麻痺して首が動かなかった。声をだそうにも舌が回らなかった。命の危険を察知して、リンの涙腺が勝手に涙を流し始める。

 トーマはナイフをインベントリにしまいなおして、

「……癒せ。キアル」

そう呟いた。伸ばされたトーマの人差指に光が灯り、それがリンに向けて放たれる。

 体が一瞬暖かくなったかと思ったら、それが抜けると同時にしびれも抜けていった。腕の血流が止め、痺れ始めると同時にそれを一気に解放したような感覚。冷たくなりはじめていた所に暖かいものが流れ込む心地よさにリンの体が震えた。

 リンは立ち上がる。

「……すいません」

「さっさと剣を抜け。敵がくる」

「……はい」

自分の馬鹿さ加減に吐き気がする、とリンは顔をしかめた。しかし汚名返上のチャンス、リンは剣を抜いて気合を入れ直した。当然、麻痺によって効果を失ってしまったスキルを重ねがけにする。

 同時に、周りの水に不穏な影が現れた。

「ギュオワッ! ギャオワッ!」

飛び出してきたのは、魚と人が混ざった珍妙な生物、魚人であった。槍を構えて、それが複数体。

 戦いが始まる。


アカン、どんどんリンがアホの子に……

もともとはこんな予定なかったんだけどwww


でも、物語が進むにつれて、人間は成長します。

そして、それはいつの日か、天の上の人にまで―――


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