第6話 依頼と魔眼※イラストあり
後書きに主人公のイメージ画像を挿入しました!ぜひ!
「『失礼します』」
中には誰もいない。私はお姉ちゃんの隣に座り。お父様が来るのを待った。しばらくすると、ノック音が響く。
中に入ってきたのは、お父様と背格好の悪い男性。腰曲がりでそこそこ老いているような人だった。
その男性はポケットが沢山ついた白衣を着ていて、ショルダーバッグを下げている。見た目は悪いが新しいもの好きみたい。
「こちらが、王都で眼科医をしているシリウス・ヒューストンさんだ。私もよく通わせてもらっている」
「どうも。レイラ嬢にミカエラ嬢。本日はよろしく頼もうぞ」
「よろしくお願いします。ほらミカエラも」
「は、はい……。よろしくお願いします……」
私の顔を見たシリウスさんは、グイッと近づいてくる。その圧は、そこまで嫌ではないけど、困りものだった……気もする。
「ふむ……。ミカエラ嬢の目は少々特殊よのう……。その目は誰かに似ている気もするが……。誰じゃったか……」
「え、えーと……」
「そうだ。ワシの孫じゃ……」
勝手に進めないでよ! こちらは、めちゃくちゃ気まずいんですけど。シリウスさんは、満足したのかソファーに座る。
部屋の空気は相変わらずローズの香り。それが、少しずつ眠気を誘ってくる。この香り、なんか慣れない……。
「シリウスさん。それで、レイラへの依頼とはなんでしょう?」
「ハイハイ。最近ワシの近所がうるさくてのう……。どうやら、窃盗が頻発しているそうじゃ。そこで、頼みたいことが一つ」
なんか、物々しくなってきた。これって、もしかして……。私が聞いても大丈夫なやつ? なんか、やばい予感しかしないんだけど……。
隣のレイラは真剣な表情をしている。かなりの緊張感が、緊迫感が立ち込める。
「ブライアントの暗殺者よりも腕利きがいると聞いてレイラ嬢にお願いしたいのじゃが……。窃盗犯に盗まれたものを取り返して欲しい」
「なるほどです。手段はどうしましょうか?」
「取り返せるのならなんでも良い。この件は王都の国王にも通達して承諾をもらっている。ぜひとも解決してもらいたいんじゃ」
「わかりました」
これがレイラお姉ちゃんへの依頼。私はどう反応すればいいかわからず、じっとお父様の方を見た。
「ミカエラも気になるかい?」
「い、いえ……私は……」
お父様に言われて事を把握すると、お父様は一枚の紙を取り出した。これって……。
「お父様、これは魔法紙ですよね?」
「契約用のな。シリウスさん。血判いいですか?」
「承知」
シリウスは用意された針で自身の右手人差し指を針で刺し、指紋を紙へつけた。これで契約は完了。
ここからが本題だというような空気になってきた。私が本当に居ていいのか。それが、なんとなく場違いな気がして……。
「では、シリウスさん。わたしへの依頼を詳しく教えていただけますか?」
「わかりました。窃盗の的になっているのは、こちらの魔道具です」
シリウスさんは、ショルダーバッグから一枚の写真を取り出した。フルカラーではなく、薄ら色が付いているだけのもの。
私としては輪郭がよく見えない。だけど、それをお姉ちゃんが持ち上げると、角度を変えながら眺めていた。
「これは、何をする魔道具ですか?」
お姉ちゃんが問いかける。
「録音機の役割をする魔道具じゃ……。医師や商人の中では最重要アイテムでな。盗まれた一部の魔道具には、国王が録音した未発表のものもある」
「そうでしたか……」
お姉ちゃんは写真を机の上に置いた。私の隣でため息をつく彼女には、どこか呆れのようなものが見える。
「いつ頃からこの事件が?」
「一ヶ月ほど前かのう……」
「一ヶ月前……。ブライアント側はなぜ引き受けなかったのですか? わざわざ、わたしを指名しなくとも、早急の対応はできたはずです」
「それは……」
