第7話 魔法訓練とスナイパーライフル
私に魔眼があることが判明してから数ヶ月。私の生活は大きく変わった。それは、訓練内容に魔法が加わったこと。
私は覚えやすいよう就寝前に端から端まで魔法書を叩き込んだ。使う言葉は異世界語で、解読に時間がかかってしまったのが痛い。
百五十音ある言語。英字に似た歪な文字は、英字の向きを変えただけという、法則が見えてきた。それから勉強は進んでいるんだけど。
魔法は魔眼を持たない人でも使える。それでも初級下位魔法が限界らしい。初級下位は、日常に支障がない程度のものだった。
「ミカエラ。もう一度そのとる……」
自分が使えない詠唱句は、発音すらできない。それを知る機会にもなった。お父様がいった言葉を私が実演する。
「トルネリス!」
放った魔法は、風魔法の上級下位。中心に小さな竜巻が巻き起こり、花壇の花を揺らす。木々の葉もカサカサ音を立てた。
一般人が使える上位魔法は初級上位がやっと。だけど、魔眼を持つ私は、短期間のうちに上級魔法までを習得してしまった。
魔眼を持つ人は魔法への適正があるらしい。魔法舌的なものなのかな。難しい魔法でもコツを掴めば舌が回るんだよね……。
「まさか、弓がミカエラの魔眼を活性化させたとはな……」
そうお父様が言った。私の魔眼はどうやら、弓を持ったことで活性化したらしい。自分的には迷惑でしかないけど……。
このような形で、魔法を習うことになるとは思わなかった。むしろ、勉強することが増えたので、頭を抱えているくらいだ。
「ハイネスト!」
私は魔法を唱える。先程放った魔法は、広い庭の中心で爆風を起こした。トルネリスよりも強力なため、木の枝がちぎれる音がする。
そして、今練習している風魔法の中で最上位にある上級上位魔法だ。加えてこれ、私の大好きな魔法なんだよね……。
代わりにものすごく使い勝手が悪いけど……。
「ミカエラはすごいなぁ。まだ練習を始めて一ヶ月半だというのに、もう最上位の魔法を使えるようになるとは……」
「褒めすぎです。お父様」
「いやいや、私でも最上位魔法は使えないのだぞ? 先を越されてしまっては、褒めるほかないだろう」
「それは……」
ここ最近、お父様の親バカぶりが悪化した。私が弓を射ると褒めるし、的に当てると褒めるし、魔法を成功させると褒める。
さすがに、これ以上褒められると困ってしまう。魔眼の存在が判明する前は、お姉ちゃんのレイラと平等だったのが、私に傾いた。
それからはというものの、お姉ちゃんは私と遊んでくれなくなった。解体作業にも参加させてくれない。
まるで、私が生まれた直後のヤキモチを妬く姿は復活したようだった。かなり、嫉妬しているのかもしれない。
「お父様。あと数日で私の誕生日ですね」
これ以上褒めちぎられると困るので、話題を変える。八歳になると神様から天職を授かることになっている。
神から受け取るものは神具と同じ扱いになると、こっそりお父様の書斎に忍び込んで、本で見つけた。
「そうだな。時期が早いが、そういえばミカエラ宛の品が届いていたぞ? 見に来るか?」
「誕生日前ですけど、いいんですか?」
「いいんだ。誕生日から十日前後なら開けてもいいことになっている」
そういって、お父様は歩き出した。途中、お母様を呼ぶと三人で書斎に向かう。部屋に入ると、ソファーに座るよう言われた。
お母様とお父様が一緒に奥の物置へ入っていく。そういえば昨年弓を貰った時、お父様は真っ黒になってたっけ。
今では懐かしい思い出。今日も真っ黒で出てこないかなと思ったけど、そうはならなかった。
書斎の奥からでてきたのは、細長く大きな黒い箱。何故かお母様とお父様が一緒に運んでいる。
「フラン。やはりこの荷物は重いな……」
「そうですね……。エルヴィンだけで持てるかと思いましたが、二人で協力しないと持てないだなんて……」
そう言いながら、仲良く持ってきて机の上に置くと、三人で開封することになった。箱は黒いが一種のラッピングだったらしい。
紙を剥がすと、今度は白い箱が出てきた。三箇所の留め具を外し蓋を開けると、黒光りの金属が顔を出す。
