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 小さいときから好きな人のお嫁さんになることを夢みていた。

 たくさん読んだ絵本では、お姫様には素敵な王子様が現れて恋をしていたから。

 そんな夢は叶わないと知ったのは婚約者がいると知らされた時。

 ショックで泣いた。

 その婚約者とはじめて会ったのは、私が五歳で相手が十歳のときだった。


 眉をひそめて相手を睨む私を母は苦笑して抱き寄せた。

「ごめんなさいね。この子ったら人見知りなのよ」

 最後に生まれた私は甘やかされて育った。

 母は私を怒ったりはしなかった。

 相手は困ったように微笑んだ。

「ほら、ミヤビ。きちんとご挨拶して。

 私は用事があるから、二人で遊びなさい」

 ぽい、と相手の前に放り出された雅は呆然とした。

 知らない人と一緒に遊ぶことなんて出来ない!

「…お母様~」

 泣きじゃくる雅の頭を優しく撫でてくれた婚約者は「大丈夫だよ」と優しく微笑んだ。

 その瞬間、私は簡単に恋に落ちた。


 いよいよ国が滅びるとなった時、姉妹のように育った侍女が言った。

「姫様急いでこれに着替えて下さい」

 差し出されたのは侍女の服。

「侍女に紛れましょう。

  私が時間を稼ぎますから、その間に逃げて下さい」

 そう言いながら侍女は雅のドレスを着た。

 バタン!と扉が開かれて、侍女とともに驚く。

 部屋に入ってきたのは二番目の兄であった。

 侍女がホッとため息をもらす。

「雅!大丈夫か!?」

 傷ついた格好の兄が雅に近づく。

 その姿に緊張が緩んだ。

「お兄様!」

 抱きつくと兄はぎゅっと抱きしめてくれた。


「雅。お前にこれを渡そう」

 そう言って首にかけられたのはキラキラと光る小さな鍵。

「これはとても大切なものだ。

 決して無くしてはいけないよ。

 これがあれば我が国はまた復活することが出来るのだから」

「ダメよ、マサシ!!」

 突然現れた金髪の美女が兄に向かって叫んだ。

「この国を継ぐのは貴方よ!

 それ以外は認めないわ!」

チョウ、誰よりも君を愛しているよ。

 だからこそ、君を守りたい。

 雅と一緒に行ってくれるだろう?」

 ずるいわ、と蝶が昌に抱きついて泣いた。

 昌は愛おしそうに蝶の背中を撫でる。


「さぁ、時間がない。

 詳しい説明は君からして」

 そう言うと昌は蝶の頬をそっと撫でた。

 その瞬間、蝶は消えた。

 驚く雅を見て、昌は扉を指差す。

 早く逃げろ、と。

 飛び交う怒声と足音に金属音。

 王宮はすでに火に巻かれている。

 恐ろしくて足がすくんだ。

「大丈夫です。きっと助かりますから」

 そう言って侍女は雅の背中を押す。

 振り返ると昌が微笑んで頷いた。

「さぁ、もうすぐここにも兵が来ます。

 早く逃げて下さい!」


 侍女に急かされ、夢中で駆けた。

 王宮は崩れかけている。

 美しい庭も燃えている。

 父も母も兄たちも殺されたという。

 悲しくて涙が出たが、足を止めることはしなかった。


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