プロローグ 白竜皇の選定
はじめまして、Atelier Lotusと申します。
短いお付き合いになると思いますが、よろしくお願いします^_^
妻が、婚約破棄、追放ものが好きで書いて欲しいとのことでしたので書きました。
当小説は、すでに完成しておりまして、プロローグとエピローグを含めて205話あります。
毎日、0時10分。7時10分。12時10分。18時10分に予約投稿致しますので、完結するまでに二か月弱ですね。お付き合いいただけたら幸いです。
主人公のミアは、序盤に無神経で教養のない家族に捨てられますが、彼女の成長を暖かく見守っていただけたら幸いです^_^
帝国歴一五一八年。
ヴァイスラント帝国は歓喜と悲嘆に揺れていた。
長きにわたるロスカリア帝国との戦争が終結したのである。
帝都シュヴァルツブルクの大通りには人々があふれていた。
兵士たちの帰還を祝う歓声。
酒場から聞こえる笑い声。
広場を駆け回る子供たち。
誰もが平和の訪れを喜んでいた。
ヴァイスラント帝国は勝利した。
だが、その勝利は決して安いものではなかった。
多くの兵士が故郷へ帰れなかった。
多くの家族が大切な人を失った。
そして皇室もまた、その例外ではなかった。
第二皇子ジークフリート・フォン・ヴァイスラント。
帝国の英雄と称えられた若き皇子は、戦争終結直前の激戦において命を落とした。
享年十八。
彼は自ら先頭に立ち、多くの兵士を救った末に散ったという。
その死は帝国中を深い悲しみに包んだ。
誰もが彼の名を讃えた。
誰もが彼の死を惜しんだ。
だが悲劇は、それだけでは終わらなかった。
戦争終結から数か月後。
皇帝ヴィルヘルム四世が流行病に倒れたのである。
帝国最高の医師たちが集められた。
あらゆる治療法が試された。
それでも皇帝の命を救うことはできなかった。
崩御。
その報せは帝国全土を震撼させた。
戦争に勝利したばかりの帝国は、一度に二人の柱を失ったのである。
皇妃クラリッサは夫を失い、息子を失った。
短期間のうちに最愛の家族を二人も失ったのだ。
彼女は部屋へ閉じこもるようになった。
食事もほとんど口にしない。
夜ごと亡き夫と息子の名を呼びながら涙を流した。
誰も慰めることはできなかった。
その悲しみは、あまりにも深かった。
そして帝国は新たな問題に直面する。
皇位継承である。
残された継承候補は二人。
第一皇子クラウス。
第三皇子エルンスト。
もっとも、皇妃クラリッサは皇帝と同格の地位を持つ存在であり、本来ならば皇帝となる資格を有していた。
しかし彼女は深い喪失によって心身ともに疲弊しており、自らその資格を辞退していた。
次代の皇帝はどちらなのか。
貴族たちの関心は、その一点に集まっていた。
だが――。
ヴァイスラント帝国では、人間が皇帝を決めることはない。
それは建国以来、一度も変わったことのない掟だった。
およそ千五百年前。
祖皇アルベルト・ヴァイスラントと白竜皇オルドは、戦乱に苦しむ人々を救うため共に立ち上がった。
人は欲望によって争う。
権力は人を狂わせる。
だからこそ皇を選ぶのは人であってはならない。
祖皇はそう考えた。
そして白竜皇は言った。
――未来永劫、この国の皇は我が選ぼう。
以来、白竜皇オルドは歴代皇帝を選び続けてきた。
白竜皇。
それは五大竜王の頂点に立つ存在。
白竜皇、黒竜王、紅竜王、碧竜王、翠竜王。
五柱の竜王を束ねる竜族の皇である。
ゆえに、その選定に異を唱える者はいない。
白竜皇が見るのは才能ではない。
血筋でもない。
その者の魂。
その者の慈悲。
その者が民を愛せるかどうか。
ただそれだけだった。
そして選定の日が訪れる。
聖山ヴェルグラン。
その山頂に広がる白竜の国アルカ=ヴェル。
巨大な神殿の広間には帝国中の有力貴族が集められていた。
誰もが同じ未来を思い描いていた。
選ばれるのはクラウスだと。
第一皇子クラウスは二十歳。
聡明。
温厚。
社交的。
貴族からも民からも愛されていた。
まさに理想の皇帝。
誰もがそう認めていた。
一方のエルンストは十六歳。
無口。
無愛想。
感情を表に出さない。
何を考えているのか分からない。
優秀ではあるが人気はない。
だから誰も疑わなかった。
結果は決まっていると。
やがて。
神殿の奥から一人の青年が姿を現した。
雪のような白髪。
黄金の瞳。
神話の時代より生き続ける竜の皇。
白竜皇オルドである。
その場にいた全員が頭を垂れた。
静寂。
重苦しい沈黙。
そして白竜皇が口を開く。
「次代の皇帝を告げる」
低く響く声が神殿を震わせた。
誰もが息を呑む。
「エルンスト・フォン・ヴァイスラント」
一瞬。
誰も理解できなかった。
神殿が静まり返る。
そして次の瞬間。
ざわめきが爆発した。
「なぜだ……」
「クラウス殿下ではないのか」
「あり得ない……」
驚愕。
困惑。
混乱。
だが白竜皇は続けた。
「其方を第九十九代ヴァイスラント皇帝と認める」
決定は覆らない。
エルンストは静かに目を閉じた。
皇帝になりたかったわけではない。
だが逃げることもできない。
彼は跪く。
「謹んでお受けいたします」
その声は静かだった。
しかし確かな覚悟があった。
白竜皇はそんな彼を見つめていた。
まるで遥か未来を見通すかのように。
その時。
誰も知らなかった。
この少年が後に冷徹皇帝と呼ばれることを。
氷の皇帝。
無慈悲なる統治者。
そんな異名で恐れられることを。
そして、その評価が大きな誤解であることを。
本当の彼は誰よりも優しく。
誰よりも責任感が強く。
誰よりも民を愛する青年だった。
白竜皇だけは知っていた。
この少年の魂が、祖皇アルベルトにも匹敵する慈悲を持つことを。
そして運命は動き出す。
遠く離れたナルシス王国で。
一人の少女が妖精たちに囲まれながら空を見上げていた。
まだ誰にも理解されない少女。
やがて婚約者に捨てられる少女。
けれど――。
白竜皇は知っている。
慈悲ある魂は必ず惹かれ合う。
だからこそ。
これは冷徹皇帝と呼ばれた青年と、
婚約破棄されて捨てられた少女が出会い、
帝国の未来を変えていく物語。
そして。
捨てられた少女が本当の幸せを見つける物語の始まりである。




