ep1 夜神の一族
まだ3歳ぐらいの時の話だ。夜神悠は、兄である夜神遙に手を引かれて一族の集まりに出ていた。
すぐにお腹が空き、燃費の悪い悠は大きなショルダーバッグをかけて、中からパンやお菓子を取り出し食べながら兄に続く。
本家と分家が全員集まっている。しかし、夜神家から他家に嫁いだり、婿養子に入った人々はいない。
それでもかなりの人数だ。悠は緊張しながら兄の手を少し強く握る。横を歩く遙は悠の方を見てニコリと笑う。
「どうした、悠。兄ちゃんがついてるから心配するな。それより子供もみんな集めて、今日はなんなんだろうな?」
4歳年上の遙も今日の集まりについては詳しく聞いていないと言っていた。両親と並んでいると、夜神家の当主の補佐より子供は別の場所に集まるように言われた。そのため、その場所に向かって兄と共に歩いている。
「あれは、本家の欠陥品か。兄が神童なのに、残念な事だ」
「あの世代はダメだな、夜神の博士の息子は作られた化け物とは言え、言葉を理解していない。立花のとこの娘は悪魔と捨てられたと聞いたぞ?」
「珍しく同学年が3人だと思ったが、全員出来損ないとは残念だな」
「本当だ、誰が言い出したか、空白の世代とはよく言ったものだ」
下卑た笑いと共にそんな言葉が聞こえてくる。悠は自分のことを言われていると自覚していた。しかし、他者に何を言われても悠には響かない。自分の人生に関係ない人達が何か言っているとしか思えなかった。
遥斗が悠と繋いでる手に力を入れる。痛みに思わず、隣を見る。すぐに力を入れてしまったことに気づいた遙が、手の力を抜き、謝る。
「ごめん、痛かったよね? あいつら悠の事を知らないのに欠陥品なんて言うからつい、怒りで」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。私は気にしてない」
「……そんなこと言わないで。悠は自慢の妹なんだからさ」
遙が悲しそうな顔をする。その理由が悠にはわからなかった。それから無言で2人は補佐役に案内されながら、一つのホールに入る。そこには沢山の子供が集められていた。
「こんなに夜神の一族の子供がいたんだね」
悠は少し驚いたような顔をする。その時に、ホール内に檻が置いており、中に人がいるのに気づいた。悠は気になって、遙の手を離して走り出す。
「おい、悠!」
遙が心配そうに声をかけてきたが、悠は気にしない。檻に向けて一目散に小さな足で走る。周りには自分と同じぐらいかもう少し小さい子から10代後半ぐらいの子供までおり、それぞれに会話を楽しんでいる。檻の近くには誰もいない。まるで恐ろしいものでもいるように避けていた。
「……男の子?」
檻まで辿り着き、中を見ると髪の長い顔立ちの良い子供がいた。悠は直感で男の子だと思った。理由はわからない。でも、何故か仲間だと思った。檻の中の男の子は唸り声をあげている。しかし、悠は気にしない。
檻の前にしゃがみ込み、笑う。
「初めまして、私夜神悠。よろしくね」
友達になれるかも知れないからと遙と練習した自己紹介を悠は檻の中の子に披露した。男の子は困惑している様子だ。しかし、悠は気にしない。
「なんで、そこにいるの? 出られないの?」
「悠!!」
檻の中に手を伸ばそうとした瞬間、走って追いかけてきた遙が悠の体を後ろに引く。2人揃って後ろに尻餅をつく。
「お兄ちゃんどうしたの?」
慌てた様子の兄に悠は不思議そうに聞く。遙は檻の中を覗き込む。そこには威嚇するようにしている男の子しかいない。
「君はもしかして博士の……」
「はかせ?」
苦しそうな表情で呟く遙に悠は首を傾げる。
「悠、僕もこれは間違ってると思う。でも大切な妹を巻き込みたくないんだ」
「えっ、お兄ちゃん!? どこ行くの?」
遙はそう言って、悠の手を掴んで歩き出す。そしてどんどん檻から離れてしまう。悠は困惑しながらもなんとかついていく。檻からだいぶ離れると遙はやっと足を止めた。
「悠。君は優しい子だ。でもあの子に関わるのはやめてくれれ。僕の方から働きかけてみるから」
悠は遙が言っていることの意味がわからなかった。あの子は私と一緒だと直感が叫んでいる。でも大好きな兄を悲しませる事はしたくない。悠は少し考えてから頷いた。
もう少し大きくなったら自分から秘密裏に動いてみようと内心で思いながら。
しばらくするとホールの舞台に現当主である夜神|勝利が現れる。その横には先ほど案内してくれた補佐役が控えていた。
『夜神の血族の子供達、よく集まってくれた。ここにいない者も何人かいるが、まぁいいだろう』
マイクを通していつの間にか締め切られていたホールに声がこだまする。
『まだ先の話だが、一族の子として仲良くなる前に次代に関しては忠告しようと思ってな』
ニコニコと笑顔で笑いながら当主は続ける。歪んだ笑みに悠は無意識に兄にしがみついた。
『ここにいる子供達、長子! 長男! 以外の子供達は次代の当主になる可能性がある! 自分以外は全て敵だ! 兄弟さえもな。当主になるには最強である事! それだけだ。是非とも次代の当主になるために勉学や体術などに励みたまえ。他を蹴落とす者こそ当主に相応しい!』
当主はそう言うと、言いたい事は終わったとばかりに舞台から降りる。話を聞いていた遙が当主を睨んでいることに気づく。
「お兄ちゃん? 怖い顔してどうしたの?」
「……ごめんね、怖がらせちゃったね」
遙は悠には何も言わずに謝ると頭を撫でる。
周りも困惑した空気が流れている。ごく一部の10代後半ぐらいの子供達だけはなんとも言えない怖い顔をしている。
「悠は気にしなくて大丈夫だよ、僕が守るから」
何かを決意したような遙の言葉に悠は底知れない何かを感じた。その何かはまだ幼い悠にはわからなかった。
本日序章3話一気更新です。あと2話ございます。




