【5】理想に近付けられた被害者。〜完璧過ぎる一族と、追悼の晩餐への招待〜
イーサンとカリスタとセシルがロサンゼルス市警察に戻ると、ベックとヴィヴィアンも既に検死局から戻っていて、エレノアと共に三人を待っていた。
ベックが「随分時間がかかったな!」と言うと、カリスタがため息混じりに答える。
「一時間以上待たされた挙げ句、意外な展開になったの」
「意外な展開って?」と訊くヴィヴィアンに、イーサンが「まずはハーパーだ」と答える。
イーサンの鋭い声がマイクに向かう。
「ハーパー、どうだ?
シャーロット・アルマンの経歴は調べたか?」
すると、チャールズがパッとパソコンの画面に現れた途端、話し出す。
「調べましたよ〜!
まずアルマン家はロサンゼルスで四代続く名門で、一族は男子全員が医者という徹底ぶりです。
勿論、女子も医者が多いですが、シャーロットはイェール大学を主席で卒業して弁護士になりました」
そこで、チャールズが人差し指を左右に揺らす。
「ただ、相当かわいかったんでしょうね〜!
赤ん坊の頃からモデルをやっていて、その後も趣味の範囲で大学に入学するまでモデルを続けてました。
それで順調に弁護士街道を走っていたんですが、33才の時、父親の援助でモデル事務所を開業。
これが大当たり!
ハリウッドのモデル事務所の中では、会社はそこまで大きく無いですが、それは質の高いモデルを厳選しているのが理由!
モデルに対しても生活態度に厳しくて、酒や薬物問題を一回でも起こしたら即クビにしています。
開業以来、黒字続きの右肩上がりで、税金の滞納などもありません。
現在45才、独身!
結婚歴無し。
子供もいません。
それと、2才年下の弟のトラヴィスについても調べておきました!」
「流石だな、ハーパー」とイーサンが頷く。
チャールズは嬉しそうにニカッと笑うと、続ける。
「当然ですよ〜!
そもそもシャーロットの父親は、アルマン家の長男で医者ですが、今は総合病院を経営しています。
シャーロットは四人兄弟の三番目で、たった一人の女の子。
上の兄二人も、末っ子の弟のトラヴィスも医者です。
それで凄いのが、このトラヴィスくん!」
チャールズが画面の中で前乗りになる。
「三人の男兄弟の中でも一番優秀!
ハーバード大学卒で外科医師になり、なんと32才という若さで大学病院の外科部長まで登り詰めています。
ところが、癌患者に接するうちに外科医師の能力だけでは力不足という理由で、精神科医の資格も取っています!」
カリスタとヴィヴィアンとベック、エレノアが一斉に驚きの表情になる。
セシルは画面を見ずに、声だけを聞いている。
チャールズが鼻息荒く続ける。
「それと、12年前にシャーロットの片腕として、シャーロットのモデル事務所の役員に加わっています。
シャーロットの会社の資産を投資で増やしていて、投資家としても有名です。
今は大学病院の理事の一人になっていますが、患者から指名されて手術を行うこともしばしば。
それと、スポーツマンとしても有名で、地元のトライアスロンの大会で何度も優勝しています。
あんたはスーパーマンかって感じで活躍しまくっています!
地元の名士ですね」
イーサンが冷静に問う。
「患者や、シャーロットの会社の他の役員とのトラブルは?」
チャールズが即答する。
「皆無!
トラヴィスは誰にでもやさしいと評判で、保険が利かない患者でも、あらゆる機関に働き掛けて最高の手術を受けられるようにしたり、その後の精神的なケアまで請け負ってます!
モデル事務所の方でも、シャーロットが売れると見込んだ子には、収入が少ない内は住む場所を与えてやった方が良いと進言して、シャーロットのモデル事務所専用のアパートを買っています。
トラヴィスが投資で増やしたお金で買い取った物で、シャーロットも乗り気で、今もアパートを所属モデルに無償で提供しています。
トラヴィスも現在43才で、結婚歴無しの独身。
子供もいません。
今はこんなところです!」
イーサンの声が一段低くなる。
「シャーロットにもトラヴィスにも犯罪歴はないんだな?
