1
小さいときから好きな人のお嫁さんになることを夢みていた。
たくさん読んだ絵本では、お姫様には素敵な王子様が現れて恋をしていたから。
そんな夢は叶わないと知ったのは婚約者がいると知らされた時。
ショックで泣いた。
その婚約者とはじめて会ったのは、私が五歳で相手が十歳のときだった。
眉をひそめて相手を睨む私を母は苦笑して抱き寄せた。
「ごめんなさいね。この子ったら人見知りなのよ」
最後に生まれた私は甘やかされて育った。
母は私を怒ったりはしなかった。
相手は困ったように微笑んだ。
「ほら、雅。きちんとご挨拶して。
私は用事があるから、二人で遊びなさい」
ぽい、と相手の前に放り出された雅は呆然とした。
知らない人と一緒に遊ぶことなんて出来ない!
「…お母様~」
泣きじゃくる雅の頭を優しく撫でてくれた婚約者は「大丈夫だよ」と優しく微笑んだ。
その瞬間、私は簡単に恋に落ちた。
いよいよ国が滅びるとなった時、姉妹のように育った侍女が言った。
「姫様急いでこれに着替えて下さい」
差し出されたのは侍女の服。
「侍女に紛れましょう。
私が時間を稼ぎますから、その間に逃げて下さい」
そう言いながら侍女は雅のドレスを着た。
バタン!と扉が開かれて、侍女とともに驚く。
部屋に入ってきたのは二番目の兄であった。
侍女がホッとため息をもらす。
「雅!大丈夫か!?」
傷ついた格好の兄が雅に近づく。
その姿に緊張が緩んだ。
「お兄様!」
抱きつくと兄はぎゅっと抱きしめてくれた。
「雅。お前にこれを渡そう」
そう言って首にかけられたのはキラキラと光る小さな鍵。
「これはとても大切なものだ。
決して無くしてはいけないよ。
これがあれば我が国はまた復活することが出来るのだから」
「ダメよ、昌!!」
突然現れた金髪の美女が兄に向かって叫んだ。
「この国を継ぐのは貴方よ!
それ以外は認めないわ!」
「蝶、誰よりも君を愛しているよ。
だからこそ、君を守りたい。
雅と一緒に行ってくれるだろう?」
ずるいわ、と蝶が昌に抱きついて泣いた。
昌は愛おしそうに蝶の背中を撫でる。
「さぁ、時間がない。
詳しい説明は君からして」
そう言うと昌は蝶の頬をそっと撫でた。
その瞬間、蝶は消えた。
驚く雅を見て、昌は扉を指差す。
早く逃げろ、と。
飛び交う怒声と足音に金属音。
王宮はすでに火に巻かれている。
恐ろしくて足がすくんだ。
「大丈夫です。きっと助かりますから」
そう言って侍女は雅の背中を押す。
振り返ると昌が微笑んで頷いた。
「さぁ、もうすぐここにも兵が来ます。
早く逃げて下さい!」
侍女に急かされ、夢中で駆けた。
王宮は崩れかけている。
美しい庭も燃えている。
父も母も兄たちも殺されたという。
悲しくて涙が出たが、足を止めることはしなかった。