監禁五日目
「はあ」
ベッドに体を委ねて溜息をつく。
手の拘束は早々に解けた。片足の拘束だけはいまだに続いている。
しかし。なんとまあ。
「快適すぎるんだよなあ…」
思っていることが自然と口をついて出た。
部下に拉致され強姦され監禁され、大体五日が経った。
初日の乱暴ぶりは一切なくなり、普通に三食一緒にご飯を食べ(すべて手作りだった。いかれてると思う)、鎖を繋いだままならトイレも風呂も自由。
スマホは没収されているけど、必要だと説明して頼めば最低限の連絡を取らせてくれる。
予想外だったのは、私にリモートで仕事をさせてきたことだった。
「え?仕事するの?」
「そりゃそうでしょう。うちは課長がいないとどうにもならないんですから」
「ええ…働かなくていいのかと」
「僕まだそこまで稼げてないんで。働かなくていいよって言えるまでよろしくお願いします」
「はあ…」
でも納得した。こうやってリモートでも仕事をしていれば、誰も私が監禁されてるなんて思わないだろう。
なるほど。賢い。最低限の日常を過ごせば非日常を隠す必要もないってことね。
リモートの理由は体調不良ということにしているらしい。
普通にweb会議で顔を見せているからかそこまで心配されなかった。
というか、web会議まで参加させるのどうなの…?
ある意味信頼されてるなあと思う。私が助けを呼ぼうと思えば呼べるというのに。
それを彼に聞いたところ。
『助けを呼んで逃げ出したいほど不便してます?結構自由にしてもらってますけど』
『……』
室温、環境は快適。食事は全部用意してくれる(しかも美味しい)
スマホは常時なくてもテレビもパソコンもいじれる。サブスクも完備。
元々仕事以外に外出しない出不精の無趣味だったせいで、この生活が不便どころか快適ですらある状況。
ご指摘通り…逃げ出す理由がなかった。
「……どうしたものか」
「何か困りごとですか?」
私の独り言に頭上から返事が来る。
寝そべったまま頭を仰け反らせると、仕事から帰宅した部下であり監禁犯がそこにいた。
「あー、おかえり」
「ただいまです」
「頼んでた案件、大丈夫そう?」
「貴方がちゃんと采配してくれてるから大丈夫ですよ。出社できない課長の役に立とうとみんな張り切ってます」
「なんていい子たち…」
私の可愛い部下たち。手間かけてごめん、でもありがとう。
上司はいい歳して監禁されてるけど元気です。
「お腹すいてますか?」
「んー、まあまあ。何か用事あるなら先に済ませていいよ」
「そうですか?じゃあ先に済ませようかな」
夏なのに律儀につけたネクタイを外してシャツの襟元を広げる。
特にやることもないので目を伏せると、唐突に気配。と、唇に触れる感覚。
目を開けると眼前に部下の顔。マウストゥマウス。
この男はいつだって目を閉じないでキスをする。
すでに何度かされているけど、目を閉じていたためしがない。
こんな近距離で見えるわけもないだろ、と思いながら私も目を閉じないようにしている。
「……脈絡ないねえ」
「誘ってるのかと」
「目を閉じただけで誘ってるなら瞬きもできないでしょ」
私の答えに楽しそうに目を細める部下。
唇が触れそうな距離感を保ったままの会話。こういうものにも慣れた。
「んー…季有さん本当にポーカーフェイスですよね。不意打ちしても全然動揺してくれない」
「しょうがないんだよねえ。そういう性質だから」
「五日も経ってるのに、全然新しい感情が見えない」
私の前髪を指先で払いながら愚図るように呟いて合間に唇を啄んでくる。
なんかこう、いちいちいやらしい。
乙女のように恥じらったりときめいたりすればいいのかもしれないが、本当にそういう性質ではないからしょうがない。
唇が重なる時間が増えて、次第に首筋に移動する。
「……ん?霜月君盛ってる?」
「はい。あと史也です」
「あーそうだった、史也君ね。え、ひょっとしてこれが用事?」
「そんなとこです」
「若いなあ」
「はい、僕若いんです」
私の首筋を食んでスウェットの裾から手を潜らせながら肯定した。
史也君はあの夜が嘘のように、それ以降はとても丁寧に私を抱く。
なっがい前戯。なっっがい行為。最低二回は確定。
正直……しんどい。この生活で一番辛いまである。
床上手だとは思う。気持ちがいい。しかし気持ちがいいものが正義とは限らない。
快楽により単純に三十代の私の体力が削られ、終わったころには屍と化す。
二十代の彼は平然としており、私を風呂にいれる余裕まである。
この監禁生活の一番の難点はここにあり、このままの性活が続くと逃げ出したくなる気にもなるのだ。
……実はやり殺す気なのか?
ふと湧いた不安も、与えらえる快感に打ち消されて思考停止状態になった。
二回で、済むといいな…。
せめてもの願いはそれでしかなかった。
霜月 史也 26歳で9歳年下。
元気なようです。