銃身が大きいそれは、何故か脳が理解していた。
「これは何かしら?」
「さあな。こんなもの見たことがない。ミカエラ。君はわかるか?」
「え、あ、はい……。これは……。スナイパーライフルだと思います」
私には何故かわかる。この銃の正体が。これは前の世界で遊びに使っていたスナイパーライフル。名前はたしかヘカート……。
ヘカートは大人でも持つのが大変なくらい重い。だけど、なぜこの世界に……。私はそのフォルムに触れた時、多くの情報が流れ込むのを感じた。
前世で仲の良かった兄や弟。よく遊んだ公園。平日毎日通った高校。そうだ。私は死ぬ前高校生だったんだ。
現代日本でなにも不自由のない生活。心のない人が轢いた小動物を家の庭に埋め、私は毎日拝んでいた。
大学生で筋トレが趣味だった兄。勉強好きな中学生の弟。よく喧嘩をする双子の小学生。私は上から二番目だった。
「美香。お前は本当に動物を見逃せないんだな」
いつかの思い出だ。私の兄は小動物を埋める度同じことを言う。私の前世の名前は工藤美香だった。なんで忘れていたんだろう。
兄は私に甘々で、よく色んなところへ遊びに行かせてくれる。私が最後に行った場所、それは屋外のサバゲー会場。
家で本を読んでばかりの私は、一年以上前からサバゲーに没頭していた。最高に楽しい空間。身体も頭も動かせる場所。
だけど、私はそこで心のない人に殺された。いつかの神様が言っていた『銃でズバーン』そのまんまの意味で。
「みか……ミカエラ……。おい。ミカエラ!」
「す、すみません……。昔を思い出してました」
「昔。何をおかしなことを言う。ミカエラははようやく八つになるところじゃないか」
お父さん……。じゃなくてお父様の言葉で引き戻された私は、袖で目を拭った。今は新しい世界での生活なんだ。
私はヘカートを持ち上げようとする。しかし、結果はわかる通り浮かせることすら出来なかった。だけど一つ方法がある。
「エアー」
風魔法下級下位魔法。殺傷能力もなく、物を浮かせる程度の力しか持たない魔法で軽量化。そして魔法を継続したまま持つ。
この方法なら問題ないだろう。しかし、このへカートには違和感があった。あるのは持ち手と銃口だけで、トリガーがない。
「お父様。トリガーがありません」
「とりがー? なんだそれは……」
銃を知らない異世界人には意味不明らしい。だけど、魔法の中に弾丸として放つ魔法があったはずだ。そう考えている時。
「ミカエラ。これを見てくれ。君の天職に関する手紙だ」
「拝読します」
お父様から紙を受け取り目を通す。そこには、『暗殺者』と書かれていた。まさか私もお姉ちゃんと同じ暗殺者になるなんて……。
動物の死体を見たことはある。あれは二歳の時。お姉ちゃんのお手伝いで熊を解体した時だった。
それでも私は動物を殺したくない。殺せない絶対に。前世での行ないが台無しになるかもしれない。そう思ったから。
「ミカエラ。君の天職はなんだ?」
「え、えーと……。暗殺……者……です……」
「そうか。暗殺者か。やはり、ブライアントの血を受け継いでいるのだな」
「ブライアントの血?」
どうやらお母様はブライアント公爵家出身のようで、女系貴族とのこと。多くが暗殺者を天職とするらしい。
これは、運命ではなく必然だったようだ。私に逃げ道なんてないと、完全に諦めた。それしかなかった。
「そういえば、ミカエラ。君の夢は決まったか?」
「いえ、まだ決まってません」
「そうか……。早いうちに決めてもらえると嬉しいが……。無理強いはしないことにしよう」
「ありがとうございます。お父様」
そうして、私はヘカートを持ったまま自室に戻り、抱いたまま昼寝をした。今日は本当に身体が疲れている。
だんだんと意識が遠のき私が目を覚ましたのは、どこかで見たことのある神殿の中。高いステージの上で少年は笑っていた。
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次回、第1話に登場した神の名前判明!




