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3.気づいたら自分がモフモフでした

 意識が徐々にはっきりしていく……。

 目を開けると目の前にはモフモフが。


 えーと……

 俺はなんでモフモフに埋まってるんだ? 夢? そんな感じでもないような。

 まあ……せっかく気持ちいいし、まだ眠いし、もう一眠りしたっていいよね?

 

 その時、顔の横を何かが撫で上げた。

 『冷たっ!?』 いや、冷たくはなかったけど濡れたような感じ?

 撫でられた方を向くと大きな猫の顔……。可愛いけど、俺の記憶の猫に比べて野生を感じる顔。


 あれ? ここは?? 

 なんとなく……本当になんとなくだけど、俺は夢の中で猫と女神様と一緒にいた気がする。

 猫に俺の魂が入るとかなんとかかんとか……うーん……何のこっちゃ?


 それより、さっきから体に違和感があるんだよ。

 手のいつもと違う感覚に、俺は自分の手を見た。


 肉球がありますね……。プニプニしてて気持ちよさそう……、じゃなくて。

 なんで、手に肉球がついてるの? それどころか手がフワフワの毛に覆われているのはどういうこと? モフモフで気持ちよさそう……でもなくて。


 洞察力に優れていると自負する俺の推測だと――決して他人に言われたわけではない、あくまで自分で洞察力が優れていると思ってただけ――「俺」の魂が女神様監修の元、猫に入ってしまったということかな。信じられないけど……


 猫が「俺」という思考を手に入れたという方が正しいのだろう。

 考えるベースや知識としての記憶はあるけど、俺には自分の「人生の記憶」といったものが無い。部分的な記憶喪失なだけかもしれないけど。


 さらに言うなら、猫が主人公で「俺」の魂はその補助的な役割ってことだよね……まあ一体化してるから、どっちがどうとか無い気もするが。  


 事ここに至っては現実を受け入れる必要があるという気がしてきた。

 猫がこの世界に産まれる際に、「遠く別世界の男」つまり「俺」の魂を得たということだ。

 とりあえず、その説が一番しっくりくるし、今はそういうことにしておこう。

 まあいいや、猫は大好きだしね。嫌いな生き物とかじゃなくてホント良かった。

 という訳で、猫生?頑張ろ。


 それで……と、いうことは……目の前のモフモフニャンコは母猫ってこと?だよね??


 とりあえず今は目の前のモフモフにダイブすることにした。

 二度寝は現実逃避への(いざな)い。問題の先送りともいう……

 ちょっとゴワゴワするけど、落ち着く匂いで俺は眠りに落ちていった――。



◇◇◇◇◇



 どれくらいの時間が経っただろうか。

 目が覚めたら、視界は一面森だった。歩いていないのに森を進んでいく感覚。

 ふと顔を横に向け、さらに頑張って視線をもっと横に向けると、母猫の顔が上にある。これは仔猫の首を親猫が咥えて運んでるの図だと理解した。


 楽チンだけど、足が地面についてないので、フラフラして落ち着かないなあ。

 そういえば他に仔猫が居なかった気がするけど、同時に産まれた兄弟姉妹はいないのかな。

 野良猫どころか野生の山猫な感じだけど、今後どうなるんだろうと考えていると、母猫の歩みがピタリと止まった。


「「グルルルゥ……」」


 右前方の木々の間から目の前に狼らしきものが飛び出してきた。

 実際に生の狼は見たことないけど、これが狼だってなんとなく分かった。

 しかも複数の狼の声が聞こえた気がする。


 怖い……マジで怖い……

 怖くて声が出ないし、胸が苦しくなってきた。


 自分の何倍もある体格。一噛みされただけで死ぬだろう戦力差。


 ヤバすぎる……と思ってると、左にもの凄い力で引っ張られた。

 そして木々がどんどん後ろに流れていく。

 狼から逃げてるのだとすぐに理解した。


 怖い、怖い……自分が餌として見られることへの本能的な恐怖を感じる。初めて感じる絶望的な恐怖の感覚。

 首が痛くてもげそうだし、体の自由が利かない。それでも逃げ切れるなら……


「ニャー!」


 叫ぼうとしたら可愛い鳴き声が出るだけだった。


 母猫は俺を咥えたまま逃げ続けてるけど、狼達を引き離せない。

 俺を咥えたまま逃げるってのは大きなハンデに違いない。


 頑張って!と母猫を見たら、ちょうど目があった。その時、母猫は目を細めて微笑んだ気がした……。


 何とかできないかと考えるけど、仔猫の自分にできることはないだろう……。

 自分を置いていけば、餌を求めてる狼は足を止めるし、母猫の速度も上がるし逃げられるだろう。

 けど怖くてそんなことは言えないし、そもそも伝える方法も無い。


 その時、目の前が開けて視界から木々が無くなった。

 どうした?と思ったら、母猫が急カーブしようとしていた。

 あ、目の前が崖だったわけね。


 ――ッ!?

 放り投げられる浮遊感を感じた。振り返ると遠ざかっていく母猫の悲痛な表情。

曲がる時の慣性で、掴んでいられなくなったんだ。


 今のはしょうがないから、すぐその場から逃げてと思ったところで落下を開始した。


 落ちながら自然と足が下になるが、慣れない体で無理やり下を見てみると川がある。流れの緩やかな幅の狭い川。


 水の上に上手く落ちることができれば……

 そう思ったところで、自分の体がまだ弱い仔猫だということに気づいた。


 これは駄目な気がしてきた……

 産まれたばかりなのに……

 そう思ったところで俺は意識を失った――――



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