未成年時代にも」
チャールズがテンション高く答える。
「ありません!
経歴がピカピカ過ぎて目眩がしそうですよ〜!
トラヴィスに至っては、駐車違反すらしたことありません!」
イーサンが静かに言う。
「ありがとう、ハーパー。
トラヴィスの写真を送ってくれ」
「もう送りました!
では!」
チャールズがパソコンから消えて、皆が一斉にタブレットを見た。
そこには、金髪の髪を綺麗に撫で上げた、顔立ちの整った、まるで俳優のような男性の画像が映っていた。
「それで?
このアルマン社長姉弟を何故調べさせたんだ?」とベックが訊く。
イーサンが「それは」と言って――
シャーロットにイーサンとカリスタが会ってからと、シャーロットがセシルに会ってからの状況を説明した。
ヴィヴィアンが眉を顰める。
「そんなボス猿タイプの女性が、セシルを見ただけで驚いてグラスを落としたの?」
カリスタが頷く。
「そうなの。
そして、これからはアシュリー捜査官としか話さないと言い出したの。
私とチーフには、どうぞロビーでお待ち下さいってね」
「それでどうした?」とベックが急かす。
イーサンが苦々しい顔になる。
「ランディ・ミラーの失踪時を詳しく知るのは彼女だけだ。
だから、セシルを残して話をさせた」
セシルがあっけらかんと「うん、そう」と付け加える。
「それで?
シャーロットは何だって?」
セシルに詰め寄るベックに、セシルは不思議そうに答える。
「大した話はしてないよ。
僕の研究の話とか、興味のある分野とか……。
僕の話ばっかりだったから、風向きを変えようと廊下に陳列してあった古書の話を振ったら、物凄く楽しそうに説明してくれて。
それで、ランディの話は、今はショックが大きくて心の準備が出来ないから……。
明日、ランディの為の追悼の食事会を弟と開くので、その時に話したい、是非来て欲しいって招待された。
但し、僕だけね」
今度はヴィヴィアンが、セシルに詰め寄る。
「それで、あなたは何て答えたの!?」
セシルがにこりと微笑む。
「行くって。
シャーロットは、イーサンやカリスタには失礼な態度を取ったかもしれないけど、本当は無理してたんだよ。
ランディの死を受け入れられなくて――
僕にはやさしくて、僕が話を脱線してもニコニコして最後まで話を聞いてくれたし!
ランディの追悼の食事会の話になったら、お化粧が崩れちゃうくらい泣いてたし!
パリ行きだって一週間も伸ばしたんだよ。
ランディのお葬式に出席したいからって」
「……だけどね!」
イーサンがヴィヴィアンに「何を焦ってる?」と静かに訊く。
「これを見て!」
ヴィヴィアンがそう言って、現場写真のランディの顔のアップの写真をデスクに置いた。
カリスタがぎょっとして、写真を手に取る。
ヴィヴィアンが深刻な声で言った。
「私とベックとエレノアには、セシルにそっくりに見える!
チーフとカリスタは?」
カリスタが深く頷く。
「……確かに……。
そっくりだわ……!」
イーサンは顔色一つ変えず、「似ている」とだけ言うと――
ベックが気まずそうに口を開いた。
「俺とヴィヴィアンで検死局に遺体を確認に行って来たんだが、実はランディは念入りにメイクをしてたんだ。
メイクを取ったら、顔の骨格は確かにセシルに似てるが、そっくりという程では無かった」
イーサンが写真を一枚手に取る。
「つまり、セシルそっくりの『誰か』に犯人が似せようとして、メイクまでさせていたという事か」
その冷徹とも言える厳しい声音に、会議室が静まり返った。
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