2.とある未来の戦場でのお話
この話は時系列的に未来の話です。
次話の「3.」から猫が魂を選んだ後に戻ります。
前方から、数えるのも馬鹿らしくなる程の膨大な数の魔物が、こちらに向かって迫ってくる。
多種多様な魔物からなる群れ、「万軍」とはよく言ったもの、こいつらの主に爪を立てたくなる。
一体だけでも“災害”と言われるドラゴン種も、図鑑が作れるくらいに数多く見える。
俺の隣には、様々な苦難を共に……、いや……、二人で過ごして来た時間は幸せの方が多かったな……。
銀色に輝く長い髪が美しい、銀狼族の少女リル。
俺がこの世界で頑張ってこれたのは、間違いなくリルのおかげだろう。
「シュン……」
リルが不安そうな声で俺の背を撫でる。
俺の姿は巨大な猫だから、はたから見たら仲の良い主人と従魔といった感じで微笑ましいものだろう。
ここが戦場でなければ……。
横を向くとリルと目が合った。昔はリルの膝下くらいの大きさだった自分をふと思い出した。
「リル、任せてくれ。帰ったら美味しいご飯と、お風呂……あとモフモフさせてくれ!」
俺は一歩前に出る。後ろでリルが微笑んだような気がした。
――――ザッザッザッ
俺は一気に駆け、魔物の群れの中に踊り込んだ。
魔力を込めた腕の一振りで数体の魔物が消し飛ぶ。
その場で回転し、尻尾を大きく振ることで薙ぎ倒しながら、魔物の囲みを振り払う。
「これだけの数相手に使うのは初めての魔法だな……」
誰に聞かせるでもないが、俺は決意の為に呟いてみた。
尽きること無い魔物の群れが怒涛のように押し寄せてくる。
「この魔法は敵が敵でなくなる……。お前達みたいな相手で良かったよ」
これも誰に聞かせるでもない。
本当に憎い相手に使うのはなんとなく心情的に微妙なところがある魔法。
自分たちの意志に関係なく、軍となって攻めてきた魔物達には適したものかもしれない。
魔物達に爪をふるいながら、魔法の範囲と効果を意識の中で構築していく。
降りかかるドラゴンの息吹は、大して利かないので無視しながら、魔力を集めることに集中する。
「さて……」
発動の準備ができた。
ふとリルの優しく微笑む顔が浮かんだ。
俺は自分流にアレンジした禁呪を唱え発動させた。
「―――― 森 羅 万 猫 ――――」
俺を中心に光が広がり周囲を包んでいく……。
光が収まったあとに残ったのは……、大小様々で多種多様なことは先程までと同じだが、それは魔物の大群ではなく、猫の大群であった――――。