『相談室の外へ』
ルミエ・ヴァロワが王立ヴァルテール学園に赴任してから、ひと月ほどが経っていた。
最初の頃、相談室は珍しい場所だった。
生徒たちは遠巻きに見る。
扉の前で足を止める。
けれど、実際に叩く者は多くない。
そういう場所だった。
だが今は、少し違う。
相変わらず大勢が押しかけるわけではない。
授業と授業の合間に列ができるようなこともない。
相談室が学園生活の中心になったわけでもない。
ただ、必要になれば行ける場所として、少しずつ認識され始めていた。
誰かと少し話したい時。
自分の中の考えを整理したい時。
友人にも教師にも言うほどではないが、それでも誰かに聞いてほしい時。
そういう時に、相談室の扉が叩かれるようになっていた。
その変化は、生徒たちだけでなく、教師たちにも届いていた。
「来訪者数は、安定していると言ってよいでしょう」
職員用の会議室で、一人の教師が報告書を置いた。
机を囲むのは、学園の教師数名。
その中には、以前から相談室の運用を気にかけていた年配の教師もいる。
「増加傾向ではありますが、急激ではありません。特定の生徒が過度に依存しているという報告も、現時点では見られません」
「問題行動の減少は?」
別の教師が尋ねる。
「目に見えて大きく減った、というほどでは。ただ、一部の生徒については、授業中の落ち着きが戻ったという報告があります。人間関係で衝突しかけた件が、相談室に行った後に収まった例もあります」
「それは良いことですね」
「ええ。良いことです」
答えた教師は、少しだけ言葉を選んだ。
良いこと。
それは確かにそうだった。
学園に通う年代の青少年たちは、扱いが難しい。
しかも、基本的に立場のある子らだ。
無論、全員が問題児というわけではない。
むしろ、多くはよく教育されている。礼儀も知っているし、学ぶ意欲もある。
だが、だからこそ難しい。
彼らは子どもでありながら、家名を背負っている。
未熟でありながら、将来の立場を意識している。
感情は年相応に揺れるのに、振る舞いには年齢以上の品位を求められる。
教師が叱れば、ただの叱責では済まないことがある。
生徒同士の衝突も、家同士の距離感へと広がりかねない。
かといって、すべてを見逃すわけにもいかない。
王立ヴァルテール学園は、貴族、ギルド、官僚。将来この国を支える者たちを育てる場所だ。
知識だけではない。
礼儀だけでもない。
他者とどう関わり、どう場を保ち、どう自分の感情を扱うか。
それもまた、学ぶべきものだった。
だが、それを教えるのは難しい。
教科書に書けるものではない。
講義で説明すれば身につくものでもない。
教師が正論を言えば、子どもたちがすぐ納得するわけでもない。
「……相談室は、思った以上に機能しています」
年配の教師が静かに言った。
会議室の視線が彼に向かう。
「ヴァロワ嬢の対応について、何か懸念は?」
「今のところ、大きなものはありません。少なくとも、生徒の判断を奪うようなことはしていない。むしろ、本人に言葉を返させる傾向がある」
「ええ。よいことです。だからこそ、慎重に扱う必要があります」
その言葉に、会議室の空気が少しだけ引き締まる。
「相談室は、生徒が必要だと思った時に訪れる場所です。こちらから無闇に使えば、意味が変わります」
「では、このままに?」
「基本はそうあるべきでしょう」
年配の教師は、一度言葉を切った。
「ただし、例外的に、彼女の力を借りることが有効と思われる場もあります」
「力、ですか」
「便宜上、そう言います」
教師は苦笑するように目を伏せた。
「彼女は何かを強く主張するわけではありません。議論を仕切るわけでもない。まして、生徒を従わせるわけでもない」
それでも。
「ヴァロワ嬢がいると、場が少し落ち着く」
その一言に、反論する者はいなかった。
教師たちも見ていた。
相談室から戻った生徒の顔。
