ep19 猛獣使い!?奏兎
ちょうど、悠が雪と電話しているその時、喫茶店では柚と奏兎がお互いに向き合って座っていた。
「そんなに警戒しなくても、大丈夫だぞ?」
「別に警戒してない」
奏兎と視線を合わせる気はないと柚は窓から外を見る。早く、悠が帰ってこないかそれしか頭にない。
そもそも、悠が戻ってこないならとっとと店を後にしたいくらいにはここにいる理由が柚にはなかった。
「そういえば、さっきの悠さんだったか? 君とは従兄弟だったよな? 仲が良いのか?」
「……それをあんたに話す必要が?」
「別にないが、君が会話を断るなら、俺は悠さんが帰ってくるまでひたすら湊のかわいさに関して語るが良いか? どうも、1人じゃないときは人の声がないと落ち着かなくてな」
奏兎は頬をポリポリと掻きながら、少し居心地が悪そうに話す。柚は本当か? と疑いのまなざしで奏兎に視線を移す。
すると嬉しそうに奏兎は笑った。人懐っこい笑みがどこか悠とかぶり、柚はなんとも言えない気持ちになった。
「……で、あんたは何を聞きたい」
「ああ、多分詳しい話は悠さんに聞いた方が良いと思うからな。とりあえず、君と悠さんの関係を知りたいな。従兄弟とは聞いたが、同い年か?」
「……そう。高1だ」
「ということは、湊の同級生か。俺は、高3だ。かなり仲がよかったから兄弟にも見えるな、君らは」
奏兎の仲の良い兄弟という評価に柚は嬉しくなった。普段は、悠の犬扱いされることが多く、兄弟と言われることはほとんどない。
だから、柚は少しだけ奏兎のことを見直した。
「悠が俺を見つけてくれてから、ずっと一緒に住んでいる」
「そうか! それは兄弟みたいに見えて当然だな! 長いのか?」
「もうすぐ10年になる」
「それは、素敵だな!」
「素敵……?」
「たくさん思い出を共有できてるってことだ。……まぁ、短い時間でも経験が濃ければ一生の思い出になるがな」
奏兎が少し寂しそうに笑った。少しだけ、柚はその理由が気になった。しかし、奏兎はその表情を一瞬で消し去ると、照れくさそうに笑った。
「……っと。柚君と2歳しか違わないのに少しじじ臭かったな」
「柚でいい……。それに別にいいだろ、それぐらい」
「おお、柚は優しいな。俺も奏兎でもカナでも好きなように呼んでくれ!」
「分かった、カナ」
柚は小さく頷き、名前を呼ぶと奏兎はわかりやすく嬉しそうな顔をする。
それから、悠が戻ってくるまで奏兎と当たり障りのない会話が続いた。
話題を振るのが上手いというのもあるが、悠や悠の家族以外でこんなに話したのは初めてかもしれないなと柚はぼんやりと思った。
◇◇◇◇
悠は店内に戻り、唖然とした。目の前には楽しげに会話をしている柚と奏兎。
難攻不落とさえ言われている柚を奏兎が攻略した!? と頭が混乱する。なるほど、雪が人誑しだと言っていたことを思い出す。
それでも、あの柚だよ? と思わず目をこする。
柚達が座る机から少し離れた場所で立ち尽くしていた悠は夢かなと混乱が続いていた。
そのタイミングで、柚が悠の方を見た。目が合うと柚は嬉しそうに立ち上がり、悠に駆け寄った。
「遅かったな、大丈夫だったか?」
「えっ……あっ、うん。私は大丈夫だけど……」
「まだ、悠が頼んだ料理が残ってる。戻ろう」
「あっ、うん……」
柚に手を引かれる形で悠は席に着く。
「用事は終わったか?」
「あっ、はい」
奏兎に尋ねられ、悠は大人しく頷く。
「えっと、私が席を外している間にかなり仲良くなったね?」
「カナは悪い奴じゃなかった」
「カナ……!?」
柚があだ名で誰かの名前を呼んでいたことなんて今まであっただろうかと悠の混乱はピークへと達する。
私がいない間に何があったんだろう? と柚と奏兎を交互に見る。
喧嘩をしていないか、険悪な空気になっていないか心配していたのは何だったんだろうとさえ思う。
そして、柚は悪い奴ではないと言ったが、常闇会に知り合いがいるという事実も忘れてはいけない。裏社会に片足は確実に突っ込んでいる。警戒は必要なはずだ。
今までは警戒担当が柚、切り込み隊長が悠で役割分担されていた。しかし、奏兎に対しての柚の警戒心はゼロだ。
予定とは違うと、悠は少しだけショックから立ち直り、戦略を練り直す。
とりあえず、もう少し落ち着こうと、机の上のサンドウィッチに手を伸ばし、食べる。
「えっと……それで、何の話でしたっけ?」
「ん? 君が湊を何に巻き込もうとしてるかの話だな」
「あっ、そうでした!」
あまりの衝撃にどこまで話したかすら忘れていた悠はそうだったと頷く。
「奏兎さんが思った以上に裏社会を知っているようですので、単刀直入に言います。私達は、夜神を潰したい。そのために湊の力を借りたいんです」
「何でだ? あいつが生きた都市伝説と言われているからか?」
「最初の興味はそれです。……でも実際に喧嘩している姿を見て、湊は自分の身を守れると判断したんです」
「……それは危険な目に湊を遭わせると言っていないか?」
「そう聞こえるかもしれません。でも、そうならないように私が立ち回ります。もちろん、柚も。私は夜神じゃない外部の手を借りたいんです。それに湊以外の適任者はいない……私はそう思っています」
悠は正直な気持ちを伝えて、奏兎の反応を見る。奏兎は考え込むように顎に手を当てている。
これで奏兎に断られても、諦めるつもりはない。協力を得られなくても湊の攻略を別ルートで考えれば良い。悠は微かに頭の中で別の道を模索しながら、奏兎が口を開くのを待った。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、水曜日20時更新予定です。
続きが気になりましたら、ブックマークで応援していただけると非常に励みになります! ぜひ、よろしくお願いします!




