私だけ蚊帳の外 **夏芽**
坂野くんに告白されてから何日か過ぎた時、坂野くんからデートのお誘いを受けた。
坂野くんはそのデートの時に返事を聞かせて欲しいと言う。
あまり返事を先延ばしにしても坂野くんに失礼だから、私はそのデートに行くことにして、坂野くんをもっと知ろうと思った。
≪ありがとう。じゃ、日曜日の10時に高田さんの家の近くまで迎えに行くね。楽しみにしてるね≫
坂野くんからの返信メールはとても嬉しそうな文章と、飛び上がって喜んでいるクマのスタンプが押されていた。
「くすっ」
そのスタンプが坂野くんに見えてきて思わず笑ってしまった。
坂野くんに返事をしようと文字を打っていたら、遥生からメールが入った。
遥生から? 珍しい。なんだろう。
用事があるなら家に来て話せばいいのに。
≪夏芽、最近学校で何かあったか≫
何かあったか、って。
今度は何故か遥生が私の心配をしている。
直生からは何も聞いていないのかな。
そうだよね、直生は私が坂野くんに告白されてお付き合いするか悩んでいることなんて双子の遥生にも話していないよね。
≪まぁ、ね。こんな私でも彼氏ができるかもなの≫
・・・。
既読なのに返事が来ない。
なによ、遥生。
私の冗談かと思って呆れて無視してるんでしょ。
「おい、夏芽!」
その声とともに私の部屋のドアが勢いよく開いた。
「夏芽! なんだよ、それ。俺、知らねえよ」
「わわっ、遥生。急に入って来ないでよ。びっくりするでしょ」
せっかく遥生に言われたから部屋のドアを閉めていたのに。
遥生だってドアをノックしないじゃないのよ。
「夏芽に彼氏って、直生はそれ知ってんの?」
「う、うん。直生は知ってるよ。応援してくれるって言ってくれたよ」
遥生がなんだか怖い。
私、何かした?
「だからか。だから直生が・・・」
「直生がどうかしたの?」
「夏芽、お前やめとけよ」
「何を?」
「直生の様子が最近おかしいんだよ。ずっと何かを考え込んでる」
「それと私は関係ないんじゃないの?」
だって学校での直生はいつもと変わらないよ。
それにこの前は私が幸せだったらそれでいいって、そう直生は言ったよ。
「遥生!! なにやってんの」
私の部屋のドアの前にいつの間にか直生が立っていて、遥生を止めようとしている。
「夏芽、遥生が突然ごめんね。僕は元気だしいつも通りだよ。遥生の勘違いだから」
「何が勘違いだよ。直生は最近おかしいだろ。何か悩みがあるんだろ。その悩みは夏芽の事じゃないのかよ」
遥生の私に向けられていたイライラが今度は直生に向いて、2人は一触即発の状態。
「私の事って、直生どう言うことなの?」
「夏芽、本当に遥生の誤解なんだ。夏芽は何も心配しなくて大丈夫だからね。さ、遥生、帰るよ」
直生は遥生の腕を掴んで私の部屋から出るように遥生を促した。
「分かったから手を離せよ、直生。何を考えてるのかちゃんと話せよ」
遥生の気迫に負けたのか、直生が
「分かった。遥生には話すよ。その代り、遥生も僕に本心を言って欲しい」
「ああ、直生が俺に聞きたいことがあるならなんでも話す」
遥生の返事を聞いた直生は
「夏芽、騒がしくしてごめんね。これは僕らの問題だから夏芽には関係ないんだ。もう帰るから気にしないでね」
そんなこと言われたって、気にならない訳ないじゃない。
「その話は私が一緒に聞いてはだめなの? 気になるよ、直生」
私のことで直生が悩んでいるって。
そんなこと言われたら私だって気になるよ。
「まずは俺と直生で話すから。夏芽はここで待ってろ」
遥生にそう言われてしまったので、そこから先に私は入ることはできなかった。
直生と遥生が私の部屋から帰り1人残されると、何故だか2人がとても遠くに行ってしまったように感じて淋しくなった。
私たち3人は今までなんでも話したし、秘密なんてなかったのに・・・。