食堂でルミエと同席した者たちの様子。
夜会後、彼女の名が学園内でどう扱われているか。
不安がないわけではない。
だが、効果はある。
ならば、学園として、それをどう扱うかを考えなければならない。
「具体的には?」
若い教師が尋ねると年配の教師は、手元の紙を一枚取った。
「近く、上級生と下級生、そして留学生を交えた小規模な討論の時間があります。議題は、魔石文明の将来と在り方、役割について」
「……扱いづらそうですね」
誰かが小さく言った。
実際、扱いづらい。
魔石はこの国の基盤だ。
同時に、家ごとの利害も絡む。
産出する家。
加工する家。
流通する家。
それを使って利益を得る家。
公共施設に関わる者。
教会や学園のように、魔石の恩恵を受ける側。
学生の討論とはいえ、軽い話題ではない。
「本来なら教師が同席します。もちろん、今回もそれは変えません。ただ、教師だけでは少し重くなりすぎる可能性がある」
「そこにヴァロワ嬢を?」
「はい。相談室の主としてではなく、学園側の依頼を受けた同席者として。生徒の発言を裁くのではなく、必要に応じて言葉を整える役です。幸いにもヴァロワ家は魔石の大家。十分でしょう」
「クラリス家には?」
「既に事前に伺いを立てています。学園の判断として、過度な負担をかけない範囲であれば問題ないとの返答をいただきました」
その言葉に、数人が頷く。
相談室設置に関わったクラリス家の了承があるなら、手続き上の問題は少ない。
「ヴァロワ嬢本人には?」
「これから打診します。断ることもできると明確に伝えます」
年配の教師は、少しだけ厳しい声で言った。
「彼女が依頼に応じやすい人物であることは、我々も理解しているつもりです。だからこそ、こちらが線を引かなければならない」
便利だから使う。
そうなってはいけない。
だが、必要な時に力を借りることまで避けていては、学園としての役目を果たしているとも言えない。
その線引きこそが、難しい。
会議室に、短い沈黙が落ちた。
やがて、別の教師が頷く。
「まずは一度、限定的に」
「はい」
「その結果を見て、今後を判断する」
「それがよいでしょう」
年配の教師は、報告書を閉じた。
「では、私からヴァロワ嬢に話をしましょう」
その日の午後、ルミエは相談室にいた。
机の上には、相変わらず本が一冊置かれている。
今日は比較的静かだった。
扉の外を通る足音はあるが、止まることは少ない。
こういう日は、本が進む。
進むはずだった。
(……この本、思ったより細かい)
ルミエは、開いたページを見つめながらそんなことを思っていた。
王都周辺の街道整備についての本で、昨日より少し興味を持って借りてきたものだったが、章が進むにつれて橋の寸法や維持費、石材の産地の話が増えてきた。
それはそれで大事なのだろう。
ただ、読み物としてはかなり眠い。
(でも、こういうのもお父さまなら必要だって言うんだろうな)
そう思いながらページをめくる。
その時、扉が叩かれた。
二度。
教師らしい、落ち着いた間のある音だった。
「どうぞ」
ルミエが声をかけると、扉が開いた。
入ってきたのは、年配の教師だった。
以前にも何度か顔を合わせたことがある。
相談室の運用に関わっている人物の一人だ。
「失礼します、ヴァロワ嬢」
「先生。いらっしゃいませ」
ルミエは本を閉じ、軽く礼をする。
「お時間をいただいてもよろしいでしょうか」
「はい。もちろんです」
教師は向かいの席へ座る。
生徒たちと同じ席。
そのことを少しだけ確認するように視線を動かしてから、教師は口を開いた。
「相談室の運用について、まずは礼を言わせてください」
「礼、ですか」
「ええ。こちらの予想以上に、よい形で機能しています。訪れる生徒たちも、少しずつ増えていますが、今のところ過度な混乱はありません」
「それなら、よかったです」
ルミエは微笑む。
