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3/20

プロローグ 白竜皇の選定

 はじめまして、Atelier Lotusと申します。

 短いお付き合いになると思いますが、よろしくお願いします^_^


 妻が、婚約破棄、追放ものが好きで書いて欲しいとのことでしたので書きました。


 当小説は、すでに完成しておりまして、プロローグとエピローグを含めて205話あります。


 毎日、0時10分。7時10分。12時10分。18時10分に予約投稿致しますので、完結するまでに二か月弱ですね。お付き合いいただけたら幸いです。


 主人公のミアは、序盤に無神経で教養のない家族に捨てられますが、彼女の成長を暖かく見守っていただけたら幸いです^_^

 帝国歴一五一八年。


 ヴァイスラント帝国は歓喜と悲嘆に揺れていた。


 長きにわたるロスカリア帝国との戦争が終結したのである。


 帝都シュヴァルツブルクの大通りには人々があふれていた。


 兵士たちの帰還を祝う歓声。


 酒場から聞こえる笑い声。


 広場を駆け回る子供たち。


 誰もが平和の訪れを喜んでいた。


 ヴァイスラント帝国は勝利した。


 だが、その勝利は決して安いものではなかった。


 多くの兵士が故郷へ帰れなかった。


 多くの家族が大切な人を失った。


 そして皇室もまた、その例外ではなかった。


 第二皇子ジークフリート・フォン・ヴァイスラント。


 帝国の英雄と称えられた若き皇子は、戦争終結直前の激戦において命を落とした。


 享年十八。


 彼は自ら先頭に立ち、多くの兵士を救った末に散ったという。


 その死は帝国中を深い悲しみに包んだ。


 誰もが彼の名を讃えた。


 誰もが彼の死を惜しんだ。


 だが悲劇は、それだけでは終わらなかった。


 戦争終結から数か月後。


 皇帝ヴィルヘルム四世が流行病に倒れたのである。


 帝国最高の医師たちが集められた。


 あらゆる治療法が試された。


 それでも皇帝の命を救うことはできなかった。


 崩御。


 その報せは帝国全土を震撼させた。


 戦争に勝利したばかりの帝国は、一度に二人の柱を失ったのである。


 皇妃クラリッサは夫を失い、息子を失った。


 短期間のうちに最愛の家族を二人も失ったのだ。


 彼女は部屋へ閉じこもるようになった。


 食事もほとんど口にしない。


 夜ごと亡き夫と息子の名を呼びながら涙を流した。


 誰も慰めることはできなかった。


 その悲しみは、あまりにも深かった。


 そして帝国は新たな問題に直面する。


 皇位継承である。


 残された継承候補は二人。


 第一皇子クラウス。


 第三皇子エルンスト。


 もっとも、皇妃クラリッサは皇帝と同格の地位を持つ存在であり、本来ならば皇帝となる資格を有していた。


 しかし彼女は深い喪失によって心身ともに疲弊しており、自らその資格を辞退していた。


 次代の皇帝はどちらなのか。


 貴族たちの関心は、その一点に集まっていた。


 だが――。


 ヴァイスラント帝国では、人間が皇帝を決めることはない。


 それは建国以来、一度も変わったことのない掟だった。


 およそ千五百年前。


 祖皇アルベルト・ヴァイスラントと白竜皇オルドは、戦乱に苦しむ人々を救うため共に立ち上がった。


 人は欲望によって争う。


 権力は人を狂わせる。


 だからこそ皇を選ぶのは人であってはならない。


 祖皇はそう考えた。


 そして白竜皇は言った。


 ――未来永劫、この国の皇は我が選ぼう。


 以来、白竜皇オルドは歴代皇帝を選び続けてきた。


 白竜皇。


 それは五大竜王の頂点に立つ存在。


 白竜皇、黒竜王、紅竜王、碧竜王、翠竜王。


 五柱の竜王を束ねる竜族の皇である。


 ゆえに、その選定に異を唱える者はいない。


 白竜皇が見るのは才能ではない。


 血筋でもない。


 その者の魂。


 その者の慈悲。


 その者が民を愛せるかどうか。


 ただそれだけだった。


 そして選定の日が訪れる。


 聖山ヴェルグラン。


 その山頂に広がる白竜の国アルカ=ヴェル。


 巨大な神殿の広間には帝国中の有力貴族が集められていた。


 誰もが同じ未来を思い描いていた。


 選ばれるのはクラウスだと。


 第一皇子クラウスは二十歳。


 聡明。


 温厚。


 社交的。


 貴族からも民からも愛されていた。


 まさに理想の皇帝。


 誰もがそう認めていた。


 一方のエルンストは十六歳。


 無口。


 無愛想。


 感情を表に出さない。


 何を考えているのか分からない。


 優秀ではあるが人気はない。


 だから誰も疑わなかった。


 結果は決まっていると。


 やがて。


 神殿の奥から一人の青年が姿を現した。


 雪のような白髪。


 黄金の瞳。


 神話の時代より生き続ける竜の皇。


 白竜皇オルドである。


 その場にいた全員が頭を垂れた。


 静寂。


 重苦しい沈黙。


 そして白竜皇が口を開く。


「次代の皇帝を告げる」


 低く響く声が神殿を震わせた。


 誰もが息を呑む。


「エルンスト・フォン・ヴァイスラント」


 一瞬。


 誰も理解できなかった。


 神殿が静まり返る。


 そして次の瞬間。


 ざわめきが爆発した。


「なぜだ……」


「クラウス殿下ではないのか」


「あり得ない……」


 驚愕。


 困惑。


 混乱。


 だが白竜皇は続けた。


「其方を第九十九代ヴァイスラント皇帝と認める」


 決定は覆らない。


 エルンストは静かに目を閉じた。


 皇帝になりたかったわけではない。


 だが逃げることもできない。


 彼は跪く。


「謹んでお受けいたします」


 その声は静かだった。


 しかし確かな覚悟があった。


 白竜皇はそんな彼を見つめていた。


 まるで遥か未来を見通すかのように。


 その時。


 誰も知らなかった。


 この少年が後に冷徹皇帝と呼ばれることを。


 氷の皇帝。


 無慈悲なる統治者。


 そんな異名で恐れられることを。


 そして、その評価が大きな誤解であることを。


 本当の彼は誰よりも優しく。


 誰よりも責任感が強く。


 誰よりも民を愛する青年だった。


 白竜皇だけは知っていた。


 この少年の魂が、祖皇アルベルトにも匹敵する慈悲を持つことを。


 そして運命は動き出す。


 遠く離れたナルシス王国で。


 一人の少女が妖精たちに囲まれながら空を見上げていた。


 まだ誰にも理解されない少女。


 やがて婚約者に捨てられる少女。


 けれど――。


 白竜皇は知っている。


 慈悲ある魂は必ず惹かれ合う。


 だからこそ。


 これは冷徹皇帝と呼ばれた青年と、


 婚約破棄されて捨てられた少女が出会い、


 帝国の未来を変えていく物語。


 そして。


 捨てられた少女が本当の幸せを見つける物語の始まりである。

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