第50話 旅立ちの準備
◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇
エレンの卒業式からしばらくして、私の家にはエレンとメウスが居候している。
なんでこのような状況が出来上がったのかはわからない。ゆえに毎日が私の取り合い。
そんなある日私の家に懐かしい面々が集結した。
「ミカエラさん。護衛任務お疲れさまです」
「ありがとうございます。シリルさん」
少し伸びた新緑の髪をなびかせるシリルは、真新しい鎧を纏っている。赤いラインが入った騎士団服。その姿はものすごく新鮮だった。
その隣には、犬耳を生やした男性がいる。セリンだ。セリンも少し緊張した顔をしていた。
今シャーロット領は冬の終盤。時の流れは早く肌寒い空気が流れている。
「ミカエラさんと、エレンさん。それとメウスさんの補助をすることになりました」
シリルはそう切り出すと、蝶の模様が描かれたネックレスを人数分取り出した。
「これは、ギルドで申請してもらったメンバー証明紋です」
「ありがとうございます」
「この紋章があればこの王国のみならず、他の種族の国にも無償で入ることができるんですよ」
シリルからネックレスを受け取ると、それを首に下げた。だけど一つだけネックレスが多い。
もしやと思い、自室からヘカートを持ってきた。軽く投げると、ヘカートは人の姿になる。
「ティア。これ下げて」
「いいの?」
ティアは不思議そうな顔をして、ネックレスを手に取った。首にかけると、金色の模様が浮き出る。
「うわぁ。すごい」
嬉しそうにはしゃぎ回るティア。強制的に銃に戻して魔法で回収する。
数秒間脳内で彼女の愚痴が聞こえたが、無視しておくことにした。
「では、これから向かう場所を決めましょう」
「それよりも、なんでセリンさんが?」
そうだ。私たちに用があるのはシリルだけのはず。なのに、一緒に行動をしないセリンがここにいる。
「ん?」
「えーと……」
「あ、ああ……」
なんかグダグダになってしまう空気感。セリンは私の手元を見ていた。そこには、回収して愚痴中のティアがいる。
「もしかして、ヘカートのメンテナンスですか?」
「そうだが……」
「じゃあ、お願いします」
「おう。じゃあ、明日また持ってくる」
私はヘカートを預けると、残ったメンバーで食卓のある部屋へ移動した。
中では、お母様とレイラが料理中。最近レイラが作った料理しか食べてない。
「準備できましたよー」
「ありがとうございます。お母様」
食卓には、チーズナンとカボチャのシチュー。そこへ牛肉のサイコロステーキに、サーモンのチーズ焼きなど。どう考えても胃にたまりそうな料理が並んだ。
ちなみにサイコロステーキとサーモンのチーズ焼きは、シリルの好物らしい。
「ではいただきましょう」
シリルがそう言うと、サイコロステーキをフォークで刺して頬張る。
「エレン、またチーズナンをリクエスト……」
「負けないぞー」
「『メウスはやりすぎ!』」
いつかあった懐かしい思い出。今日も張り合うメウスに、それを笑う仲間たち。
「次に行く場所はどこにしましょうか?」
「ほうあね。いふぁーうお……」
「メウスさん。食べながらはお行儀が悪いですよ」
「うっく。やっと飲み込めた……。リザークのことを調べたいから、グラーシア領に行くのはどうかな?」
「グラーシア領?」
昔聞いたような名前。だけど、そのグラーシア領には一度も行ったことがない。同時に、お母様の故郷があるブライアント領にも踏み入れたことすらない。
「その、グラーシア領って?」
「ボクの祖父の家がある領地ですね。あそこは魔族信仰が強くて、魔族研究も盛んに行われています」
「そうだね。あと、この国屈指の工業領地でもあるから。日本ほどじゃないけど加工施設は沢山あるよ」
するとこの話を聞いていたらしいレイラがキッチンから出てきて、椅子に座った。
「この家にある調味料のこと。ミカエラも覚えているんじゃないかしら?」
「え。えーと……」
「胡椒の実をグラーシア領に送って、加工してもらってる。昔お母様が言っていたことよ」
言われてみればそうだ。お母様とお父様はグラーシア領とも関わりが深いことも、小さい時に教えてもらった。
そうしている間に、チーズナンが消滅していることに気づく。レイラは席を立つと、追加を持ってきた。
「エレンさん。食べる量増えました?」
ふとお母様が質問をする。
「食べる量多分増えたかも。まだ入りそう……」
「エレン。腹八分目だよ」
「メウスに言われたくないやい!」
まさかの言い返し。これにはメウスも想定外だったようで、しゅんと顔をうずめる。
これまでのツケが回ってきたってこと。エレンもこの時を狙っていたのかもしれない。
食卓はものすごく明るく温もりのある空間になった。家族と笑いあえるのはしばらくないのかもしれない。
それには、自分の成長と共にやってきた寂しさもあり、行動を変えられないのも事実。
「では、最初に向かう場所はグラーシア領にしましょう」
シリルがシチューをスプーンで掬いながら、決定案を伝える。私はそれに頷いた。
メウスやエレンも異論はないらしい。そこへ、セリンも合流する。
「セリンさん。早かったですね」
「まあな……。いくつか問題が出てきた」
「問題?」
「ああ。だが、これはしっかり突き止めないとな……。ヘカートは返しておく」
セリンが私にヘカートを返却する。セリンでも解決しない問題。
颯爽と彼は部屋から出て消える。
「なんだったんだろ」
「さあ? そろそろ、僕たちも出発しましょうか。結局チーズナンを五枚食べてしまったし」
「エレンそれは……」
彼の言葉には、他メンバーも頷き。
「『食べすぎ!』」
同じタイミングでツッコミを入れられるのであった。
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