「私も、まだ手探りですけれど」
「その手探りが、よいのかもしれません」
教師は静かに言った。
「決めつけず、急がせず、かといって無責任に放り出すわけでもない。生徒たちにとって、ちょうどよい距離になっているのでしょう」
「そうでしょうか」
「少なくとも、我々はそう見ています」
教師は、そこで一度言葉を切った。
「その上で、今日は一つ相談があります」
「私に、ですか」
「はい」
教師の表情は穏やかだったが、声には慎重さがあった。
「相談室の外で、少しだけ力を貸していただけないかと考えています」
ルミエは瞬きをした。
「外で?」
「ええ。もちろん、常にという意味ではありません。特定の場に限ります」
「特定の場……」
「近く、生徒たちによる小規模な討論の時間があります。議題は、魔石文明の将来についてです。国内の生徒だけでなく、留学生も交えます」
「魔石文明の将来」
少し重そうな言葉だった。
ルミエは、机の上に置いた手を見下ろす。
魔石。
この世界の基盤。
ヴァロワ家の仕事。
熱を生み冷やし、光を灯し、音を消し、衝撃を制御するもの。
そして、ノワのそばでは止まってしまうもの。
一瞬だけ、淡銀色の髪と青灰の瞳が頭に浮かんだ。
「……難しそうな議題ですね」
「ええ。ですから、教師が同席します。ただ、議題の性質上、家ごとの立場や感情が混じりやすい」
教師は、少し苦笑した。
「生徒たちは優秀です。ですが、優秀だからこそ、正しさを譲れないこともあります。さらに、多くは貴族の子女ですから」
その先は、言葉にしなかった。
だが、ルミエにも何となく分かった。
この学園の生徒たちは、ただの学生ではない。
家がある。
立場がある。
自尊心がある。
将来がある。
正しい意見を言うだけでは済まない。
「私に、討論の進行を?」
「いえ。進行は教師が行います」
教師は首を振った。
「ヴァロワ嬢には、場に同席していただきたいのです。必要に応じて、生徒たちが言葉を整理する手助けをしていただければと」
「手助け……」
「たとえば、発言が硬くなりすぎた時。互いに意図を取り違えそうな時。あるいは、誰かが言いづらそうにしている時」
教師はルミエを見る。
「あなたなら、言葉を少しだけ置き直すことができるのではないかと」
ルミエは、しばらく黙った。
相談室で話を聞くのとは少し違う。
誰かが自分のもとへ来るのではない。
自分が、その場へ行く。
相談室という部屋の中ではなく、講義や討論の場に座る。
(仕事が増える……?)
最初に浮かんだ感想は、それだった。
だが、顔には出ない。
代わりに、ルミエの表情は少しだけ真剣になる。
「私で、お役に立てるでしょうか」
「はい。そう考えています」
教師は即答した。
ただし、その後で少しだけ目を伏せた。
「同時に、負担を増やすことになるとも理解しています。ですから、これは命令ではありません。学園側からの依頼です。断っていただいても構いません」
「エレーヌ様……いえ、クラリス家には?」
「事前に確認を取っています。過度な負担にならない範囲で、学園の判断として打診することは問題ないと」
「そうですか」
エレーヌの顔が浮かぶ。
きっと、許可したのだろう。
ルミエが相談室の外へ出ることを。
必要とされる場所へ行くことを。
(エレーヌ様、また色々考えてそう)
そんな気がした。
「ただし」
教師は続けた。
「私は、あなたを便利な道具のように扱うつもりはありません」
その言葉に、ルミエは少しだけ目を瞬かせた。
「道具、ですか」
「ええ。言い方は悪いですが、効果があるからといって無制限に使うのは、教育ではありません。相談室は、あなたがそこにいるから成り立っている場です。それを外へ持ち出すなら、慎重でなければならない」
教師の声は穏やかだった。
だが、その言葉にははっきりとした線があった。
