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転生令嬢は暗殺者となり、異世界勇者を護衛する ~動物すら殺せない公爵令嬢ですが、こんな私でも魔王は倒せますか?  作者: 八ッ坂千鶴
第4章 ベルンライト領にて

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第37話 メウスの方程式

 ◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇


 なんで……なんでメウスがいるの? 私は困惑と混乱に頭を抱えた。彼はベルンライト公爵家で休んでいたはず。


 だけど、今彼はエレンに一振の剣を渡そうとしている。私は、その様子を見守ることしかできなかった。


「エレン。これ貸すよ」


 メウスはエレンにそう言う。エレンは少し戸惑うように剣に触れた。

 

「これは」


「聖剣ゼノン・レグスレイブ」


「聖剣!?」


 私はその様子をただ見るだけ。エレンは聖剣を受け取ると、力強く振った。彼の覚悟が定まった感覚。


「シリル先生! 加勢します!」


「ちょ!?」


 戦場を駆け、実姉のレイラと交戦するシリルが驚きの表情を浮かべる。エレンは止まらない。


 真っ直ぐ地面を蹴り、シリルを取り巻く魔族を切り裂いていく。その動きには迷いが無かった。


「メウス。あれって……」


「本物だよ。ぼくの見立て通り、エレンを気に入ってくれたみたいだね」


「え?」


 エレンを気に入ってくれた?


「あの剣はね、意思を持ってるんだ。昔の文献によれば、原初神ゼノンの意識が宿ったとされている。ゼノンは、多くの魔王を倒し、平和を願う象徴になった初代勇者。それから、勇者と魔王の因縁伝説が始まったんだ」


「そうなんだ……」


 メウスの解説も無駄がなかった。要点だけを伝える。それだけでありがたい。私はこの戦場を見ることしかできない。役立たず。


「ミカエラは、この状況をどう打開する?」


「え?」


 メウスの突然な質問に、私はどう答えればいいかわからなくなった。私だって加勢したい、だけど魔族も生きている。


「メウス。私にはわかりません……」


「そう」


「こういう時に限って『あ、そ』って言わないんだね……」


 いつものように流してくれればいいのに、欲しい言葉を言ってくれない彼が、まだ本格的に回復してないと教えてくれる。


 そんなメウスは、どこから出てきたのか不明な一本の一リットルボトルを持っていた。中には銀色に光る水。


「メウス。それは?」


「ここの聖水だよ。ミカエラ。ちょっとしゃがんで」


「う、うん」


 私は体勢を低くした。直後、メウスが聖水をかけ始める。滝の水に含まれた魔力は非常に濃く、心の棘を綺麗に取り除いていく。


「これで君にかかった呪いは解除されたはず。ぼくの手に触れてみて」


「はい」


 私は疑心暗鬼になりながら触れた。弾かれる感覚はしない。そのまま手を握りしめる。本当に、私が受けたメウスの呪いが消えた。


「これでまた、三人で寝れるね」


「ですね」


「じゃ、この戦場を片付けますか……」


「え?」


 メウスの身体が宙に浮かぶ。瞬間。巨大な魔法陣が生成された。黄金に輝く模様から、小さな魔法陣が無数に現れ――。


「テンペストリア! シャフロム! レイネス! アクト!」


 詠唱が響いた時には戦場の魔族が全員消しとんでいた。私には彼の強さがどこから出てくるのか。魔力量の限界すらも理解不能。


「ふぅ……。久しぶりに使ったから疲れるねー」


「そうは見えないけど……」


「そうかな? 前にこの魔法使ったのは……二十年前くらいかなー」


 メウスにとっての二十年前は、昔なのか最近なのか。突然幕が閉じた戦場に、棒立ちになるシリルとエレンがいた。


 その先には、レイラが立っている。


「ヤホー! レイラ!」


「ヤホーじゃないわよ。やってくれたわね」


「どもでーす! 乱入最高!」


「メウス。アンタ、ばっかじゃないの?」


 レイラが怒っている。そして聖水を被ったからか、武器の魔力まで見えるようになった私は、レイラの装備を注視した。


 邪悪なオーラ。あれがきっと神殺しの剣。


「メウス! レイラは神殺しの剣を持ってます!」


「ミカエラサンキュ! ま、ぼくも把握済みだけど。これくらいよゆーよゆー!」


 メウスは緊張感がないのか、身体を伸ばし始めた。いつレイラが斬りかかっても不思議ではない。


「じゃ、シリルさんとエレンはどいてて」


「はい」「了解いたしました」


「レイラー。ぼくと遊ばない?」


 神殺しであるレイラに挑発をするメウス。レイラは剣を強く持ち、歯を食いしばるようにメウスを睨んだ。


「アルバスを逃がしたのは、メウス。アンタだったってわけね!」


「うん。そーだよー。君も、神殺しの剣。どうやって手に入れたのかなー」


「教えるわけないわよ! あのまま死ねば良かったのにね」


 先にレイラが行動を開始した。神殺しの剣を持っている以上、メウスはどう足掻いても劣勢。私には、攻略法なんて導き出せない。


「まずは一撃!」


 レイラはそう宣言してメウスに斬りかかった。その刃を素手でガードするメウス。まともに攻撃を受けていれば、彼の命が危ない。


 なのに……。


「効かないね。言っとくけど、今のぼくは無敵だから」


「無敵ですって!? 受けた手を見てみたらどうかしら?」


「うん。黒くなってるね。でも、その剣の数値。全部計算済みだよ!」


 一気にレイラを引き寄せ、そのまま投げ飛ばす。少年の姿なのに、力が強い。同時に剣がくい込んだようで、全身が黒く染まる。


「ふぅ……。じゃ、ここから本気出しますか……」


 真っ黒になったメウスは倒れることなく、両足で立っていた。一気にレイラへ接近し、再び神殺しの剣を鷲掴みする。


 バキン。何かが折れる音がした。


「わ、わたしの剣が……」


「最初からヒビ入ってたからね。硬いものでも切ろうとしたんでしょ? ぼくと戦った時点でその剣の耐久値残量は十五パーセント。ヒビを四十度から三十度手前に引き寄せれば、簡単に折れる。そもそも神殺しの剣は一回神を切れば、耐久値は半分以下。プロの神殺しなら、魔族の生贄数関係なく断罪と錬成を繰り返す。加えて、ぼくは一度死にかければ、全部を対処できるようになるからね。同じ手は効かないと約束するよ」


「……。わたしの負けね……。じゃあ、ひとつだけ伝言よ。ミカエラの冤罪を解きたければ、リザークを殺すこと。わかったわね憎き妹とその仲間たち」


 レイラはそのまま煙になって消えた。メウスに聞けば、これはリザークが得意とする幻影の魔法玉らしい。


 戦闘が完全に決着し、私はメウスの治療に入ろうとする。だけど、メウスは滝壺の方へ歩いていた。柵を乗越えて、そのまま落ちる。


「うー! 聖水気持ちいい!」


 まあ、とりあえず楽しそうでなによりの、いつものメウスだった。

メウスの余談ですが、お酒が大好きです。


ってことで、次回。メウスのお酒パーティ!


飲みすぎ注意!!!!

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