お姉ちゃんの質問攻め、これにはお父様も青ざめている。たしかに、お姉ちゃんの考えは間違ってはいなかった。
ただ、お姉ちゃんがブライアントを勧める理由がわからない。せっかく、シリウスさんがお姉ちゃんを選んだのに……。
「ブライアント公爵家の暗殺部隊は、現役を引退している者が多いんじゃよ。だから、若い衆に頼むことにした。適任と見たのが、レイラ嬢というわけよ……」
「そうですか……。なら、なぜ一ヶ月も待ったのですか?」
お姉ちゃんの質問は止まらない。私はシリウスさん側について、助け舟を出したいくらいだけど、それは叶いそうになかった。
「レイラ。質問をするのはそこまでにしないか? シリウスさんもご高齢だ。もしかしたら抜けている部分があるだろうが、詮索するのもよくない」
「わかりました……。お父様」
お父様の言葉で一旦終わり、お姉ちゃんは『情報収集をしてから、実行させていただきます』といって、退室した。
ここには、私とお父様。シリウスさんの三人。机の上に置かれた写真。私はそれを拾い上げて、ジッと見つめる。
見た目は懐中時計のようなもの。真ん中にボタンがついていて、凄くシンプルな形状だった。
「ミカエラ。それを見て思い当たるものはあったか?」
「え? あ、はい……。シリウスさん。これは本当に魔道具なんですか?」
「間違いないはずじゃ。これでも若い時は魔道具を主とする商人をしていたからのう……。見間違えるわけもない……」
「そうですか……」
私はシリウスさんの目を見る。嘘の場合、瞳孔が激しく揺れているはず。だけど、シリウスさんの目にその様子はなかった。
汗もかいてない。シリウスさんがいったことは、真実で間違いないとみる。私は写真を机に戻した。
「それで、エルヴィンさん。今日診察して欲しいというのは、このミカエラ嬢でいいのかね?」
「はい。彼女の視力に関して、よくおかしなことを話すのですよ。今日は太陽が近すぎると、空を見上げた直後真下を向きましてね」
「そうかそうか……。ミカエラ嬢、少々、ワシの隣に来てくれんかね」
私は頷いて、シリウスさんの隣に座った。優しいミントの香りが鼻につく。ものすごく目がスースーしてしまい、右袖で拭った。
シリウスさんがショルダーバッグからミニライトを取り出す。そして、私の瞳の光を当てた。
瞑ってしまいそうなるが、シリウスさんの指で目いっぱい開かされているので、閉じることができない。
「ふむ……。ワシの孫もそうじゃが……。ミカエラ嬢も宝石魔眼の持ち主で間違いなさそうじゃな……」
「宝石魔眼……ですか?」
お父様がシリウスさんに問いかける。
「そうじゃ。宝石魔眼は希少でのう……。世界を全て見透かすことができるとまで、噂になっておる。魔眼商人という者が存在するくらいだ」
「魔眼……商人……」
「そうじゃ。魔眼を持つ者を捕らえて、その瞳を売り金儲けをする違法商売人での。ミカエラ嬢もいずれ狙われるかもしれんわい」
そういって、シリウスさんは道具片付ける。私は元いた場所へ移動した。そんな中、私は考えていたことがある。
なぜ、シリウスさんはお姉ちゃんを選んだのか。それが未だに謎だった。だけど、聞いてはいけないような気もした。それでも……。
「お父様。お姉ちゃんの天職って、何なんですか?」
「そうだな……。そろそろミカエラも八つになる。天職を授かる頃合いだ。今なら話せるな……」
「はい」
最初からずっと立っていたお父様は、ここで初めてシリウスさんの隣に座った。私は、緊張して溜まった唾を飲み込む。
「ミカエラ。しっかり聞いてくれ」
「はい……。お父様」
「君の姉。レイラの天職。それは……」
お父様が少しだけ間を開ける。そして、わざとらしく咳き込むと、こう続けた。
「暗殺者だ」
暗殺者。影から人の命を奪う職業。そこで、私は思った。彼女がお母様のようになりたいと言った理由。
それは、お母様も暗殺者であったということに……。