「今回は、あくまで試験的なものです。討論の場に一度だけ同席していただく。その結果を見て、今後どうするかを判断します。もちろん、あなたの意見も聞きます」
「私の意見も」
「当然です」
教師は、少しだけ厳しい顔をした。
「あなたが無理をすれば、相談室そのものの意味が損なわれます」
ルミエは、その言葉を聞いていた。
無理。
最近、よく聞く気がする。
フランソワの手紙にもあった。
レオンの手紙にもあった。
夜会の後、アニエスにも気遣われた。
そして今、教師にも言われている。
それだけ周囲が気づいているのか。
それとも、そう言うのが大人として当然なのか。
どちらかは分からない。
少なくとも、自分が本当に無理をしているかといえば、そこまでではない。
疲れることはある。
面倒だと思うこともある。
できれば静かな方がいいと思うこともある。
だが、できないわけではない。
そして、求められていることは、ヴァロワ家の娘としても、相談室を任された者としても、断るほどのものではなさそうだった。
「分かりました」
ルミエは頷いた。
「同席させていただきます」
教師は、少しだけ息を吐いた。
「ありがとうございます」
「ただ、私は討論の専門家ではありませんから」
「それは承知しています」
「議題についても、詳しいとは言えません」
「むしろ、それでよいのかもしれません」
「そうなのですか?」
「ええ。詳しすぎる者同士は、時に互いの言葉を聞かなくなりますから」
教師は少し笑った。
「あなたには、正解を出してほしいわけではありません。生徒たちが互いの言葉を聞けるよう、少し場を整えていただければ十分です」
場を整える。
その言葉は、ルミエにとって馴染み深いものになりつつあった。
それならば、普段の”調整役”の仕事と同じだ。あれも同席していればほぼ勝手に終わる。
自分では、そんな大層なことをしているつもりはない。
ただ、話しかけられたら返しているだけだ。
相手が目の前にいれば、身体が勝手に最適な反応を返す。
それだけなのに。
周囲は、それを場を整えると言う。
「……できる範囲で、務めます」
ルミエは静かに答えた。
「よろしくお願いいたします」
教師は頭を下げる。
ルミエも、それに礼を返した。
話は決まった。
相談室の外での、最初の同席。
それは小さな依頼だった。
だが、扉の内側で誰かを待っていたルミエが、今度は扉の外へ呼ばれることになる。
その意味を、ルミエ本人はまだ深く考えていなかった。
(討論かぁ)
考えていたのは、そんなことだった。
(眠くならないといいけど)
それだけである。まさかこの体は居眠りなどしないとは信じているが。
教師が相談室を出たあと、職員室へ戻る途中の廊下で、別の教師とすれ違った。
「打診は?」
「受けていただけました」
「そうですか」
相手の教師は少し安心したように頷く。
だが、年配の教師はすぐには表情を緩めなかった。
「喜ぶのは、結果を見てからです」
「慎重ですね」
「慎重にもなります」
年配の教師は、静かに言った。
「我々は今、便利なものを見つけたのかもしれない」
その言葉に、相手の教師が黙る。
「ですが、生徒にとって便利なものが、必ずしも教育にとってよいとは限りません。まして、人を便利なものとして扱えば、それはもう教育ではない」
「……そうですね」
「だからこそ、見極めなければならない」
年配の教師は、相談室のある方角を一度だけ振り返った。
「彼女が場を整えるのか。それとも、周囲が彼女に整えてもらうことに慣れてしまうのか」
その違いは、大きい。
だが、外から見ればどちらも同じに見えるかもしれない。
場が穏やかになる。
その結果だけなら、同じだからだ。
「難しいですね」
若い教師が言う。
「ええ。難しい」
年配の教師は頷く。
「だから、教育なのです」
数日後。
討論の知らせは、対象となる生徒たちに伝えられた。
議題は、魔石文明の将来と各家の役割。
参加者は、学年や家格をある程度混ぜた少人数。
