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 喉が渇いて夜中に目覚めた。

 見上げた天井が見知らぬもので驚いた。

 隣には良が寝ていたので更に驚いた。

 あれからずっと良は抱きしめてくれたのだと思うと複雑だ。

 ベッド脇の水を飲むとそっと足を下ろし、バルコニーへと向かった。


 夜風が心地好いと思いながら遠くを眺める。

 見たこともない景色に自分の国は滅んだと実感した。

 手摺りを掴む手に力が入る。

 何故、こうなってしまったのだろう?

 同盟を申し出てきたのは向こうなのに。

 こんな意味のない、確かなものでない婚約を信じた私達は報われないではないか!


 雅はじっと階下を見下ろす。

 闇はどこまでも深くて、このまま落ちたら地獄へ行けそうに思えた。

「やっと話せるわね。涙は止まった?」

 蝶がふわりと現れた。

「どうしてなかなか出てきてくれなかったの?」

 不満げな雅に蝶は答えた。

「私は信頼する人間の前にしか現れないの。

 精霊とはそういうものよ。

 私が信頼しているのは昌だけ」

 知らない人間がたくさんいる場所など、簡単には現れたくないのだという。

 雅はため息をついた。

「説明するわ。私は王国の鍵。

 私が認めたもののみが王となっていたの。

 だから私がいれば、国を復活させることができるわ。

 でも貴女ではダメよ。

 私は貴女を認めないから」

 冷たい蝶の言葉に心が冷える。

「でも、昌の願いだから傍にはいてあげるわ」

 そう言うと蝶は消えた。


 翌朝、良は廊下で藍と出会った。

「…なぁ、婚約者のことを聞いたか?」

 良の言葉に藍は「ああ」とだけ答えた。

「捕まって、死んだのだろう?

 それがどうした?」

 藍の返答に良はため息をつく。

「俺、お前のそういうところが嫌いだよ。

 何でも手に入るお坊ちゃん。

 俺は一生お前を理解出来ない」

「…理解してもらおうとは思わない。

 話はそれだけか?」

「いや、確認したいことがあったんだ。

 お前は婚約者のことを何とも思ってなかった。

 そうだな?」

「ああ、会ったこともない姫だ。

 死のうが生きていようが関係ない」

 藍の言葉に良はニヤリと笑う。

「相変わらずだ。

 でもその言葉を待っていた。

 もう、いいよ。話は終了だ」

 良は片手を振って藍に背をそむけた。

 元々、分かっていたことだった。

 それでも確認したかったのだ。

 

 あっという間に時は過ぎる。

 悲しみは消えないし、疑問ばかりが増える。

 何故?

 どうして?

 同じところをぐるぐると廻る。

 良は変わらず優しい。

 それがどういうことを意味しているのか理解出来ない。

 夜中にバルコニーで想いに耽ることも習慣になった。


 蝶がふわりと現れる。

「このまま此処で過ごすつもり?」

「…わからないわ」

 蝶がため息をつく。

「もうあの国は無いの。

 これからどうするか自分で決めなさい」

 冷たい蝶の言葉に体が凍る。

「悲しいのは貴女だけじゃないのよ」

 そう言うと蝶は消えた。

 蝶の言葉は理解している。

 でも心が言う事を聞かないのだ。

 このまま此処にいてはいけないことも分かっている。

 雅はそっとため息をついた。


「こんな夜中になにをしている?」

 背後から抱きしめられて雅は驚いた。

「ほら、体が冷たくなっている」

 良の言葉に何も答えず、雅はただ闇を見つめた。

「…ここにいるのは嫌?

 逃げてしまいたい?

 死んでしまいたい?

 でもそれは許さないよ」

 ぎゅっと良が力を入れた。

 逃げてしまわないように、優しく、強く。

 良の温もりに雅は戸惑った。


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