その中には、イザベル・ド・ヴェルディエの名があった。
彼女は知らせを読み、静かに頷いた。
「妥当な議題ですね」
魔石は、この国の基盤である。
それについて、将来を担う者たちが考えるのは当然だった。
ただ、同席者の欄にある名前を見て、イザベルの指がわずかに止まる。
ルミエ・ヴァロワ。
相談室の主。
ヴァロワ家の令嬢。
貴族ではないが、学ぶべきものがあると判断した相手。
「……同席なさるのですね」
確認するように呟く。
胸の奥に、わずかな落ち着きが生まれる。
同時に、少しだけ緊張もした。
彼女の前で、自分はどのように発言すべきか。
正しくあるべきだ。
だが、正しさだけで足りるのか。
イザベルは、その問いを胸の奥へしまった。
そして、討論の資料へ視線を落とした。
エドガー・ルクレールも、同じ知らせを受け取っていた。
「魔石文明の将来、ね」
彼は紙を見ながら、小さく呟く。
難しい議題だ。
だが、悪くない。
自分の知識を示す機会でもある。
努力してきたことを、言葉にできる場でもある。
そう考えたところで、同席者の欄に目が止まる。
ルミエ・ヴァロワ。
エドガーは、一瞬だけ黙った。
相談室の静かな空気。
出された茶。
話しても、話さなくてもよかった時間。
それらが、少しだけ戻ってくる。
「……あの人も来るのか」
声には、特別な熱はなかった。
少なくとも、本人はそう思っている。
ただ、紙を畳む手は、少しだけ丁寧になった。
イリーナ・ローデンフェルトは、討論の知らせを見て、少しだけ目を細めた。
魔石文明の将来。
産出国から来た自分が呼ばれるのは、当然と言えば当然だった。
そして、そこにヴァロワ家の娘が同席する。
「……なるほど」
イリーナは小さく笑った。
産む国。
加工する国。
流す家。
使う者たち。
その話を、学園の小さな部屋で行う。
そして、そこにルミエ・ヴァロワがいる。
「面白いですね」
それは、純粋な感想だった。
同時に、少しだけ警戒もしていた。
あの少女は、議論をどう流すのか。
あるいは、何も流さないのか。
イリーナは、当日の資料を手に取った。
相談室では、ルミエが討論用の資料を眺めていた。
文字が多い。
議題も重い。
魔石文明の将来。
各家の役割。
産出、加工、流通、公共利用。
魔石資源の安定性。
代替手段の必要性。
どれも、たぶん大事な話だ。
大事な話なのだが。
(これは……眠くなるやつだ)
ルミエは、そう判断した。
けれど、受けた仕事である。
読まないわけにはいかない。
ページをめくる。
産出国についての項目で、カルヴァーニアの名が出る。
流通についての項目では、ヴァロワ家の名は直接出ていないが、それらしい記述がある。
加工技術の項目では、ベルニエ家の工房について触れられている。
そして、魔石の効果を阻害する希少例についての短い注記があった。
幽脈石。
その文字を見て、ルミエは少しだけ手を止めた。
ノワの顔が浮かぶ。
静かな小屋。
淡銀色の髪。
青灰の瞳。
――じゃあ、待ってる。
ルミエは、少しだけ目を伏せる。
(今度、また行かないと)
そう思う。
討論の資料とは、あまり関係ない。
けれど、魔石文明の将来という言葉の中に、ノワのような存在はどこにいるのだろう。
そう考えかけて、ルミエは少し首を振った。
難しいことは、きっと当日誰かが話すだろう。
自分に求められているのは、正解を出すことではない。
場を整えること。
そう言われた。
(場を整えるって、何をすればいいんだろう)
考えても、明確な答えは出なかった。
けれど、きっと誰かが目の前にいれば、口は勝手に動く。
いつものように。
ルミエは資料を閉じる。
「……まあ、できる範囲で」
そう呟いた声は、誰にも聞かれなかった。
相談室の窓の外では、生徒たちの声が遠く響いている。
静かな部屋の外で、次の場が少しずつ用意されていた。




